会話劇その6
「ハゲ先輩、どうして急にマッチョになったんですか?」
「いやほら言っただろ。身体的特徴をあだ名にするのは良くないって話。ハゲやデブとか、言われる方が平気だとして、言う方にもリスクがあったんだ。だからといって他に特徴の無い俺は呼び名に困ると思って、筋肉をつけてみた次第だ」
「人ってそんなにすぐ筋肉つくっけ? てか、ハゲでマッチョって本格的にヤベー奴じゃん」
「ん? それは俺のことを今まで本格的ではないがヤベー奴だと思ってたってこと?」
「ハゲ先輩ちょっとこのゲームクリア出来ます?」
「この話を聞いたあとでもブレないお前のその無関心さには感心するぜ。まあお前が言いなら良いけどよ。ゲーム? ああスマホのパズルゲームか。お前でもこんなものやるんだな」
「ポイ活ッスよポイ活」
「最近流行ってるよな。ゲームやって小遣い稼ぎ。どれどれ任せてみろ。俺に攻略できないゲームは無いのだよ」
「ハゲ先輩引きこもりですもんね」
「確かに俺は、ゲームとか筋トレとか執筆活動とか殆ど家で過ごしてるけど、それを総じて引きこもりとは手厳しい」
「そんなことより早くクリアしてくださいよ」
「お前がそんなことを言う前にもうクリアしてるぜ」
「すげー! さすがハゲ先輩! もうこんなに!」
「俺はさすがなんだよ。ん? 毛根?」
「じゃあこっちのゲームは?」
「ああ、ハイスコア系のやつね」
「あたし半分もできない」
「まあヨユーでクリアだな」
「うお、マジじゃん。つか、マジシャン?」
「はい、スマホが消えた」
「マジでマジシャン!?」
「と見せかけて、お前のバックに入ってる」
「ここまで来ると引くわ」
「ついでにアプリを確認したが、それとそれとそれは恐らく期限以内にクリアは不可能だ。課金が必要になるからやめておけ」
「キモすぎて勝手に携帯の中身見ていることとか気にならねー」
「というか自分の小遣い稼ぎを他人にやらせるなよ。ほら、教えてやるから自分でやれ」
「えー」
「えーじゃねぇよ。なんでお前が面倒くさがってんだ。そのパズルゲームとかいいんじゃねーか? さあやってみろ」
「コレむずかしいんだもん」
「基本的に4連狙って爆弾作るんだよ。ほら、そこ! ああっ、適当やるな! 少し考えて周りを見ろ! 運だけじゃきついぞ!」
「ちょっと待ってうるさい! 毛が散る!」
「気が散る、な!」
「まったく、やーめた。苦手なことは得意な人がやればいいんですよ。適材適所ってやつです」
「ポイ活の話じゃなければ同意するんだが。だいたい、俺になんのメリットも無いじゃないか」
「え、なに、先輩。あたしに何かお礼をしてほしいんです?うわー、エッチい」
「いやいやなんでだよ。何故そうやってすぐ卑猥な方向に考えを持っていくのか。何処にエロい要素がある。それはお前の被害妄想というやつだ。そう言うお前こそ、スカートなんだから足を開くな! 胸元のボタンをもう一つ閉めろ! ペタペタ触るな!」
「過剰反応キモっ。流石童貞」
「童・・ぐっ」
「でもまあ確かにいつもハゲ先輩がそばにいるわけじゃあないですからねー。じゃあコレはどうです?」
「ん、違うゲームの攻略か?どれどれ、ってなんでお前の水着写真!」
「かわいいでしょ?」
「べ、べつに」
「素直に可愛いって言えよ。いちいち敏感にならない。そーゆーとこッスよ!」
「脈絡が無いから驚いただけだよ!」
「ゲームのお礼ですよお礼。ただのSNSの写真ですが」
「え、えすえぬえすだとう? 俺だっていくつかやっているがな、お前みたいな何かの使命を背負ってるかの如く自分の写真を晒し続けるやつの気持ちが理解できんよ」
「何かの使命というか、自己慶事欲か満たされるんですよ」
「ん?自己毛維持欲?」
「かわいい水着買って、かわいく写れたら、そりゃあ見て欲しいでしょ!」
「誰に?」
「友達とか知り合いとか」
「だけど不特定多数も閲覧できるんだろ?嫌じゃないのか?」
「知らない人でもコメントくれたりいいね押してくれたりするから嬉しいですけど」
「知らない人って言うけどな、お前それは女子とかを想定してないか?男だって見るんだぞ?むしろ男の方が見るんじゃないか?」
「そりゃあまあそうでしょ。今の彼氏、SNSで知り合ったし」
「おそろしや」
「今度普通ですよ」
「普通か、確かに俺の考えが時代に追いついていないのかもしれない。でも、その上で俺には理解できないんだよ。知らないおっさんだって見てるだろ?なんの目的で見てるかといえば、エロ目的だ。おっさんが水着の若い子をみる理由なんてそれしかないと思うのだが」
「それはわかってますけど、直接キモい目で見られてるわけじゃないし、気にしないフリは簡単にできますよ」
「確かに対面してないから、感覚が麻痺して平気なのかもしれないが、でもストーカーとか怖くないの?最近SNSが普及してストーカー被害増えてるんだぞ?世の中変な奴らばかりなんだ、コレだけ写真があれば居場所ぐらい特定できるのだぞ?」
「まあ実際被害にあってる身から言わせてもらいますけど」
「ほらみたことか!」
「なんで得意げなんスか・・・。SNSでストーカー被害が増えてるとか言いますけどね、ストーカーするような奴はSNSが無くたって身近で見つけた奴をストーカーするんスよ。ただSNSが普及して、ストーカーの目が他方に散っただけで、被害が増えたように思うのは、SNSの発信者がストーカー被害に会ったことをSNSでさらに拡散するからであって、ストーカーの絶対数が変わったわけではないと思うんですけど」
「た、確かに。いや、だがまて。ストーカーの目が散ったことで、実際お前が目についてストーカー被害に会ったわけだろ? ストーカーが増えたわけではないけど、不用意にストーカーを惹きつけたことにならないか?」
「それは運が悪かっただけですよ」
「運とか言われると身も蓋もないのだが」
「今時女子は殆どSNSやってるんですよ? しかも加工だってしてるもんだから、ほぼ全員かわいいですよ。無限にかわいい子が存在します。むしろストーカーが自分の所にくる確率は下がるってもんですよ」
「く、一理ある気がするな。俺の考え方が堅いだけなのか・・・」
「堅いも硬い。石頭ッスよ」
「一応言っておくが、ハゲに対しては毛に関係しなくても頭の話はするな」
「ハゲいじりしようだなんて、毛ほども思ってませんよ」
「嘘つけ!」
「まあまあ、不毛な争いは程々にして」
「わざとだな!?」
「この前合コンで知り合った男が経営しているサイトに携帯で応募すると景品が当たるってんでそれ以来継続してるんですけど一向に契機が見えないんですよね」
「この前毛根で知り合った男が毛遺影しているサイトに毛遺体で応募すると毛遺品が当たるってんでそれ以来毛遺族してるんですけど一向に毛遺棄が見えないんですよね!?」
「ま、手を切るには判断早いかもしれないですけど、いい男だったから少し後ろ髪を引かれる思いっすわ」
「俺が悪かったこれ以上毛を殺さないでくれ。もういちいち頭の事で反応しない」
「今はSNS戦国時代ですよ? SNSが民衆を動かすんです。芸能人は当然、企業も政治家も皆やってます。SNSを制すものは世界を制す。つまり、ハゲ先輩よりあたしの方が偉いんですから、生意気なこといっちゃ駄目ですよ」
「まだ、その話するんだ」
「だから命令っす。今度の日曜日二人で一緒に海いきましょー」
「は? なんで俺が海に行くんだよ。つかお前彼氏いるんだろうが」
「何いってんですか彼氏いるとか関係ないっすよ。彼氏いても海くらいいくでしょ」
「いや、彼氏じゃない男と二人で海に行ったらだめだろ」
「ほーう? またまた先輩のお堅い理論ですか? 果たしてそれが現代で本当正しいとまだ思ってます?」
「ぐう。確かに自信が無くなってきた。俺は、もう古い人間なのか。いや、だがしかし」
「歳一つしか変わらないですけどね。そんなに後ろめたいならノッポさん連れてくればいいじゃないですか」
「確かに二人きりじゃ無いが、男が増えたら解決になってなくない?」
「じゃあノッポさんの後輩ちゃんも呼べばいいんですよ。それでいいでしょ?」
「それだと合コンみたいじゃねえか」
「女の子の割合を増やせっていうんですか? やっぱりハゲ先輩スケベじゃん」
「ちがっ、そういう意味じゃ、クソ、わかったわかった。じゃあせめて奴らを呼ぶことにする」
「決まりッスね! 車お願いします!」
「それが目的だろ・・・。だいたい、大人数での行動は苦手なんだよな。いちいち周りに毛を配らないといけないし」
「毛を配る?」
「しまった! 自ら差し出してしまった!」
「楽しみだなー」
「つか、お前もノッポの後輩もそこそこ可愛いのによ、俺とかノッポみたいな異様な奴らと一緒にいて何とも思わないのかよ」
「ノッポさんは身長高くていい感じじゃん。ハゲ先輩もマッチョになったんだから見せびらかしましょうよ。それに、ビジュアルもあたし的にそんな悪くないですよ。あとはハゲてなければなぁ」
「おい、ハゲにハゲて無かったらというのは一番言ってはいけない言葉なんだぞ? ハゲが一番ハゲて無かったらよかったのに、と思ってるんだからな」
「あ、雨だ」
「本当だ、傘持ってねぇぞ」
「ふふふ、ハゲ先輩。命拾いしましたね」
「河童と言いたいんだな!?」
「え、あ、いや、なんでカッパ持ってるって知ってるんスか。カバンの中身まで見てるとは、さすがハゲジャン」
「いや待て、それマジシャンと何も掛かってないから! ただの俺の悪口だから!」
「それで?」
「・・・すまん深読みしすぎただけだ。てっきり、雨の雫で頭頂部が潤うから河童と俺の頭を掛けてるのかと」
「いくらハゲても自虐したらおしまいっすよ」
「殆どお前のせいだけどな」
「さあカッパもって! 相合カッパですよ」
「相合カッパ!? それは大丈夫なのか!?」
「大丈夫ですよ。ほら、ハゲ先輩の方が背が高いから、こうやって両手を広げて、膜を作るように」
「なるほど、カッパを広げて雨を凌ぐんだな。って、俺に傘の役をやれと!?」
「このままウチまでよろしくです」
「結構な距離だなおい、駅とは逆だし。途中のコンビニまででいいだろ? 俺はそこで傘を買う」
「駄目ッスよー。ウチまで送ってくださいー」
「なんでだよ。この距離歩くのにこの格好は歩きにくい! そして恥ずかしい!」
「またあたしに逆らう気ですかー?」
「なんでそんなに執着するんだよ」
「こうすれば守られるじゃないですか」
「雨から?」
「ストーカーから」
「それ現在進行系だったの!?」
「しっかり守ってくださいね。私がさらわれないように」
「皿割れないように、ってやっぱり河童じゃねえか!!」
おわり
海は楽しかった。