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Hero×Magic  作者: sanagi
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1話

 トラック二台がとある家の前に止まる。

トラックから複数人の男性が降りてくる。

そのうちの青年が空を見上げた。

雲一つない晴天である。

「今日は快晴。いい引っ越し日和っすね」

「おお、そうだな」

眩しい笑顔の大学生のバイトの青年・井上に答えたのは、赤志勇真。

大学生ばかりのアルバイトがいるこの空間の平均年齢を引き上げる、もうすぐ三十路を迎える青年である。

ツンツンした黒髪の典型的日本人だが、周りの青年たちより背が高く、体格がよく、筋肉がついている。

この仕事をするにあたって、制服はないために、無地のティーシャツにジーンズとシンプルな服装である。

(この青さ、あいつを思い出すなあ。元気でやっているんだろうか)

昔を懐かしんで、空を眺める。

「お前ら、よくそんなのんきなこと言えるよな」

「第一、引っ越しじゃねえし」

別の青年たち・上田と田中は空ではなく家を見ていた。

何の変哲もない、ちょっと豪華な家。

「本当にここがそうなんすか?」

「ああ。持ち主が不審死を遂げ、その後も怪奇現象が多発する幽霊屋敷」

青年たちがぞろぞろと入っていく。

「うわ、寒っ…!」

六月の終わりで、まだ梅雨明けしてはいないものの、奇跡的に晴れて、最高気温が30度超えると天気予報で話していた。

「上着持ってくれば、よかったな。鳥肌立ってる」

「いや、絶対何かいるだろ!」

「薄気味悪いし」

「そうか?俺には普通に暑いんだが」

「本当だ!赤志さん、さすがに筋肉あるだけ、あるっすね」

井上が、勇真の腕に触れる。

「何であいつら平気でいられるんだよ」

「まあ、赤志さんこういう現場に慣れているらしいから」

上田と田中は、二人を呆れながら見ていた。

この家の持ち主は、70代の年配の男性。

数十年前に離婚してからは、再婚をしないで何人も女性を連れ込んでいた。

離婚する前から、愛人がいたので、それが離婚の理由らしい。

そんな持ち主が惨殺遺体で発見され、前妻とその子供は遺産を放棄していたために、愛人たちに分けられることになったぎ、家で不審なことが起きるので、まだ分配されていない。

また、前妻たちも愛人たちもアリバイがあり、まだ犯人は逮捕されていない。

(確かに何かいるな。人を害する何か)

勇真は、天井から感じ取った何かをにらみつける。

(でも、俺霊感とかないから、直接干渉できねえんだよな)

はあ、と大きくため息をついた。

家から運び出した物に憑いてくるかもしれないし、物自体が曰く付きでもあるので、一度お寺でお祓いするか、どうにもできないものは破棄することになっている。

そのため、この場の人間のすることはトラックに詰めることだけで、後は専門家が対応してくれるということだった。

「何かあるといけないから、まとまってやろう」

この場のリーダーの上田に言われ、まず書斎の荷物をまとめることになった。

「高価なものいっぱいっすね」

「壊すなよ。補償に一生かかるぞ」

「ひぇ…」

井上は初めて冷や汗を流す。

「まあ、壊れても幽霊の仕業です、ってことで済ませられるだろ。実際、それで壊れているものあるし。確か、ポルターガイストとか何とか」

「廊下の窓ガラスとか、玄関の花瓶とか割れていたの、そういうことか」

雑談しながらも、手早く作業を進めていく。

バイト代の高さに惹かれたものの、実際家に入ったときの気味悪さから、早くおさらばしたいと考えていたからだ。

そのとき、井上の背後にあった本棚がぐらりと倒れてくる。

その本棚にはまだ手をつけておらず、中身が満タンに入っており、ガラスの戸で、その本棚に押しつぶされたら、タダでは済まないであろう。

「逃げろ、井上!」

「え…」

それに気づいても、とっさには動くことはできなかった。

もうダメだと、あきらめて目を閉じた。

しかし、衝撃はいつまでもやってこなかった。

恐る恐る目を開けると、本棚を支える勇真がいた。

「これ、すげぇ重いな。大丈夫か、井上」

「は、はい」

よいしょ、と本棚を元に戻す。

「こんな重そうな本棚勝手に倒れたりしないよな」

「やっぱり、この家には…」

上田と田中はガクガク震えている。

命の危機を目の当たりにしたことで、口も動かさず、さらに手を早めていくのだった。

 家の片づけを進めていき、夜7時頃になる。

まだ、日が完全には暮れてはおらず、夕日のオレンジと夜の黒、中間の紫とグラデーションになっている。

トラックには満タンに詰められ、家の前を去って行った。

「結局、こんな時間までかかっちまった」

「まあ、あれ以来何事もなかったから、よかったが」

上田と田中は揃って、勇真を見る。

「あの本棚、本を仕舞った後も、重かったよな」

「二人がかりでも運べなくて、結局赤志さん一人に運んでもらった」

「あの人、どれだけ怪力なんだ」

勇真は疲れたようで、あくびをしている。

「あの、赤志さん!」

井上は勇真に駆け寄る。

「どうした、井上」

「あのときは、助けていただきありがとうございます!」

バッと、風を感じる勢いで頭を下げる。

「いやいや、俺はたまたま近くにいて、持てただけだから」

「でも、あの本棚に潰されたら、もしかしたら命もなかったかも」

「不穏なこと言うなっての」

軽く頭をチョップするが。

「んぐっ…」

井上は頭を抱えて、うずくまってしまう。

「え、悪い。強くやりすぎた」

あまりの痛がりように、勇真は動揺する。

勇真のトラウマを呼び起こしてしまう。

「いや、大丈夫っす」

耐えながらも、ゆっくり立ち上がる。

「あのときの赤志さん、マジでヒーローみたいで、かっこよかったっす」

にっと、井上が笑いかける。

ズキッと、勇真の頭が、心が痛み出す。

「ほら、10年前くらいにいたじゃないっすか。多分、赤志さん同年代くらいじゃないかな」

「俺は、ヒーローなんかじゃねえよ」

「赤志さん?」

うつむく勇真を心配して、体格差のある勇真を井上が見上げる。

「おーい、赤志さん、井上ー」

「この近くに居酒屋あるの見かけたから、行こうと話してたんだが、どうする?」

上田と田中が二人に呼びかける。

「俺、行きまーす。お昼だけじゃ、足りなかったから、お腹ペコペコ」

「俺はいいや。大学生ばかりの若者の中に、おっさん一人いたら浮くだろ。お前らだけで楽しみな」

手をひらひら振り、勇真はこの場を去って行く。

「まあ、俺らとは10近く年離れているからな」

「ジェネレーションギャップつーか、話合わなさそう」

「でも、話してみると、けっこう気楽な感じっすよ」

去って行く勇真の背中を井上は見つめている。

「引っ越し業でよく顔を合わせて、重いもの運ぶときはすげえ助かるけどな」

「でも、力加減苦手みたいで、物壊すところも見かけるし。さっきも、井上軽く小突かれただけで、すげえ痛がってたろ」

「ま、まあ…」

まだ、痛みが収まっておらず、頭をさする。

「あんまり、近くにいたくねえなってのが、正直なところ」

「確かにたまに曰く付きなところもあるから報酬は高いけど、あの年で定職じゃなくて、こういう単発の仕事しかやらないのって、やっぱあの人にも問題あるんじゃねえの」

「悪い人じゃないと思うっすけどねえ」

後ろ髪を引かれながらも、井上ら三人も家の前を去って行った。

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