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あなたがいる。 SIDE B  作者: 原田楓香
10/12

⑩ 当たりますように


 あげたつもりだった服が返ってきた。

 下着以外の服はきれいに洗濯されていて、下着は同じメーカーの新しいものだ。

 

 うちの下宿屋の世話人、風子さんのところにやってきた、元上司? 元彼? が、今日届けに来たらしい。先日、ちょっとしたハプニングで、風子さんとその人は、田んぼにハマって泥だらけになった。たまたまそれを目撃したオレは、彼に着替えを提供したのだ。(下着は新品、Tシャツとジャージは着古したものだ)返さなくていいと言ってあったけれど、ちゃんと洗濯して届けてくれたらしい。

 お礼として一緒に添えられていた、ねぎみそせんべいはかなり美味しかった。

 夕食前だけど、風呂上がりに居間でくつろいでいるみんな(自分を含め)に1枚ずつ配ると、残りはわずか3枚になって、オレは、正直、ちょっぴり後悔した。

 ネギの風味もしっかり生きているし、味噌味も程よい甘辛さで。なんなら、バレンタインデーとかでチョコもらうより、嬉しいかもと一瞬思ったほどだ。



 この間から浮かない顔をしていたヒロヤが、少し元気回復したと思ったのに、その先輩? とかが来たせいで、再び、浮かない顔になっている。

 せんべいをかじりながら、「うまっ」とひとこと言ったけど、そこからあとは、じ~っと何やら考え込んでいる。

 理由は、わかっている。(オレたちは浮かない顔のヒロヤの思考を読んだ)

 風子さんが、その先輩に、会社に戻ってこないかと誘われたからだ。


 もちろん、彼女は、そんなことはひと言も言わない。

 いつも通りの笑顔で、大量のコロッケを揚げている。コロッケには、人参やブロッコリー、コーン、マッシュルームなどの野菜やキノコが埋め込まれているという。ベーコンやチーズ入りのもある。

 野菜嫌いのヒロヤに、どうか野菜入りのがいっぱい当たりますように、と彼女が心の中で呪文を唱えているのがわかって、オレはちょっと笑ってしまった。当然、ヒロヤはシブい顔をしていたけど、みんな軽くクスクス笑っていた。


 風子さんが、コロッケの盛られた大皿をテーブルに置いて言った。

「あのね。どれに何が入っているかはわからへんけど、人参のはね、ちょっと抜き型使って可愛くしてるから」

「え? ほんま?」

 タクトが目をキラキラさせている。彼は、可愛いというワードに弱いのだ。

「どんなんがあるん?」

「え~とね。お花の形と、☆と、チョウチョと……♡型」

「おお!」

 みんながどよめく。

「ハートのは何コあるん?」

「1コ」

「1コ!」

「それ当たったら、何かご褒美ある?」

 最年少のユウトがワクワク顔で言う。彼は、そういう遊びが好きだ。

「そうやねぇ。メニュー決定の優先権1回分」

「おっしゃ!」

 誰よりも先にトモヤが気合いを入れた声で応じ、

「よっしゃあ」「お~し」「よっしゃ~」「よ~し、当てるぞ~」「お~」

みんなの嬉しそうな声が重なる。

 ヒロヤは、口だけ動かして、声を出したフリをしている。


 ……そんなに人参、嫌いか? と思ったら、そうじゃなかった。

 彼は、誰より真剣に、風子さんの作った♡入りコロッケが当たりますようにと、必死で念じていた。

(可愛い……)

 



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