表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたがいる。 SIDE B  作者: 原田楓香
7/12

⑦ バレバレ


 素直じゃない。

 彼は全く、素直じゃない。

 気になるくせに、心配なくせに、ハラハラしているくせに、そんなときほど、何も言わない。そして、淡々とした表情で、冷静なフリをしている。

 


 今日、僕らの下宿の世話人、風子さんに来客があった。この客が来るのは、2回目だ。

 わりと田舎の、こんな場所にわざわざ来るほどだから、その人の思惑は、僕らにもおおよそ見当がつく。(風子さん本人は、いまいちわかってなさそうだけど。……でも、嬉しかったみたいだ)

 

 最近、彼女は、僕らと一緒に夕食を食べるようになっている。

 今日の夕食は、トッピングがいろいろ用意されたそうめんと様々な野菜を巻いた肉巻き。

 特に、アボカドの肉巻きは、肉に白味噌を塗って巻いてあるとかで、味噌の風味が塩こしょうの味とよく合っていて、「ハマるわ~」と言いつつ、トモくんとテツくんが驚くほどたくさん食べた。サキトもユウトも、ナオトも、もちろん僕も、びっくりするほど食べた。そんな僕らに、風子さんもニコニコしている。


 ヒロくんだって、肉は大好きだ。大興奮しながら食べているみんなに紛れて、とってもごキゲンな顔をしてみせ、笑顔を振りまいていた。そして、「美味しいとさ、食べるのに夢中で、しゃべる余裕もなくなるよな」なんて、さりげなく予防線まではって。

 

 でも、僕らには、バレバレだ。

 明らかに彼は元気がない。その原因が、昼間の風子さんへの来客だ、ということは、風子さんをのぞく僕ら全員がわかっているのだけれど。


 僕ら7人には、人の心を読む力が備わっている。生まれつきだ。

 もちろん、程度の差はあるし、ロックをかけて読まれないようにすることも、読まないようにすることもできる。 


 そういう力のコントロールは、僕らの星では、子どもの頃に身につける当たり前の処世術なのだ。

 人の心が読めてトクすることもあれば、つらい思いをすることもある。だから、読む読まないをある程度コントロールすることは重要だ。

 基本、僕らは、人間関係をスムーズに繋いでいくために、この力をつかう。誰かを労ったり、気遣ったり、もしも困っていたら自然に手を貸したりする、そのためにこの力があると思っている。

 彼、ヒロくんは、まさにそれを日頃から実践していると言っていい。

 今日は、ナオトがその力を発揮して、田んぼに落ちた、風子さんの来客のために、自分の服を着替えとして提供したのだ。



 僕とヒロくんは、幼い頃から、兄弟みたいに一緒に育ってきた。僕にとって、彼のそばにいるのは、ごく当たり前のことだ。だから、大学も同じところに進んだし、調査船に乗り込むときも、彼と同じく地球を選んだ。

 ヒロくんは、そんな僕を心強く思ってくれている。

「タクトは、僕の戦友みたいなもんやから」

 そう言ってくれたこともある。

「戦友、って大げさやな」

 僕は、そう答えたけど、ちょっと、いや、正直かなり嬉しかった。誰からもしっかり者として頼られている彼が、実は僕のことを頼りにしてくれている、そのことが伝わってきたから。


 ヒロくんは、すごくだらっとした姿も、さみしがりの子猫が甘えてくるみたいな姿も僕には見せてくれる。たまに、他の人の前でもめちゃくちゃ陽気にはしゃいで見せたり、お茶目な行動を取ることもあるけど、それは、その場の空気をなごませたり、そこにいる人たちが安心して自分を出しやすくするためだ。

 計算、ではなく、彼なりの気遣いだと思う。

 

 でも、今回の、この調査船のメンバーの中では、これまでのヒロくんとは違うことがけっこうある。僕だけに見せていた顔を、このメンバーの中では、わりと普通に見せているように感じることも多い。

 少し、それを淋しいとも思う。

 でもそれ以上に、ホッとしてもいる。

 素直じゃなくて、すぐに自分を抑えて、殻にこもろうとしがちなヒロくんを受け止め、手を取って外へ連れ出せる人は、周りにたくさんいる方がいい。そう思うから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ