第114歩:「またそういう不安な事言うぅ……」
「まず初めに、スカイライドの基本情報から。スカイライドのステージには様々な形状があります。ここクラウドタウンでは円形のステージが用意されており、円は中心から赤色、橙色、黄色という色分けになっています。こちらが上か見た形です」
アヤメはそう言って事前に用意していた紙を二人に見せる。
「赤色が広くて、他は狭いんだね」
アルタエルは自分の指を使って円のサイズを測る。
「ルールブックに記載されたサイズを縮小して描いたものではありますが、対比としてはそれで正しいかと。赤色が戦う場所ですね。ここから出来る限り出ない様に動き回り、更に相手を押し出す必要があります」
「可能な限り中心が良いって事だね。橙色と黄色は?」
「橙色は減速ゾーン、黄色は失格となるゾーンです。そもそもスカイライドの機体が減速する原因は浮遊石に接する素材なんだそうで。安全装置のオン・オフもそれで切り替えるそうですよ。橙色のゾーンでは安全装置が起動する素材が使われているそうで、入った瞬間速度低下が始まります。と言っても止まる訳では無いので、十秒以内に赤色ゾーンへ戻れば失格になりません」
「それ以上は失格になるんだね。でも、普段練習している時の速度になるって事だよね?そっちの方が戦いやすいんじゃ?」
「いいえ。速度は機体同士がぶつかる上で必要な要素のひとつです。速度と重量が機体の攻撃力に直結するとお考え下さいませ」
「ごめん、私からも一つ質問いいかな?」
隣で話を聞いていたアドニスが挙手する。
「どうぞどうぞ」
「そんな事をする人がいるって聞いた事が無いんだけど、橙色のゾーンにいる人を追撃する為に自主的に入るのはルールとして許されているの?」
「特に記載はなかったですし可能だと思いますよ?その後自分にもブレーキがかかるので危険になりますし、そもそも入った時点で安全装置が起動するためかなりパワーダウンしますが」
「あ、そっか……」
「ついでに黄色ゾーンでは完全に機体が動きを止めます。その後、ゆっくりと場外に移動するとか」
「あ、四つの中にあった出るなってその事?」
「えぇ、これだけです」
自分の返答に拳を握るアルタエルを見て小さく笑うと、アヤメは更に話を続ける。
「ではそこで喜んでいるアルに問題です。動いている機体が突然動き止めたらどうなるでしょう?」
「えぇ……突然クイズ出すじゃん。でも分かるよ、中の人が飛ばされるでしょ?」
「素晴らしい。もちろん何も掴んでいないと乗っている方はそうなります。その為、試合中には二つの取り決めがあります。一つ、競技中両手は機体の手すりを握っていなければならない。二つ、競技用靴を脱いではならない。また、改造した機体を使用する事も禁止されています」
「競技用靴って?」
「大会当日に配布される選手用の靴だとか。手だけ固定しても意味無いですからね」
「足を固定出来るって事?」
「そうみたいです。これが二つ目、やるなの内容です」
「待って待って、機体の改造って……この前買ってもらったやつは?」
「あ、サポートアイテムは対象外だから大丈夫だよアルタエルさん」
「良かったぁ」
「とも言ってられませんけどね」
アドニスの言葉に安心したのもつかの間、アヤメが釘を刺すように呟く。
「またそういう不安な事言うぅ……」
「気が付きませんか?ルールの禁止事項に載せるべき内容が記載されていないのです。それはつまり、許可されているという事になります」
「……えぇ?」
アルタエルはアヤメが読めるように書き直してくれた資料を見直すが、特に気になる点が見つからず顔を上げる。
「ギブ!」
「早いですわねぇ……前にも言いましたがこの競技は結構『えぐい』と思います。その禁止事項が無いせいで」
「えぇ?そんなレベルなの?アドニスさんは分かる?」
「いや、実はあたしもよく分かってない……」
「では答えを言いますね。全員が敵で弾き出すというルールにも関わらず、徒党を組む事が禁止されていないのです。試合を始める前にチームを組むことが出来るという事です」
「あっ……」
「確かにそうじゃん!え、アヤメの書き忘れ……って事も無いもんね」
「勿論。そして、プロの舞台でそれが見られない理由は、単純に実力が拮抗している分仲間ではなく足枷が増える可能性があるからでしょうね。しかし実力に差がある初心者大会はそういう訳にいきません」
「そっか、それで練習が浅い人が辛いって言っていたんだね」
「まぁ仲間を作る事は不可能に近いと思うので、一旦忘れて最後の説明に入りましょう。次からは少し複雑なルールをお伝えしますので頑張ってくださいませ」
「……寝てていい?」
「えぇ、頬が伸びて赤くなってもいいのなら」
アルタエルの冗談にアヤメも笑顔で応じる。アドニスとアルタエルは互いに頬を押さえて顔を見合せた。