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6.魔物を倒しますわ

魔物の気配、それも、かなり強力な部類が迫ってくる。


「アルバート」

「あぁ、クリスティーナ」


 私とアルバートは視線を合わせるとすぐに辺りを見渡した。魔物の来る方向、そして避難誘導をどのようにすべきかを判断するためだ。

 だが、他国の城内など造りが分からない。どこが避難場所として適しているのか、すぐには判断がつかなかった。


「カイル殿下、どこか安全な場所はありますか?」


「急にいかがしたのかな?」


 カイル殿下は驚くことに、魔物の気配にまったく気付いていないようだ。横にいるエリー様もきょとんとしている。

 え、大丈夫なのだろうか、この国は。


「魔物の気配が近づいている。気付かないのか?」


 業を煮やしたようにアルバートが詰め寄った。


「ま、まさか、父上の結界を破って魔物が入ってくるなど……」


 本気で言っているのだろうか。カイル殿下の父、つまり国王は現在病に伏せっている。それなのに結界を張らせているなんて。てっきり言動が少々理解できなくとも、カイル殿下かエリー様が結界を守っているのだと思っていたのに。

 しかも、結界を破って魔物が入ってきたと言うことは、国王の状態が危なくなっている証では? まずそこに気付けと言いたい!


 だけど、まずは魔物をどうにかしないと。大勢の命が危険にさらされてしまう。


「カイル殿下、エリー様、今まで魔物が城内に入ってきたことは?」


「そんなのあるわけがない。だが、本当に魔物が来るのか? そんな様子は…………なんだ、あれは!」


 カイル殿下の両目が驚愕に見開いた。


 あぁ、もう目視できるくらい来てしまったようだ。

 黒い翼に、牛のような角を生やし、全身毛むくじゃらの魔物が見えた。


「魔物の気配すら感じ取ることが出来ないなんてな。国をあずかるものとして失格じゃないか? くそ、どうりでクリスティーナとの婚約が持ち上がった訳だ。力が無いから妃に力がある者を置きたかったと」


 アルバートが舌打ちとともに、低い声で愚痴をこぼす。


「でも、カイル殿下はエリー様がいるからわたくしは不要とおっしゃったわ。つまり、エリー様が代わりを務められるということだと思ったのだけれど……」


 私とアルバートは、手を取り合って震えているカイル殿下とエリー様を見る。どう考えても、恐怖に怖じ気づいている二人だ。魔物に対して追い払おうという気概はまったく見受けられない。


「く、クリスティーナ殿、君はあれを退治できるのか?」


 震えた声でカイル殿下が問いかけてきた。


「はい、もちろんですわ。このようなときのために鍛錬を積んできましたから」


 聖女とは民を守るための力を有するもの。魔物を退治できなくてどうするのだ。


「じゃ、じゃあ、頼む。あれを退治してくれ!」


 カイル殿下が私にすがりつこうとして、アルバートに止められている。


「カイル殿下、一つだけお伺いしてもよろしいですか?」


「何だクリスティーナ、早くしてくれ」


 近づいてくる魔物が怖いのか、必死の形相で急かしてくる。


「エリー様は魔物が退治できないと言うことでしょうか?」


「出来るわけないだろうが! エリーはただの男爵令嬢だ」


「ですが、エリー様がいるので、わたくしは不要だと何度もおっしゃっていましたが、そちらの発言はどのように受け止めればよろしいのでしょうか」


「そ、そんなの言葉の綾だ。君こそわたしの妃にふさわしい。だから、頼む。あの魔物を退治してくれ」


「クリスティーナ、こんなやつの為に魔法を使うのはやめよう。俺が適当に威嚇するから、その間にさっさとこの国を出よう」


 アルバートが、カイル殿下から守るように私の肩を抱いてくる。


 私としても、散々不要と言ってきたくせに、いざとなったら手のひらを返してくる姿にドン引きしている。正直なところ、アルバートの誘いに乗ってさっさと帰りたかった。

 でも、私の視界の隅にはステフの姿があった。魔物の姿に驚いて腰を抜かしている。


「アルバート。わたくしね、ステフに約束したの。この国にいるあいだは守ってあげるって」


 あのときの意図としては、政治的な圧力から守るという意味だった。でも、そんなの関係ない。守ると約束したのだから、私はちゃんとその約束は守りたいと思った。

 少しの時間しかともに過ごしていないけれど、彼女達は私を必要だと求めてくれて、真摯に接してくれたのだ。その真心をちゃんと返したい。


「カイル殿下の頼みとしてじゃない、ステフ達を守りたいの」


 私はアルバートに告げる。すると、アルバートも仕方ないなとばかりに、肩から手を離してくれた。


「手伝いは必要?」


「要らないわ。飛び散らないように圧縮するから。でもありがとう」


 アルバートもある程度魔法が使えるのだ。私のように専門に鍛錬したわけではないけれど。


 私は両手を合わせて組み集中する。その間にも魔物は頭上にまで来て旋回していた。おそらく結界の主の気配を探しているのだろう。再び結界を張られないように殺すつもりだと思われる。


 体中に魔法の力が満ち、ふわりと髪が広がる。そして、私は魔物に向かって魔法の力を放った。それは光り輝き魔物を包み込む。


『グァ……ァ……』


 魔物の声が微かに聞こえたが、すぐに静かになる。それと同時に魔法の光はどんどん縮小し、最後はパチンという小さな音が聞こえて消えた。


「さっすがクリスティーナ。あっという間だな」


 アルバートがすぐにまた横に引っ付いてきた。すりすりと髪に頬ずりしてくるけれど、もしかして魔法の残り香とやらを嗅いでいるのだろうか? だとしたら本当にやめて欲しい。



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