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旅は道連れ世は情け  作者: siguhatyou
旅の始まり
3/120

第3歩:「ねぇアヤメ、私達は本当に旅に出ていいのかな? 良かったのかな?」

2024/1/5

加筆

 暗蔵の森は奇妙な木々の配置によって木漏れ日がほとんど入らず、暗い森だった。緩やかな傾斜のある足元に注意しながら二人は森の中を進む。


「随分暗い森なんだね……」


「まぁレア自体が黒い樹皮という事もありますが、広葉樹の為太陽光をかなり遮りますね」


「目が慣れてきたから良いけど、普段は全然見えないんだろうなぁ」


「特殊な森なだけあり、生息する生き物も珍しいですね。先程から木のうろでこちらを見ている生き物が何匹かいますが、フミンクと呼ばれる生き物です」


「あぁ、真っ黒な毛皮の子?全然襲ってくる様子はないね」


「その心配は要らないかと。彼等はレアの実しか食べませんから。黒い毛皮に黄色の瞳、愛嬌のある見た目から飼いたいという方が多数いるとか。まぁ光が苦手なのでかなり飼うのは難しいそうですが」


「え、レアの実ってそんな簡単に食べられなくない? 専用の割る道具が必要だよね?」


「あぁ、人間が噛んだら歯が無くなるでしょうね。フミンクの場合、身を丸ごと口に入れて溶かして食べるみたいですよ?なんでも唾が強力な酸だとか」


「木の実よりも顔小さいけれど、顎が外れたりしないのかな?」


「何かしら術があるのでしょうね。それに眠っている時にしかご飯を食べないという不思議な特徴があります。目を閉じたまま寝相の悪さで食べている様子から寝ているように見えないためフミンクだったかと」


「流石ぁ」


 アヤメの知識に感心しながら先導していたアルタエルはふと視界の端に動く物を見つけて足を止めた。暗い森の中で青白く光る何かが宙を舞っていた。


「久しぶりに見たなぁ……」


「ニセホタルですわね。夜や暗いところに現れる発光する蝶々ですね」


「綺麗だけど血を吸うんだよね。光を追って巣に行こうとしたらよく怒られたなぁ」


「そりゃ巣に行ったら数分後にミイラですから怒られるでしょう」


「怖いねぇ……」


 アルタエルは手を振ってニセホタルを追い払うと更に先へと進んだ。アヤメは転ばぬように気を付けながら背中を追う。

 しばらく進むと、緩やかな傾斜が平坦に変わり、徐々に森が明るくなった。


「んん? 夕日が入るには早いような――」


「まだ歩いて一時間程度ですからね。どうやら陽の光が入ってくる場所がありそうです。多分もう少し歩けば見えてくるかと」


「ほー」


 やりとりをした数十分後、アヤメの言う通り木々が無く日光が差し込む空間をアルタエルが発見した。光に吸い込まれるように二人はその方向へと足を向けた。


「おぉ! 池があるよアヤメ!」


「んん? あぁそういえば地図に記載があったような気もしますね。人工的に作られたのでしょうか?」


「……アヤメ、少し座っていかない?」


「あら珍しい、もう疲れまして?」


「ん、体力は全然大丈夫。ちょっとだけ話をしたいなって思って。丁度あそこに切り株が二つあるしさ。良い?」


「別に構いませんが……?」


 アルタエルが切り株に座り込むのを見てアヤメも隣に座る。森の中では互いの表情が見えず、声色が変わらなかったので気が付かなかったが彼女の顔が暗い事に気が付いた。


「……どうしました?折角楽しみにしていた旅の始まりというのにふさわしくない表情ではありませんか」


「うん、互いに十歳の時から今日の日を夢見たよね」


「えぇ、それは勿論」


「だよね。私もそうだった。だけど、私達って本当に旅に出て良かったのかなって思い始めたの」


「それはまた突然……不安にでもなりまして?」


 アルタエルは笑顔で喋っているものの、引き攣った笑顔となっている。出来る限りアヤメを心配させぬように気遣っての行動だったが、逆に彼女を心配させた。


「体調不良……では無いですわよね?村から出た実感がないとか?村が恋しくなった、何か忘れ物をした?」


 アヤメの質問攻めに対してアルタエルは首を横に振り続ける。


「あぁ、村長が見せた写真とか?」


「っ!」


 今まで首を横に振っていた彼女の方が跳ねるのをアヤメは見逃さなかった。図星であると分かったアヤメは目を泳がせる彼女の顔を見つめて言葉を待った。


「あ、あぅ……」


 沈黙に耐えきれず、アルタエルは俯いて声にならない声を発した。それでもアヤメは喋らずに彼女を見つめる。


「……わ、私もね、分かっているつもりだったの。命の危険はあるし、村にいた方が良いかもしれないって。でも楽しそうだし、何があって、何と出会って、どんなことがあるのかなって期待がそれを上回ったの。だから覚悟を決めたつもりでいた」


「それは勿論私もですわ」


「でもさ、あんな怖い写真を見せられて実感させられると少し、本当に少しだけ不安になっちゃって」


「……やれやれですわ」


「ご、ごめん。こんなの言い訳だよね。私には――」


「あの写真は偽物に決まっているでしょう」


「そ、そうだよね。偽も――偽物!?」


 アルタエルは顔を上げて固まってしまう。アヤメは涼しい顔でその顔を見つめ返して口を開く。


「えぇ、あれは偽物ですよ?覚悟が中途半端な人を引き止める為の。まず私の母は医者ですし、父親は既に冒険者をやめています。今は冒険の思い出を書いた本を出しているとか」


「じゃ、じゃああの写真……」


「さぁ?昔に焦がした料理とかそういうものかと。そもそも考えて見てくださいまし。あの様な人が炭になる場所で誰が写真を撮るのでしょう?そして無事に村まで運べますか?テガミドリの足に巻くなら写真は折れているはずです」


「た、確かに……」


「そこまで綺麗に騙されるなら村長も満足でしょうね」


「ぶー!」


「可愛い豚様が居るようで。さて、元気にはなりまして?二人で何度と旅に出る覚悟は確認し合ったではありませんか。それでもきっと悩む時がある。その時は私に相談して欲しいですわ」


「……うん。分かった。ありがとうアヤメ。それとごめん」


「いえいえお気になさらず。さてと、それでは今度こそコールに向かいましょう。地図で見るとこの池はコールの東にある場所のようですので、少しルートが逸れましたね。ただもう数十分歩けば到着するかと思われます」


「分かった!」


 自信を取り戻したアルタエルは立ち上がるとリュックサックを背負った。ひんやりとした布地が肌に当たる。

 その隣でアヤメはリュックサックを前に抱えて背負おうとしない。彼女の様子を不思議そうに思ったアルタエルだが、気にせず一歩踏み出そうとして――


「私達の衣服は暗い森を歩いていた事もあり、まだ乾いていないかと思いますがいかがでしょうアル」


「あ!?」

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