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婚約披露パーティの夜

○パーティの夜


婚約披露パーティも無事に終わった。

名残惜しそうにフェリシアを見つめるレオンハルトにお礼を述べ、部屋に戻って寝支度をしていたとき、フェリシアの髪を整えていた侍女のライラが口を開いた。

「今日のパーティで、侍女同士でお喋りしているときに聞いた話なんですが、王宮の奥庭から続く森のなかに、王族の方々以外近づけない場所があるそうなんです。お嬢さまご存じでしたか?」


その話は王子妃教育が始まったころに聞いたことがある。確か、王都にもサルベ領にある樹海のような「聖域」と呼ばれる場所があるのだとか。

「森」と聞いて、フェリシアは一度はその場所に行ってみたいと思ったが、王族以外の立ち入りは許されていないとのことで諦めたのだった。


「知っているわ。サルベ領にある樹海と一緒で、聖獣がいると言われている森よね」

そこがどうかしたの?と聞くまでもなく、ライラが話しを続ける。

「以前、公爵家に仕えていたっていう侍女の話によると、何年か前にレオンハルト殿下がその森のなかでガルムとかいう獣の集団に襲われて、ご側近が何名かお亡くなりになったそうなんです。殿下ご自身もお怪我を負われたそうなんですが、なんでも、そのときに一緒にいらっしゃったロンバルド公爵が、殿下を庇ってお亡くなりになられたとか。それ以来、森には王の許可なく誰も近づけなくなったそうですよ」


「獣の集団に襲われて」という言葉にフェリシアは何かが引っかかった。

(そんな光景をどこかで見たことがある……)

「ロンバルド公爵は王妃フリージアさまの実兄にあたられる方だそうで、その事件のショックで第一王子であるフリードリヒ殿下が病に倒れられ、今は公爵家の屋敷で療養されているんだとか。ここにきてから、フリードリヒ殿下に一度もお目にかかったことがないのが不思議だったんですよね」

ライラは一人納得したように、うんうんと頷いた。  


(……あれは夢ではなかった)

もう何年も前のこと。

意識が戻ったあと、探しにきたライラの母親に自分が見た光景を伝え、従者たちがくまなく辺りを捜索したが、男たちの死体や獣の死骸、そして少年の姿はどこにも見当たらなかった。

悪い夢か幻でも見たのだろうと言われ、多分そうだったんだろうと忘れてかけていた記憶。


真っ青になっている私に気づき、ライラが慌ててほかの侍女を呼ぼうとする。

「少し疲れただけだから大丈夫よ、心配しないで」

ライラを落ち着かせ、疲れたから眠りたいと早々に彼女を部屋から追い出した。


外の空気を吸うためにバルコニーに出る。

バルコニーから見える奥庭が視界に入った。

(ライラの話が本当なら、あのときの少年がレオンさまだったのだろうか)

奥庭の先にはライラが言っていた森がある。

あの日見た光景が実際に起こったことなのか、この目で確かめたい。


そう思うと居ても立ってもいられなかった。

ベッドのシーツをはがし、部屋中の布をかき集めて、庭に降りるための簡易ロープを作る。

(サルベ領でも何度かやったなぁ)

昔を懐かしみながら、ロープをバルコニーの柱に固定して庭先へと垂らす。

庭まではかなりの距離があるが、森で木登りを得意としていたフェリシアにとっては朝飯前のことだった。

簡単に身支度を整えてから、慎重にロープを伝い下へと降りていく。

降りたあとは、人目がないかを確認しながら、全力で奥庭を駆け抜けた。


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