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あなたがいる。 SIDE B  作者: 原田楓香
2/12

② 会いたい人は。


 オレには、別に、この地球に懐かしい記憶や、会いたい人はいない。

 ただ、この星は、一番なじみやすい、そう聞いていたから選んだ。それと、同じ調査船に乗るメンバーの雰囲気が、なんとなく居心地が良さそうに思えたからだ。


 メンバーは、年上組3人、真ん中組2人、年下組2人の、7人構成。年上組の3人は頼もしい一方で、あまりえらそうにしないところも、なんか、いい。


 調査船は高性能なので、星間移動そのものには、それほど長い時間は必要じゃない。でも、ここ地球に着いてからの時間、同じ調査船メンバーは、調査船のある場所で、基本共同生活をすることになっているので、人間関係がわずらわしいと、それだけでストレスになる。その点、このメンバーは大正解だった。

 口うるさいタイプや、けんかっ早い、短気なヤツもいない。みんな、素直で、気のいいやつだったので、オレは正直、ホッとしている。


「あいつは、何を考えてるかわからないからな。関わらない方がいい」

 子どもの頃から、よく言われた。

 無口で、人見知りなところがあったので、黙って座っていることが多かったせいで、周りは勝手に、オレのことを、『なんか怖い』『あぶなそうなヤツ』、そう思い込んだ。オレの顔つきや、雰囲気がそう思わせたらしかったが。そのせいで、これまでの人生で、誰かを殴ったことなど一度もないのに、知らない間に、オレは、どこぞのヤンチャをボコボコに叩きのめしたらしい、とか、とんでもない噂が広まったこともあった。


『なんでやねん、そんなんしてへんわ』と言いたくても、それは、みんな陰で噂していることなので、オレの前で、それを口にするヤツはいない。だから、残念なことに、オレとしては、訂正するチャンスすらないのだ。

 オレは、何度も思った。(噂も悪口も、なんでも言いたいことがあるんやったら、直接言えよ)

 陰で言われたら、結局、言われたい放題で、否定も訂正も、何もできない。そして、知らないところで、それは、どんどん広まって、真実を覆い隠す。


(もう、ええよ。勝手に思っといたらええわ)

 オレは、ますます黙っているしかなくて。

 でも、一方で、その噂は、オレを守ってくれてもいた。

 ただ無口で人見知りで臆病なヤツだったのに、誰もそうとは知らずにいて、いじめることも、貶めることも思いつかなかったから。

 けれど同時に、オレには、くつろいで本音を言ったり、甘えたりできる存在は、できなかった。

 

 だから、オレは、思ったことをきちんと直接自分に伝えてくれる人に会いたい、そう思ってきた。

 真実ではないことを陰で噂したり、噂に目隠しされたまま相手を見る。そんな人ではなく、ちゃんと自分の目で、相手を見ようとする人に会いたい、そう思ってきた。

 この調査船のメンバーは、いっしょに過ごしている中で、オレにとって、初めてそう思えた人たちなのだ。オレは、もうそれだけで、地球に来てよかった、そう感じている。

 

 そう。それだけで、よかった、……はずなのに。

 自分でも、予想外のことが、今、オレの心に起きつつあって……。


 


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