会話劇その3
「お前って、中学生と言われれば中学生で通せるよな」
「流石にそれは無理じゃないですか?確かに私は童顔で小さいですが、この溢れ出る大人のフェロモンは隠しきれるものではありませんよ」
「お前が言うとより一層子供な背伸びしてる感がでるな」
「失礼な」
「まぁ多少無理はある気がするのは認めるが、肌艶は若々しさがあるし、逆に言うとさ、中学生だって大人に見える子がいるくらい幅があるんだ。お前が制服を着て中学生に紛れれば、老けた中学生位になるんじゃないか?」
「おうい!褒めてたと思ったらやっぱりそう言うオチか!女の子を老けたとか言うな!まるで下の上と言いたげですね!」
「いや、中の上だろ」
「中の上! 年齢の話ですよね!?」
「そう考えれば、人の見た目で年齢を判断するのって、実は難しいことなんだよな」
「まあ実際に当てようとした場合はリスクが伴いますからね、年齢を外したときに相手に失礼になる率は高いですよ」
「少し若く言うのもわざとらしいし、何よりそんな自分の心理が相手に伝わるも気持ちわりぃしな」
「そうですね、いくら自然に言っても相手にはわかっちゃうでしょうね」
「大体女の人のさ、年齢を詐称する意味分かんねえんだよ。だったらもっと見た目詐称に注力しろと言いたいぜ」
「女の化粧を詐称とか言わないでください。意味も違いますし。まあ年齢を詐称するのは、そのまま若く見られたいという意味がありますが、置かれた立場がそうさせてるのもありますね」
「なんだよ立場って」
「見た目の若い人が、実年齢にそぐわない何かをしている時に、もっと若く見られる為に、年齢詐称は起こります」
「んん?」
「アイドルとかで言えばわかりやすいと思います。あれって基本は十代とか二十代前半で構成されてて、フリフリできゃぴきゃぴじゃないですか」
「表現が女子大生とは思えんな」
「そんな若い人たちに紛れて、三十代とかいたら痛すぎません? 見た目はまだ通用するのだから、そりゃあ周りに合わせて若く設定したいでしょう」
「ああそういう事か。見た目が明らかに老けてるのに、若く偽ったところで、年齢の割に老けてると思われるだけだもんな。むしろマイナスな印象だ」
「はい。先輩の主張するような年齢詐称のパターンは主に、そのまま若く見られたいSNSに有りがちでしょうね」
「SNSだったら直接見られないもんな。顔写真とかアップしてる奴らも殆ど加工だろうし」
「全てと言ってもいい位ですね」
「そんなに見栄を張りたいもんかね。もっとありのままでいいと思うのだが。どんなに加工してもさ、現実で付き合いはあるわけだし、その時に幻滅されるのが落ちじゃないか?」
「まぁ、普通の子が芸能人レベルになれちゃう世界ですからね。やっぱり憧れるじゃないですか。その世界では、自分はもてはやされるわけですから」
「うーん、わからなくはないか。俺もネカマやってて楽しかったもんな」
「ね、ねか?」
「いやなんでもない、こっちの話だ。だが、やってる自分もわかっててやってるんだから虚しいものがあるよな」
「どうでしょうね。私もSNSはあまりやらないので、気持ちは測りかねます」
「コンプレックスがあるのかもしれないが、堂々としてればいいんだよ。自分が思ってるより周りはそのコンプレックスの事に興味が無いんだから」
「それも、わかってはいるんですが、なかなか割り切れる人も居ないですよ」
「ほら、あそこにハゲがいるだろ?アイツは教授に見えて、俺と同じ学年なんだ」
「ハゲとか言わないの」
「いいんだよ、あいつは自分がハゲだって自覚しているんだから」
「だからって他人が言ったら悪口に聞こえますよ」
「他人じゃねえよ。おーいハゲ、調子はどうだ?」
「あん?おお、ノッポか、調子はすこぶるいいぜ!」
「そりゃあ良かった!またな!」
「おう!」
「先輩ノッポって呼ばれてるんですか?」
「そうだが? あいつはハゲで、俺はノッポだ」
「その等価交換は割に合ってるのだろうか・・・」
「なんだって?」
「いやいいです」
「アイツを見てわかるように、基本的にハゲな事を気にしていない。むしろネタにして周りを笑わせてくれる」
「それは・・・外野の私が二人の関係に突っ込むのは恐縮ですが、多分あの人も気にはしてると思いますよ」
「そうか?」
「髪の毛が薄い、というのはなかなかリカバリーの効かないコンプレックスなんですよ。増毛やカツラなんてのはお金のかかる話ですし、お金を渋れば自然とは程遠い仕上がりになっちゃいますからね。周りから『カツラなの?』と突っ込まれることほど辛いことは無いでしょう。だって自分はその事実を隠したいのだから。仮に周りを騙せても、持続するのが難しそうです。だからあの人は、諦めたんです。このまま生きていくと覚悟をしたんですよ。一蓮托生なのだから、悲観してても仕方がない、と。だからいっそ武器にしてしまおうか、という葛藤はあったはずです。髪の毛が手に入るなら喜んで受け入れることでしょう。願い事で、髪の毛が生える事が上位に来るでしょう。だから周りの人に気を遣わせない様に努めているあの人の配慮を、こちらも汲んであげなきゃいけないと思うのですが」
「ハゲの心理に詳しすぎだろ」
「だからハゲとか言わないの!」
「なんだよ、やけに肩を持つな。ハゲがタイプなのか?」
「何でそうなるんですか。でもまあ、物事を前向きに考えて、周りの雰囲気を慮れて努力をする人は、素敵だと思いますよ」
「お前は良いやつだな。この世にハゲに優しい女子がいるなんて思いもしなかった」「なかなか酷い偏見ですね」
「俺がハゲても後輩でいてくれるか?」
「私を何だと思ってるんですか。見くびらないで下さいよ」
「よし、そう言う事ならアイツのことをハゲと呼ぶのは辞めよう。今度何か別の呼び名を考えなくちゃな」
「それがいいですね。第一、悪口で使われるような単語を通常時に使っていたら、周りの人は誤解をします。他の友達や学生、教授。あらぬ噂を掛けられて評判が落ちてもうまくないでしょ?」
「確かにな。悪意がなくても、悪口に聞こえてしまっては意味がないもんな」
■■
「というわけで、お前の事を別のあだ名で呼ばなければならない」
「なんて、いい後輩を持っているんだ。羨ましいぜ。俺のとこの後輩なんて何処で考えてくるのか、会話の節々で秀逸にイジってくるぜ」
「ちょっとギャルっぽいから、イジりもきつそうだ」
「この前なんて、服をそろそろ夏仕様にしようかと相談したのだが、先輩の頭は年中夏仕様だから問題無いですねって言うんだぜ」
「そのセンスを埋もれさせたままにするのは惜しいな」
「だろ? 俺も毎回違うアプローチを掛けられるんけだから、ツッコミに忙しくてな。ハゲ暦なんて俺のほうが圧倒的に長いのに、アイデア負けするんだ」
「俺の後輩も俺に対しては大概なんだけどな」
「どこも同じようなものか」
「ああ、見栄を張るので精一杯だ」
「難しいよな。奴らは恐ろしい」
「だから、後輩の手前、お前の呼び名を再び考えようという運びなのだ」
「とはいえ、今更名前で呼ぶのも気恥ずかしいだろ?」
「そうなんだ、だからといって特徴をあだ名にしてしまうと後輩が怒る」
「難儀だ」
「いや、だけど、そうか。アイツは言っていた。リカバリーの効かないコンプレックスは受け入れるしかないから、本人の意図を汲めと」
「つまり?」
「リカバリーの効きそうな特徴を挙げれば問題ないのでは無いだろうか」
「名案だ」
「理屈で言うと、同じ学年のメガネやヒゲはセーフになる。」
「そして、チビ助やシャクレはNGということになるな」
「法則が掴めてきたな」
「すると、俺のハゲはNGだが、しかし」
「デブと呼ぶ分には問題ないということだ」
「それだ!」
「ああ、デブは自己管理の賜だ。充分リカバリーの効く特徴だ」
「俺がデブなのは、俺の責任だしな」
「これで決まりだ」
「何とか解決できたな」
「さすが頼りになるぜ」
「また困ったら言ってくれ。相談に乗るぜ」
「おう、デブも俺に遠慮はいらないからな!」
「じゃあまた明日!」
「また明日!」
おわり
また後輩に怒られた。