95◆ダブル魔石◆
俺達は、捕まえた目玉の魔物を袋に入れて、すぐ野営地に戻った。
「リュード、それどうするの!?」
「飼ったりしませんよね!?」
「飼ってはみたいけど、それはさすがにきついかな。まずはじっくりと観察して、それから…こいつには悪いけど解剖させてもらうよ」
「解剖って…」
「いや、魔物の解体とかするでしょ、同じだよ」
そう答えながら、俺は平たい岩の上に目玉を掴んで出す。
触手にはイカやタコのような吸盤はなく、先端の一部が硬質化して曲がっており、何かにひっかかるようになっていた。毒や棘、針もなさそうだ。少なくとも革手袋を貫通してくるようなものはもっていない。触手の真ん中には口がある。
おもしろいのは、目玉だと思っていた部分は、この魔物の頭部だったことだ。人間の瞳孔、黒目にあたる部分が、この魔物の目で数は一つ。体のわりに目がかなり大きいことになる。
魔物の前に出ている光のスクリーンは、不思議なことに後ろの景色を透過しておらず裏にいる目玉は隠れて見えないようになっている。スクリーンに映っているのは、目玉の高さ、つまり地面に近いところからの目玉自身が見た光景だ。俺が押さえているからか、ひっきりなしに光景を変えていく。
ぷぎゅう!
鳴いたと思ったら、なんとスクリーンに眉を顰めるクロナの顔が浮かんだ。
「え!?」
「クロナの顔が映った!」
俺とミュカは思わず大爆笑した。
「いやぁ!!!やめてっ!もうほんと止めてっ!リュード、これ殺していい?殺すわよ、ちょっと!手が邪魔なんだけど!」
怒るクロナをなだめ、笑ったことを謝る。この目玉は画像を取り込んで、スクリーンとして表示できる魔物だ。なんと、魅力的な魔物か。このスクリーンと同じことを、仕掛けで再現できたなら、おもちゃ道がさらに進む。俺の興奮は加速していった。
◇
ひとしきり観察を終えた後、手にしたナイフで胴体と頭部を切り離して、とどめをさした。人を襲い被害が出ているなどの理由もなく殺めたので、非常に心苦しく申し訳なく思うが、手は止めない。
頭部をナイフで少しずつ解体していく。クロナとミュカは文句を言うでもなく、じっと俺の手元を見ていた。2人とも冒険者で、魔物から素材をとったりする
前世で生物学を学んでいたわけでもないので解体しても細かいことまでは、正直わからない。それでも推測できる範囲で、どれが何の臓器かの見当をつけていく。眼球をばらすと黒い液体の中にレンズがあった。ここだけ見ると、前世の学生時代に行った解剖実験のイカとそっくりだ。さらに見ていくと脳と思われる器官は見当たらず、代わりにみつかったのは、俺にとって衝撃的なものだった。
「魔石が……2つある」
目玉の裏側の、飴玉サイズの袋になった器官の中に、粘液にまみれた、昼と夜の魔石が1つずつ入っていた。サイズはどちらも小指の爪ほどの大きさだ。その袋の先は眼球へとつながっている。
2つの魔石を持つ魔物は初めてだった。手のひらの2つ魔石を見つめていると、昔から俺の心の奥で引っかかっていた疑問が浮かび上がってきて…そして、その答えを得た。その答えとは、『魔物は魔石を使っている』というものだ。
魔力が魔物の体内で結晶化した余剰物質のようなもの、それが魔石だと今までは言われていた。それも正しいのかもしれないが、もう1つの可能性がある。魔物は、魔石を自身の器官としても使っているという可能性だ。
そう考えることで、幾つか納得がいく魔物の生態がある。ハーピーのやたらと大きな鳴き声、その翼以上の浮力があるとしか思えない巨体のグリフォン、リトルサラマンダーの燃える火の痰…それらは魔物が体内の魔石を使って産み出したのだろう。
ちなみに魔石で何かを起こしているとは思えないような魔物もいる。土属性の魔石をもつゴブリンや水の魔石をもつ魚系の魔物などだ。厳密に調べると、もしかすると何かしているのかもしれないが。
魔物が、人間の魔法のように魔石の力を使っているのだとすると……。
目玉の魔物が2つの魔石を持つ理由がわかる。人間であれば、夜の属性は影を出したり、相手に幻覚を見せたりできる。昼の属性は、光球を作り出したり、訓練すればレイレのように光る剣を作り出して、自在に操れる。それを目玉の魔物は、昼夜の魔石を使い同時に体内で行っている。
魔法を同時に使う…つまりそれは、俺の複合魔法と同じだ。俺にも、この目玉のやったことを再現できるかもしれない。これはもっと研究してみるしかない。ワクワクが止まらない。
◇
「リュードさん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。ごめん、大丈夫」
解剖の途中で、動きを止めて思索に入ってしまっていた。俺は手元を見る。目玉の魔物は、元の姿も全く分からないほどにバラバラになっていた。本音を言えば、もう2~3匹ばらして差異や、もう少し掘り下げた観察を進めたいところだが、それはもう充分だと思った。俺は魔石だけとりあげると、それ以外の部分を穴を掘って埋め、盛り上がった土の上に、石を置いて目玉の墓を作ってやって手をあわせた。
クロナとミュカが本気で可哀そうな人を見る目で俺を見ていたが、俺はそれでも目玉の冥福を祈ったのだった。
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