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プロローグ〜幼少期 辺境伯の娘

すべてフィクション、架空の世界を描いてます。

定期的に配信していく予定ですので、よろしくお願いします。


もう逃がさない。


薄れゆく意識のなか、誰かがそう呟くのを最後に、フェリシアの意識はぷっつりと途切れた。



○幼少期 辺境伯の娘 


「フェイ、あまり遠くに行くと危ないよ」

「でもお兄さま、さっき珍しい子を見つけたの」

真っ直ぐ長い髪をなびかせながら、フェリシア・リュウ・サルベは森のなかを走っていく。

光を受けて輝く白銀の髪に、深海を思わせる深いマリンブルーの瞳。

誰もが羨む可憐な貴族令嬢だが、当の本人は幼いころから領地でのびのびと育ち、樹海へと続く森のなかを遊び場として駆けまわっていた。


ここは山々に囲まれた神秘の国、オルベリア王国。

北の国境付近には、樹海が広がっている。

樹海には聖獣がおり、王族の血を引く者のなかには、聖獣の加護を得るものがいるとされている。   

フェリシアの生まれたサルベ家は代々、辺境伯として国境と樹海の警備を任されてきた。

過去には王族の姫が降嫁されたこともある由緒正しき家柄だが、兄のフェリックスが生まれつき病弱だったこともあり、フェリシアは兄とともに自然溢れる領地のなかで慎ましい日々を送っていた。


「フフ、あの子をお兄さまに見せたら絶対びっくりするわ」

フェリシアはそう呟くと小さな白い獣を追って、いっそう深い森の奥へと進んでいく。

「いい子ね、いらっしゃい。お兄さまのために少しだけ力をかしてほしいの」

昔から森で遊んでいたせいか、森に住む動物たちは不思議とフェリシアの言葉に耳を傾けてくれる。

珍しい動物を兄のフェリックスに見せて喜ばせることが、最近の彼女の楽しみになっていた。


「ありがとう、いい子ね」

白地に黒の斑が入ったフサフサとした毛を優しくなで、害意がないことを示すと、その小さな獣はフェリシアの腕のなかでブルっと身震いをした。

ふと気がつくと、光は樹々にすっかり遮られて薄暗く、冷んやりとした空気が肌を刺す。

どこまで走ったのだろう。夢中でこの子を追いかけているうちに見知らぬ場所まで来てしまったようだ。

樹海へと続くこの森には、サルベ家以外の人間は滅多に近寄らない。

「少し深入りし過ぎたかしら」

冷たい風にフェリシアもブルっと身を震わせる。

急に不安になり後ろを振り返るが、彼女を追いかけていた侍女の姿はもう見えなかった。

「そろそろ戻らなくちゃ」

フェリシアは捕まえた小さな獣を抱え、もと来た道を引き返そうとした、その瞬間!

「ヒュッ」

不気味な音を立てて、旋風がフェリシアの頬をかすめた。

驚いて振り返ると、近くで誰かが争っている声が聞こえてくる。 

抱えていた小さな獣はその声に驚いた様子で、ピョンと走り去ってしまった。

「こんなところでどうして?」

そう呟いた彼女の目の前で空間が一瞬歪んだかと思うと、そこに見覚えのない少年と男の姿が現れた。


「くっ、どうしてお前が……?」

少し開けた場所で、奥には小さな泉が見える。

辺りには、すでに争ったあとのような死体と獣の死骸が転がっていた。

「……兄君のために、あなたはここで不運な事故に遭い、お亡くなりになるのです」

男が何かの呪文を唱えると同時に、ひときわ大きな獣が少年目がけて襲いかかる。

少年は自身の剣で獣の牙を受け止めながら体勢を整えるが、すかさず別の獣が少年の背後に飛びかかった。

寸前でそれらをかわし斬り捨てたものの、少年自身もすでに怪我を負っていたのか、剣を持つ肩を押さえながら小さく呻めき、その場に跪いた。


「まさか兄上が私を?」

そう呟く少年を、どす黒い霧のようなものが覆っていく。

「だめっ!」

フェリシアが叫んだ瞬間、少年目がけて再度飛びかかろうとしていた獣たちの動きがビクッと止まる。

「術が解けた?」

少年と対峙していた男がフェリシアの方へ目を向ける。

「何故ここに子どもが?」

男が声を発したフェリシアのもとへ近づこうとする。

それを見た獣たちは低く呻いたあと、一斉に咆哮をあげ、さきほどまで味方であったであろう男目がけて飛びかかっていった。

「くっ、邪魔だっ!」

男が獣たちを振り払おうともがく。

その直後、背後から少年の剣が男をひと突きにし、男はその場に倒れ込んだ。


「……お前は誰だ?」

肩で息をしながら、少年がフェリシアへ向けて問いかける。

少年を覆っていた黒い霧はもう見えなかった。

「私は……」

答えようとした瞬間、再び空間が歪み、彼らはそのなかに消えていった。


「お嬢さま〜、何処ですか〜?お嬢さま〜?」

(ああ、聞き慣れた声がする)

フェリシアは声の主を確認すると、安堵してその場に倒れこんだ。


ありがとうございます。

次回も読んでいただけるとうれしいです。

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