幸せ
「東京駅に爆弾を仕掛けました。」
そう語る少年の動画が動画共有サイトにアップロードされた。それをみた人ほとんどが嘘だと思った。コメント欄には少年への誹謗中傷で溢れていた。
しかし、それは嘘ではなかった。動画投稿から30分後東京駅で爆発があった。幸い、それは死者0、怪我人数名という小規模の爆発であった。
8月13日午前3時27分、世界中を巻き込むテロの幕開けであった。
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『すぐにこいつの身元を特定しろ』
それは警視庁捜査一課長山田の言葉であった。
『身元を特定しだい、こいつの身柄を確保しろ!』
続けて山田が言った。
「大変な事件が起きたな〜伊藤〜」
捜査一課12係の関原は眠い目を擦りながらいう。
「眠そうですね関原さん。まず例の動画確認しました?」
ため息混じりに伊藤は答える。伊藤は正義感の強い人物である。このような事件は許せないと思っていた。
「いや、してない」
関原はタバコを吸いながら答えた。伊藤は呆れた顔しながらまだ削除されていない少年の動画を見せた。少年は色白で目が大きく、鼻筋が通っていて顔が整っていた。
「これ、16歳ぐらいか。こんなにばっちりと顔が映っていたらすぐに特定されるんじゃないか。。。しかし、まぁあれだな、こんな若いのに人生棒に振るようなことして何がしたいんだろうなこいつは。」
と、関原が言ったように少年の身元は事件発生から二時間もしないうちに特定された。少年は塚本凪、都内通信高校に通っていた16歳。元々は中高一貫校に通っていたが高校に上がるタイミングで退学。その後通信高校に通っていた。
「今から少年の住んでいた家に調査に行きますよ。」
伊藤がそう言って、関原と共に警察車両に乗り都内郊外にある少年の家へと向かった。家は小さなアパートの一角であった。
「うわ、なんだこりゃ」
関原は言った。部屋一帯に電子工作の部品がさながら工場のように広がっていた。誰もいなかった。部屋に関原と伊藤が上がると「警察の方へ」と書かれた手紙とお茶菓子が置いてあった。内容は「お疲れ様です。よかったらこれ食べてください」というものだった。
「しかし、こいつはなんとも余裕があるな。あと、こいつの家族はどうなってる。伊藤」
「3年前に両親は離婚、その画は父親に引き取られて、半年ほど前から父親は病気を患って入院していて、母親は未だ行方が掴めていないそうです。」
「じゃあこいつは1人で暮らしてたのかぁ。みるところ家には経済的にも余裕があって、事件の動機が見えないな。」
その後、関原と伊藤が警視庁に戻ら途中にコンビニに寄ろうとしている頃、少年、塚本の目撃情報が警視庁に入った。
その場所は彼らから車で数分のところだった。関原は伊藤に現場に急行するように言った。それから目撃情報があったところから数分のところに少年の姿があった。
「あいつだ、追いかけろ!」
関原がそういい、伊藤がハンドルを握って追いかける。少年は原付バイクに乗っているようだった。その時、近くにいた男が警察車両の中の伊藤に対して足を投げてきた。どうやら少年の協力者のようだ。伊藤は気絶し、関原がすぐに運転して追いかけるものの、2人に逃げられてしまった。
数時間が伊藤は警察病院で目を覚ました。近くには関原がいた。
「彼らはどうなりましたか。」
「逃げられてしまった。」
「申し訳ないです。僕が気を抜いたばっかりに。」
「まぁしょうがないさ、こういうこともある。それより、例の協力者だが、新しい情報が出たみたいだぞ。」
協力者の名前は日浦篤、17歳で塚本と同じ通信制高校に通っていた。
「まぁしばらくはお前も動けなないし、情報を待つしかないみたいだな。」
数日後、塚本が映っている動画が動画共有サイトにアップロードされた。伊藤はまだベッドの上だが、関原と一緒に動画を見る。
「前の爆発からそんなに時間が経ってはいませんが、お楽しみ、なぞなぞ大会をはじめます~。警察のみんなはこれが解けたら次の事件解決に一歩近づくかもしれませんね~。
耳鳴りがするようなところから争いを無くして、森に入ると、そこにはペイントが6ヶ所ありましたとさ。
さて、それはどこでしょーか。」
「なんですかこれは脈略がなくて意味不明ですね。耳鳴りがするようなところってどんなところなんでしょうか。」
伊藤は眉を顰めながら考えていた。
「耳鳴りがするってことは静かな場所か。でも、争いとか森とかペイントってなんのことなんだ。」
ベテラン刑事の関原でも見当がつかない様子であった。
ネット上でも様々な考察がなされていたが、すぐには答えが出そうになかった。
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数日後、最悪なニュースが伊藤と関原の耳に飛び込んできた。核物質が何者かによって盗まれたのだ。
現場の原子力燃料施設のある青森県六ヶ所村での、防犯カメラの映像には二人組のバイクに乗った二人組の男が映されていた。
実際に塚本と、日浦の2人を見ていた関原は彼らだと確信した。
「核物質に手を出すなんて、彼らはこの世界を終わらせたいんですかね。こんなことが世の中に知れ渡ったら世界中がパニックになりますよ。」
すっかり回復した伊藤はいつもの間抜け顔で言った。
警察も日本政府も流石にこのことを発表する時期についてはまだ考えてるようであった。関原が聞いた話によると、米国政府も介入してきているということであった。
「あいつのなぞなぞはどういう意味だったんだ。日本中が考えていたのに、、、」
流石の関原も疲れ切っている様子で言った。
「六ヶ所というのは六ヶ所村という意味でしょうね。耳鳴りのするようなとこっていうのは静かな場所だと思いますが、、、」
伊藤は答えた。
「あぁそうか、今になってようやくわかった。静かな場所から争いをなくすと青になって、それに森で青森なんだ。それから、ペイントというのは書くという意味でそこから核物質のことを意味してたのか。。。あまりにも気づくのが遅くなりすぎた。このままだと本当に大変なことになる。」
関原は相当焦っている様子だった。当然である。すぐに捕まえなければ大惨事になるのは目に見えていた。
『塚本、日浦の両名をすぐに捕まえろ。各県警にも協力を要請して、大規模な検問を実施させろ。』
警視庁捜査一課長の山田は声を大にしていった。
数時間後、大規模な検問も虚しく2人を捕まえることのできてないなか新しい動画がアップロードされた。
「日本の皆さん、どうやら僕の勝ちのようです。少しばかりのゲームを楽しんでもらえましたか。数日後またら大きなサプライズがあるのでお楽しみに。」
そう塚本はコンクリート打ちっぱなしの無機質な廃ビルのような場所で語っていた。日本中の人々が何が起こるかわからなく、パニックになっていた。すぐに動画の撮った場所は特定でき。現場に急行したものの、現場には誰もいなかった。
警察に対する不信感も高まっていた。日本の警察は優秀だと信じてやまない人々は次第に、日本政府が裏でこの少年と関わっているだの言い出していた。しまいには、アメリカ政府が操っているなども。警察は威信をかけて捕まえようとしていた。しかし、それも虚しかった。
関原はどうしてこのようなことをするのか動機を知りたくてたまらなかった。そのため、自ら塚本にSNSを通じて話しかけることにした。
「どうしてこんなことをするんだ。今からでも遅くない、やめた方がいい。」
と必死な顔をした関原はカメラの前に語りかけ、警視庁のアカウントで彼のアカウントに送った。
彼からの返信は、「産業社会に未来はない」という意味不明なものであった。
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それから数日後、高高度核爆発により日本の電気系統は麻痺、日本だけ数百年前のような暮らしをすることとなった。それから数十年、外国からの支援は数年で底をつき、日本は人間も含めて動物の楽園となっていた。つまり、皮肉なことに、笑顔の回数から測定される幸福指数では日本人だった者たちは世界の中で最も高くなっていたのである。