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旅は道連れ世は情け  作者: siguhatyou
旅の始まり
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第4歩:「アル、少しは本音を隠すという事を覚えてくださいまし」

「わぁ……何もない」


 暗蔵の森を抜けると石畳の敷かれた村が二人の視界に現れた。門等は無く、森との境界は無い。

 石畳を囲う様にして黒い木材質の家が三軒並んでいる。それぞれの家は小さく、倉庫程度の大きさしかない。灰色の石畳と三軒の家だけがある小さな村を見たアルタエルの台詞が先程の台詞だ。


「アル、少しは本音を隠すという事を覚えてくださいまし」


 彼女の背後で顔に手を当てるアヤメ。二人の足音を聞きつけたのか、正面にある家の扉が少しだけ開かれる。来客の様子を見ようと中から一人の老父が顔を出した。

 二人の姿を見ると老人は驚いた顔をして扉を開いた。手に持った杖を頼りに直角に曲がった体をゆっくりと動かして外に出る。

 二人は慌てて彼の傍に寄り、体を支えようと手を伸ばすが、老人は優しく笑って首を横へと振った。


「ご丁寧にありがとうございます。幼い頃お会いしたのを覚えておりますよアルタエル様とアヤメ様。まぁお二人は遊びに夢中でしたので覚えていないかもしれませんが」


「え、私達の事を知っているんだ?」


「勿論覚えておりますとも。お二人だけで来たという事はもう十六になられましたか。今日から行くのですかな?」


「そう。まず初めにこの村に来てみたって感じかな。初めて来たけど……その、静かそうな村だね」


「私は二度目になりますね。幼い頃の記憶なので曖昧である可能性もありますが、随分と村の様子が変わっていますね」


「あ、なんだアヤメも勝手に村を出たことがあるの?」


「失敬な。私はここより更に北にある大陸が出身であると昔に話したでしょう」


「あぁそっか、フォレステスに行く為にはここを通るのか」


「その通りです。全く、お騒がせアルタエルと一緒にしないでくださいませ」


「あー酷い人がいる!」


「はっはっは、相変わらず二人の仲が良いですな。さて、少々お待ちください。アルタエルさんが来たら渡してほしいと頼まれているものがある為、それを持ってきます。ただ待っているだけでも退屈でしょうから興味があれば私の家の庭に来てください。きっと驚きますよ」


 老父はそれだけ言い残すとゆっくりと小屋に戻ってしまった。二人は顔を見合わせると、リュックサックを手に持って家の脇を抜ける。明るい景色に目が慣れてきた彼女達の前に現れたのは落下防止用の高いフェンス。


「わぁ……!」


 その向こう側には太陽光を反射する先の見えない大海原が広がっていた。どこまでも続く水平線に二人は息を呑み、思わず鞄を落としてしまった。


「これは凄い……!」


 海から吹く暖かい風が二人の足元にある崖にぶつかり、急斜面を上って二人の全身を撫でる。


「良い風だ……あ、アヤメ、下にも人がいるよ! 何をしているのかな?」


「あれは漁夫の皆さんでしょうかね?」


「下にいる方達は漁夫もいれば荷物の搬入をする者もいますね。あぁいや、今日は商船が来る予定もない為、漁夫しかいないんでした」


 二人の疑問に答えながら現れたのは小さな瓶を持った先程の老人。小屋の裏にある扉から姿を見せ、手に持った小さな瓶をアルタエルの方へと差し出した。中には一枚の紙が入っており、何かペンで書かれているのが見える。


「それはアルタエル様のお父上、ルギウス様が残した手紙です。きっと来るから持っておいてくれと頼まれました」


「お父さんの……? ありがとう、あとで読んでみるよ」


「きっと喜ぶと思います。それよりお二人が興味あるなら降りてみますか? 荷物運搬用の昇降機で海岸まで降りられますよ」


「それは勿論!」


「降りるしかありませんね。しかし昇降機等どこに?」


「あぁ、あちらの小屋が入り口となっております。ちなみにもう一つは倉庫ですね」


「えぇ? この村って全然人がいないって事?」


 アルタエルは老父の指さした小屋を目指しながら二人の背を追う彼に声をかける。


「いえいえ、この下に人の手で作られた洞窟があります。そこで数十人が生活していますよ。地上にいるのは私と妻だけですね」


「ほぇぇ……」


 老父は小屋に近付くと、屋根から伸びている紐に手を伸ばした。アルタエル達がそれに習って紐を掴む。


「これをゆっくり引いて頂けますか?」


「分かった! あ、私達鞄どこやったっけ?」


「あぁ、落としたままでした。私がとってきますのでこちらお任せしてよろしいですか?」


「余裕!」


 アルタエルはそういうと紐をゆっくりと引っ張った。紐で繋がれた木材の壁がゆっくりと上に上がり、中から金属の大きな箱が姿を見せる。かなりボロボロになっているが、老父の言っていた昇降機のようだ。木製の箱の周りを金属の枠が囲っている。


「おぉ、これが昇降機。結構使われているんだなって分かる見た目をしているね」


「こちらも家も全て暗蔵の森にあるレアで作成されています。ボロボロに見えるかもしれませんが、かなり丈夫なんですよ」


「おぉ、だから黒い木材なんだね。あ、アヤメおかえり」


「はい。……ん? あれ、この昇降機に見覚えがありますね」


「アヤメ様が幼い頃に乗った事がありますね。ご家族に手を引かれながらこの昇降機に乗った事を喜んでいたかと」


「あぁそれで……」


「さて、乗ったら右にあるボタンで一番下を押してください。海岸に着くと思います。残念ながらこのご老体には厳しい為ここまでとなってしまいますが……お二人の旅が良い物になる事を願っております」


「あ、待って待って! 最後に良いかな?」


「はい?」


「ごめん、その、今聞くのはあまりにも遅すぎるんだけどさ……おじさんの名前ってなんですか?」


「あぁ、私とした事が名乗るのも忘れていました。私はジジと申します」


「そっか! ジジさんありがとう!」


 ジジと名乗った男性は笑って二人に手を振った。

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