寝室にて
○寝室にて
「気がついた?」
目が覚めるとそこは見知らぬベットの上だった。
隣には、泣きながらフェリシアの手当てをするライラと、入り口付近を見張るアレックスの姿があった。
しばらくして、レオンハルトが人払いをする。
誰もいなくなったのを確認して、レオンハルトが口を開いた。
「さっきは驚かせてしまってすまない」
「ここはどこでしょうか?……どうしてあの森にレオンさまが?」
森で気絶する直前に聞こえた声、あれはレオンさまの声だった。
フェリシアが尋ねると、レオンハルトが真顔で答える。
「ここは私の部屋だよ」
予想外の答えにガバッと跳ね起きそうになったフェリシアを、レオンハルトは優しく制した。
「部屋を抜け出したと、君につけている影から報告を受けたから、こっそりフェイのあとを追っていたんだ。あの森には危険な獣もいて危ないからね。……もうフェイはあのときのことを思い出したんだろう?」
真意を探ろうとする目でフェリシアをじっと見つめる。
「…………はい。あのときの少年はレオンさまだったんですね?」
「そうだ。のあの日、フェイが助けてくれなければ私はあそこで死んでいた」
(そう、フェリシアが止めてくれなければ、兄を疑ったまま自分の生を呪い、そのまま闇に堕ちていただろう。君の存在が、私を救ってくれたんだ)
「どうしてレオンさまを……」
そう呟きながら、こちらを真っ直ぐ見つめ返すフェリシアにたまらなく愛しさが込み上げる。
方翼の竜の夢を見るようになってから、自分に不思議な力があることに気づいた。
幼かった私は、ただ褒めてほしい一心で、母と王位を継ぐはずだった兄の前でその力を披露した。
あとで知ったことだが、王族の血を引く者は聖獣の加護を得ることがあり、その加護を受けた者は次代の王位を継ぐべきとされていた。
私の軽はずみな行動は、母と6つ違いの兄を苦しめ、母は少しずつ心を病んで亡くなった。
母の実兄であるロンバルド公爵は、昔から母と、母によく似た兄のフリードリヒを溺愛していたため、母の死と兄の不遇はすべて私のせいだと考えるようになったのだろう。
もっとも、公爵家は母が死んでからもずっと私たちの後見となっていたため、あの日まで私は伯父の裏切りに気づかなかった。
フェリシアにはいつかすべてを話そう。
ただ今は、これ以上彼女の不安を煽りたくなかった。
不安げなフェリシアの髪を手ぐしで優しくとかすようになでながら話を続ける。
「身内の裏切りと国の機密事項に関わることも含まれるから、あの日起きた事件の真相は伏せられ、事故として片付けることになったんだ。実際、兄上は私の暗殺には関与されていなかったしね」
「でも、どうしてサルベ領にいた私が、王都にいたレオンさまにお会いできたんでしょうか?」
「王都の森とサルベ領の樹海には聖獣の力が及んでいるそうだから、それが関係しているのかもしれない。……もしかして、フェイも小さいころから竜の夢を見ているんじゃない?」
「フェイも」という言葉にフェリシアは驚く。
「もしかしてレオンさまも?」
レオンハルトが小さく頷く。
「詳しくは分からないが、多分フェイと私が見る夢に出てくる竜は同じもので、同時に森にいた君と私の空間が聖獣の力を介して繋がったんだと思う」
「ただ、この件についてはまだ確認したいことがあるから二人だけの秘密にしてほしい」と、レオンハルトに言われ「分かりました」と頷いたとき、扉の外からアレックスの声が聞こえてきた。
「レオン、そろそろフェリシアさまをお部屋にお連れしなければ、色々とまずい状況になりますよ」
それを聞いたレオンハルトが不機嫌そうに答える。
「私とフェイは婚約者同士だ。婚前に何かあったとしても別に問題はないだろう?」
フェリシアはハッと我に返った。
婚姻前の男女が深夜に二人きりで、しかも片方の寝室にいる。
こんなことが誰かに知られたら(すでにアレックスとライラには知られているのだが)大変な事態になる。
「レっレオンさま、失礼いたしました」
真っ赤になって、ベッドから慌てて降りようとするフェリシアの腕を掴み、目の前まで引き寄せたレオンハルトが甘くささやく。
「私はいつでも歓迎するよ。フェイの記憶も戻ったことだし、二人の関係を進展させるいい機会じゃないかな?あと、これからは二人きりのときには敬語はいらないから『レオン』と呼んでほしいな」
反応を楽しむような、どこか余裕な表情にムッとしたフェリシアはレオンハルトに向けて問いかけた。
「ところで、私についている『影』ってなんですか?」