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先輩と後輩ちゃん  作者: ゆうなま
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会話劇その5

「お、おじゃまします」


「よく来たな、後輩。こんな夜遅くにすまなかった」


「いえ、別に、いいんですけど。それよりお話というのは?」


「まあ座れよ。慌てることはない。つかなんだその大量の荷物は?」


「そりゃあ色々入ってるんですよ。女の子ですもん」


「?? よくわからないが、まあいいか。なにか飲むか?」


「あ、私色々買ってきましたよ」


「気が利くな。そして、炭酸水をちゃんと用意しているところがお前らしい」


「先輩好きでしょ? 私には理解できませんが」


「炭酸水は健康にいいんだぞ。色んな効果が期待できる。それに、スッキリして美味しだろう?」


「その美味しいという部分がわからないんですよね。ちょっと苦い気がするし。何かしら味がないと飲む気にならないんですよね。炭酸水飲むくらいなら水を飲みますよ」


「そういうお前はコーラか。まったく、太るぞ」


「うるさいですよ」


「そしてペットボトルではなく、定番の真っ赤な缶を選んでいる所にこだわりを感じるな」


「私はコーラについては厳選派なんです。ペットボトルより、缶のほうが美味しいんですよ。そして、さらに上位が瓶のコーラですね」


「ああよく言うよな。俺には違いがわからないが。まあでも、大量の氷に強炭酸のコーラを注いで飲むのはうまい。特に真夏の一杯目」


「なんだ先輩もわかってるじゃないですか。そのコーラの爽快さはビールに匹敵しますよね」「そういえば、酒は買ってこなかったんだな」


「いや・・・お酒は、いろいろと、いろいろじゃないですか」


「わけわからんな。まあでも、今日は確かに酒を入れる話ではない。ちょうど、そう、お前が持っている真っ赤な缶のコーラがお誂え向きだ」


「はあ、コーラが何か関係あるんですか?」


「コーラではない。その真っ赤な色が関係する。もっとも、本題は真っ赤な服を着た女性、になるのだが」「真っ赤な服を着た女性?」


「これは、俺の友達の話なんだがな。

そいつは、都内のマンションの八階に住んでいるんだ。

そんなに高度があるわけでは無いが、ベランダからはそれなりに街を見下ろすことが出来て、何かと家での活動が多く引きこもりがちなそいつは、作業の合間に街を見下ろすのが趣味だった。

気分転換のつもりで始めた趣味だから時間はランダムで、通学中の学生や、犬の散歩をするおじいちゃんに、その他の通行人、夜は酔っ払ったサラリーマンや、警察と揉め事をしている人など、色んな人種を双眼鏡で見ながら、彼らの生活を想像して遊んでいた。

ある日の昼下り、いつものように双眼鏡で街を見下ろしていたんだ。

何度も街を見下ろしていると、何度か見掛ける人も出てきて、なんだかストーカーみたいだなぁとか思っていると、目の端に、街の色にそぐわないやけに目立つ赤色が写った。

友人は、ほぼ反射的にそっちの方向を見た。

双眼鏡で見てもやや遠くにいるそれは、目を凝らせば赤色服を着た女性だとわかった。

異様だったのは、その女性が街並みに合わない派手な服を着ていたからではない。

その女性は正面を向いていたのだ。

正面、とはつまりこちらを向いているという意味。

そりゃあ街には色んな変な人が居るわけだから、こちらの方角を向いている人だっているだろう。

だから、そんな事は気にせず、そこでやめておけばよかった。

友人は、双眼鏡の倍率をあげて、ついその赤い服の女性を見てみたくなったんだ。

そしてすぐ、後悔することになる。

真っ赤な服の女性と目が合ったのだ。

気の所為などではない。

睨んでいるとも言えない曖昧な表情で、長くたれた前髪の隙間から、白い肌と真っ黒で大きな目が、間違いなくこちらを見ていた。

自分の事を見ている、と感じた。

まるで腹わたを握られたような、あるいは高いところから落ちたときのような浮遊感をおぼえた。

これは見てはいけないものだと直感し、即座に目を逸らした。

その後、二度と双眼鏡で街を見下ろすことはなくなったのだとか。

しかし、この出来事がきっかけなのか、あれ以来、不可思議な現象が友人の周りで起こり始めるんだ。

例えば、何気なく歯を磨こうと鏡を見ると、自分から睨まれている様な感覚にあった。

自分のコンディションは至って普通のハズなのに、その自分の目が、あの日見た真っ黒な目をしているように感じた。

鏡を見るのが怖くなったので、しばらく鏡を見なくなった。

また、風呂上がりにドライヤーを使っている時、ドライヤーの音に紛れて、やけに騒がしい大勢の声が聞こえた気がした。

ドライヤーを止めると音は止み、またスイッチを入れると同じ声が聞こえる。

友人はもともとドライヤーもそんなに長く使う必要が無いので、それ以来ドライヤーを使うことを辞めた。

車で移動する時、家の前に駐車をし、エンジンを切るとき、古い車だからか、一瞬だけラジオを受信して音が流れる癖があり、音楽が流れたり、会話の切れ端が聞こえたり、様々なパターンで聞こえるのだが、あれ以来、車を停めるときに聞こえる音が全て、あしっ、あしっ、と聞こえるタイミングで終わっていた。

いつ止めても、あしっ、あしっ、あしっ、と聞こえる。

声自体は番組のキャストの声らしく、恐らくあしっ、に続く言葉は、明日の〜とかそんなニュアンスなのだが、切り取られる言葉が同じな事にまた嫌な感じがして、しばらく車に乗るのを辞めた。

これらは全部、気のせいと言われれば気のせいだし、偶然と言われれば偶然だ。

不気味な目に合った自分が、自意識過剰になって、勝手に怖い雰囲気に誘導しているのだと思っていた。

だが、ある日、決定的な怪奇現象に出くわす事になる。

しばらく車に乗ることを辞めた友人は、徒歩と電車での移動をしていた。

まぁそれはそれでスマホを弄りながら移動出来るので有りだなあと思いながら、マンションのエレベーターに乗り、自分の部屋がある階のボタンを押した。

エレベーターは上に上がり、やがてフロアに着き、扉が開く。

友人はスマホを見ながら歩いていたので、周りをよく見ていなかった。

扉が開くと、反射で降りることになったのだが、少し歩いたところで、異様さに気づく。

マンションの、廊下のすべての明りが消えていた。

非常口の明かりも全て。

月明かりもなく、廊下から見下ろせるはずの街も明かりがない。

というよりは、まるで穴を覗き込んでいるような底なしの暗さだった。

あるのは後方のエレベーターの明りだけ。

友人は慌てて引き換えした。

あまりにも不気味だったからだ。

扉は締まりかけていたが、何とか手を挟んで、戻ることが出来た。

着床していたフロアは十一階だった。

友人は自分の部屋のある八階のボタンを連打して、扉が締まり、今度は八階に着いたことを確認して、自室に戻ることが出来た。

自室に戻ってコーヒー飲み、少し落ち着きを取り戻したところで、あることに気付いて戦慄した。

さっき止まったフロアは十一階。

だが、このマンションは十階建てなので、十一階など存在しないのだ。

確かに自分は、十一の表記を見た。

何よりも扉を出た先が、この世とは思えない光景だったので、もしかしたら自分が冥界に招かれているのだと、そう思った。

自分には何かが憑いている。

そう確信した。

お祓いに行った方がいいと、即座に決意した。

オカルトなんて信じていないが、この上未だに信じ難いが、この言いようのない不安をとにかく拭い去りたかった。

次の日、ネットで調べた神社へ行き、お祓いを受けた。

神主さんからは、良くないものが憑いているが、大丈夫だと言われたので安心していた。

しかし、帰り道。

信号は、確かに青だった。

友人は車に惹かれて、意識を失った。

目が覚めると、片足にギプスが嵌められており、一連の出来事に合点が言った。

あのラジオの言葉はこの事故を暗示していたのだと。

それは警告だったのか、或いは呪いだったのか。

今となってはわからない。

だけど、もう二度と街を見下ろすことはしないし、遊び半分で心霊には関わらないと決めた。

足以外には大した怪我なく、次の日にはもう退院だった。

帰りのタクシーを呼んでもらい、一人、帰路についた。

だけど、そいつも迂闊だったと思うよ。

足を怪我した帰り、松葉杖を付きながらやっぱりスマホを見てたんだ。

気が付くと、マンションの暗い廊下が続く階に降りていた。

存在しないはずの十一階だ。

足を怪我しているからな、今度は間に合わなかった。

心臓の鼓動が、一気に跳ね上がる。

安心していた反動で、気が動転する。

エレベーターの扉は、閉まってしまった。

ボタンを押せど、エレベーターが上がってくる様子はない。

唯一の明かりが降りていき、残ったのは薄暗い空虚のような窓だけだったあった。

吸い込まれそうな気持ちになって、もうそこで恐怖指数は振り切っていて、たまたま近くにあった非常階建を使って八階まで降りたんだ。

怪我している足の痛みなんて関係なく、とにかく急いで駆け下りた。

道中も、たどり着いた先のフロアも明かりは無かった。

それでも、なんとか自分の部屋に逃げ込んで、明かりをつけて、テレビをつけて、ラジオを流して、カーテンを締めて、そこでやっと心を落ち着かせることができた。

テレビは時間通りのニュースが流れてるし、ラジオはいつも聞いてる番組だった。

スマホも機能していて、友達に電話をかけて見るけど、それも問題なかった。今夜は怖いので、明かりをつけて寝ることにした。布団に入ると、恐怖はもうわずかしか残ってなかった。

そう言えば、双眼鏡が無くても、何かを覗き込むとき、人は両手で丸を作って双眼鏡の代役をこなす事があるだろ?天井の証明が一瞬チカッとなった気がして、ふと目を開けると、枕元で赤い服の女がそいつのことを覗き込んでいた。両手で丸を作り、双眼鏡で覗くように」


「ぎゃあああああああああ、むぐっ!」


「ちょっとまて声がでかい」


「むぐむぐっ!」


「近所に何事かと思われるだろう」


「むぐぐっ!」


「わかったわかった暴れるな、いいか?手を離すけど大きな声は上げるなよ?」


「むぐー!」


「よし離すぞ」


「はぁはぁ、な、何をするんですか!」


「何って、だからデカい声を出されると困る」


「羽交い締めにすること無いでしょ!密着しすぎぃ!」


「いいだろ別に。俺ほどできる男はうっかり胸を触ったりしないんだぜ?しっかり脇を抱えつつ口とお腹を抑えてただろう?」


「お腹もだめぇ!」


「そういや前よりも肉付きがよくなったな」


「う、うるさいセクハラ!っていうか何故比較出来る!?いつ、前に、私のお腹を触った!?」


「コーラばっかり飲んでるからだ。それよりどうだったよ?怖かったかどうかは聞くまでも無さそうだが」


「怖い以外の何物でもないですよ!」


「いいリアクションをしてくれるから後輩には話甲斐があるんだよ」


「まさかそのためだけに私を呼んだんですか?」


「夏と言ったら怪談だろ?今年は友達が怪談会をやってくれなくてな。だからお前を呼んで会を開いたという訳だ」


「そんな会だとわかってたら来ませんでした!」


「そう言うなよ。ほら、今度はお前の番だ。何か怖い話を聞かせてくれ」


「んなもんあるか!」「おいおいそれじゃあ会が終わっちゃうじゃないか」


「終わりです!」


「まったく仕方ないな。でもまあ最近聞いたとっておきの話が出来たから満足とするか」


「私マンション住まいなんですけど!どうしてくれるんですか!一人で帰れないですよ!」


「安心しろ。もとよりこんな夜中に一人で帰すわけ無かろう。ほら、車で家まで送ってやるから」


「バカバカ先輩のバカ」


「わはは」


「ちょっとおいてかないで!近くに居てください!まったくもう!」


「ほら行くぞ、早くついてこいって」


「わかった」


「だから待ってくださいよ!荷物が多いんですって」


「あれ、お前今・・・」


「なんですか?早く出してください。荷物は積みましたよ」


「いや、なんかその前に言った?」


「待ってくださいと言ったんです。もういいですよ準備出来ましたよ。それがどうかしましたか?」


「な、ナンデモナイ」


「どうしたんですか急に青ざめて、先輩も怖くなったんですか?」


「・・・・」


「・・・・」


「何か喋ってくださいよ!怖い!」


「い、いやあ。そうかそうか、怖いか」


「そう言ってるでしょ」


「一人じゃ寝れないよなぁ」


「そうですよ!ベタにトイレとか行けないんですから!」


「そうかー。そこまで怖がらせる気は無かったんだが、そんなに怖がってしまうなら申し訳ないなあ」


「もういいですよ」


「いやいや、何かしらの埋め合わせはしないといけないな。ほら、どうしてもと言うなら、居てやらんでもないぞ?」


「何がですか?」


「お前が寝付くまで家に居てやってもいい」


「わ、私の部屋にですか!?」


「そんなに怖がるとは思わなかったんだよ。しょうがないから俺が見張ってやろかと」


「だ、大丈夫です!」


「そ、そうか」


「ああ、その・・・嫌だとかそういんじゃなくて」


「ま、まあとにかく帰ろうか!」


「そうですね! 夜も老けましたし!」


「うわっ! 黒猫!」


「な、何でこのタイミングで横切るんですか・・・?」


「・・・」


「・・・」


「え、うわぁ!赤い服の人が!」


「えっ! いや、先輩! これポストですよ」


「んん? ああそうか、ポストか。そうか」


「先輩私をまだ怖がらせようとしてません?」


「いいいいいや、そそそそそんなことない」


「動揺しまくってるじゃないですか」


「ほ、ほら、家の前までついたぞ」


「・・・ありがとうございます」


「何かあったら連絡するんだぞ?」


「何かってなんですか」


「俺も何かあったら連絡するから」


「だから何かってなんですか!」


「それじゃあな」


「おつかれさまでした」


「おやすみなさい〜」



「・・・・・。

・・・・・。

・・・・・。

・・・あれ? あいつお疲れ様でしたとか言うタイプだっけ?」






おわり





さっき見たはずの赤いポストが、居なくなっていた。

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