第8歩:「何かありそうですわね……」
「村長、色々ありがとう!」
「お世話になりましたわ」
「サンチラ! (ありがとうございました!)」
朝食を食べ終えた三人は、食器を片付け終えて玄関まで見送りに来た村長にお礼を言った。昨日の濡れたリュックサックとは違う、新品のリュックサックをアルタエルは背負い直す。
わざわざ濡れてしまったおにぎりを全て取り出し、昨夜炊いた米で出来る限りのおにぎりを作り、空いたスペースを乾パンで埋める優しさを見せた村長に三人は改めて礼を言った。
村長は照れ臭さを隠す様に顔を伏せると、早く出ていけというように手をひらひらと振る。
アヤメとアルタエルは顔を見合わせると、頷きあい、もう一度村長に頭を下げてから家を出た。
「さて、目指すわリンリバですけど問題はありませんわね?」
「勿論! リーズちゃんをちゃんと送るのもまた冒険だよね」
「……アル、昨日何かあった様ですわね? 何か吹っ切れた様な表情をしていますわ」
「えへへ、まぁね」
前を歩きながら二人の会話を聞いていたリーズは、突然足を止めて川を指差した。川の中から太陽の光を反射し虹色に光る魚が飛び跳ねる。
「コウモ? (あの生き物はなんですか?)」
「あ、レインボーフィッシュ! あの魚を見ると一日幸せになるって噂だったよね」
「レインボーフィッシュ?」
「あ、伝わった。レインボーフィッシュ! レインボーフィッシュ!」
レインボーフィッシュという名前自体は大陸を越えても同じだと気が付かないアルタエルは、驚いた顔をしながら元気に答える。隣にいるアヤメは、半ば呆れながらも微笑んで二人の後を追う。
「ミノワモホンヌアメアキスンハ? (二人はなぜ冒険に出ようと思ったんですか?)」
リーズは二人の顔を見比べてそう尋ねた。アヤメに助けを求める様に視線を送ったアルタエルに、
「なんで冒険をしようと思ったのか聞かれていますわ」
と教える。するとアルタエルは少し考えてから、
「お父さんの事もあるけど……うん、わくわくするからだよ!」
伝わらないと分かっていながらも目を輝かせ、リーズに言い聞かせた。
「ワクワク?」
「おぉ! また伝わった! わくわく!」
「ワクワク、カカママーサ……(いい響きですね)」
「そう! わくわく!」
アヤメからしたら呆れてしまう様な会話だったのだが、昨日の食事の席で見せていた暗い表情が明るくなっているのを見て、昨夜席を外した村長が何かをしてくれたのだろうと安心した。
それからもリーズは気になる物を指差しては二人に尋ね、どちらかが答えるを繰り返し、休憩を挟みながらも二時間ほど歩いて大きな街の入り口を見つけた。
「着いた! あそこがリンリバだね?」
「えぇ。あそこから船が出ているらしいので、リーズさんはそこを目指しているのでしょう」
「ふーん……。ねぇアヤメ、リーズさんはどこから来たのかな?」
「? どうしてですの?」
「だってさ、リンリバから来たならリンリバを目指す必要はないよね? コールから来たのなら、道中の物ってそんなに気にならないと思わない?」
「あぁ、確かにそうですわね……。ってあれ? リーズさんはどこに?」
「あれ、さっきまでそこに……あ、あれ」
二人してキョロキョロと辺りを見渡していたが、リンリバの入り口へと走っていくリーズの金色の髪を見つけたアルタエルが指差す。二人の事はもう視界に入っていなさそうだ。
「何かありそうですわね……」
「待ち合わせでもしてたのかな?」