買い物
モニカが来たのは、ダイバーにおいて冒険者ギルド・薬師ギルドとなる組織・海底ギルドである。最大の違いは、海底ギルドの冒険者、薬師が大切に扱われていることだ。また、こちらは市が運営しているのに比べ、冒険者ギルドは民間での運営である違いもある。
立ち入って、新しく薬師カードを発行する。薬を作って依頼を終えたあと、路銀を使って少女に薬を買った。……そろそろ所持金が底をつきそうだ。服に関してはネルから「使え」といくらか渡されているが、モニカはそれとは別に魔力加工瓶やらも買っておきたいのだ。
ということで、薬を調合するときに便利な魔石を買いに行くことにした。
魔力容量が大きめな、大ぶりの魔石を一つ買った。シスターアメリアのネックレスの魔石と同じくらいの大きさだ。
その他にも魔力加工瓶や器具の手入れの道具、薬草等を買って、最後に服屋へ訪れた。
どれも一級品。ネルからのお金がなければ絶対に買わないだろう。できるだけ安い旅装を適当に見繕ってさっさとお店を出るつもりだった。
一つ一つ値札を確認していると、にこやかな少女が話しかけてきた。
「かわいらしいお嬢さん、いらっしゃいませ!」
「はあ……」
背の低い少女に合わせて屈みながら、モニカは曖昧な反応をした。何と答えればいいものか、とモニカが困っていると、キラキラとした目で、少女は言った。
「それよりもお嬢さんに似合う、もっとかわいらしくて性能がいいの、あちらにあるんですよ! ご案内いたします!」
「いえ、わたしは……」
「お立ちになって。ご案内しますから!」
悪意のない強引さに負け、モニカは立った。まあ、自分が多少時間を使う程度で少女が笑顔になってくれるのならお安い御用だ、と。
ネルは宿をとるなり、真っ先に服屋へと向かった。いらっしゃいませ!と快活な少女にただ一言、
「このお店で一番性能がいい服をくれ」
とだけ。少女は小首を傾げて、
「お値段や見た目、かかっている結界魔法等の指定はございませんか?」
「ない。とにかく丈夫であればいい」
「……では、私の好みでも?」
「……お前の好みではなく、性能の良さで選べ」
そこでネルは、初めて目を少女へ向けた。少し不機嫌に眉根を寄せたネルに物おじせず、少女は一本、指を立てた。
「ここにある服は、どれも一級品を保証します。ですから、一番と言われても困るのです!」
自慢げにする少女にネルは腹が立って、ますます目を冷たくした。
「ああ、そうか。そういうことなら、好きにしろ」
「ありがとうございます! では少々お待ちください!」
ネルはどうも、子どもという生き物が嫌いらしい。ブーツがいくらか音を立てて床を殴った。
少女が服を取りに行っている間に、ネルは睨むように店内を見渡した。
どこもかしこも服だらけだ。そしてどれにでも魔法がかかっている。男性物も女性物も丁度半分程度の量があるようだが、表示がないためよくわからない。サイズと服のジャンル、かかっている魔法等で区分けされているのみなのである。
そういえば記憶のある限りではいつも自分は全く同じ軍服しか着ていない。ネルは少し考えると、近くの服をとってみた。
床に同じ魔法陣がいくつもあって、その魔法で服は宙に浮いているようだ。ネルはアデーレ嬢の宝石箱を思い出した。
貴族のご令嬢のパーティー用かのような華やかなドレス。ネルはそれをもとの位置に戻して、吐息を漏らした。
「どうすれば、過去の過ちを消せるのだろう」
ぽつりと声が落ちた。どこか寂しい雰囲気になったところで、少女が戻ってきて、ネルに見せてきた。
「こちらはいかがでしょう!」
黒を基調とした軍服のようだった。――ただし、スカートである。膝よりも少し長い程度の丈だ。
「お客様はお洋服を見るに軍人様でしょう? なら、カッコイイ軍服を召していただきたくて!」
少女に一切の悪気はないのだろう。キラキラと無邪気に輝く瞳に、ネルは言うべき言葉の端すらつかめない。
黙っていると、徐々に自信に満ちていた表情が落ちていった。ネルはなんとか言葉を絞り出そうとして、
「……私は、少なくとも八年はスカートを着ていないが」
「……スカートは正式には履くものですけど……。ええと、きっとお似合いになります!」
うんうんと頷いて、少女はふわりと浮かぶ服の説明をした。
「シックなカッコよさを出すために黒をメインにまとめました! 硬めの生地を使用した真っ黒なワンピースをベースに、パフスリーブでかわいらしさを増して、太めのベルトを使うことでシルエットをスタイリッシュにします。スカートの中にショートパンツを履いて、パニエでボリュームをつけると、ドロワーズのように女性的な印象ではなくなります! 差し色に御髪と同じ……真っ白な銀?と、御目と同じ真っ赤な魔石を使用しています! 真っ黒なペリースでカッコよくしました! お靴にも合うように気をつけました!」
「……肩のチェーンは? 飾諸を模しているようだが」
「チェーンにくっついているちっちゃい十字型の飾りが揺れて綺麗な音が出そうだなと!」
「……先ほど、ワンピースと言ったが、なぜ肩章が?」
「軍服だからです!」
ネルは全てを諦め、ため息を吐きながら少女を睨んだ。
「……いくら払えばいい?」




