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94◆目玉の魔物◆



 俺とクロナとミュカは、荷物を背負って赤茶けた山肌の道なき道を進んでいた。地熱のせいで気温の高い火山地帯を抜けてきた俺達は大汗をかいていた。


「ふぅ…完全に失敗だったわ。サラマンダー狩ってた方が楽だったわ」


「たしかに、そうですね。リュードさん、レイレにだけじゃなくて、あたし達にも何かの埋め合わせを希望しますー」


「…そうだね、じゃあ、何か考えておくよ」


「言質はとりましたからね!あとでやっぱりなしって言われたらレイレを思いきり焚きつけますからね」


「いや、それちょっとずるくない!?」


「ずるくないわ。そもそもリュードは、レイレと私達で扱いの差がひどいのよ。ねぇ、ミュカ」


「うん、あたしもそう思う」


「え、俺、そんなに皆への扱い、ダメかな?」


「ダメね」


「全体的に雑だよね」


 そこから俺へのダメ出しが始まり、俺が泣き顔になったところで火山地帯を抜けた森の川べりに到着する。今日はここで野営をする予定だ。


「それで、どういう風に探すの?」


 荷物を下ろして、目の前の閑散とした木立を眺めながらクロナの問いに答える。


「まず今日は、ここで野営。見張りは立てるけど、鳴子を仕掛ける。紐を張るから周囲を歩くときは気をつけて」


 鳴子は、木片を取り付けた板に、長い紐を付けて、その紐に獣や魔物が引っ掛かったら、板が揺れてガラガラと音が鳴る道具だ。自作の鳴子は、光の魔石を仕込んでおり、板が揺れると光がピカピカとフラッシュするので、追い払いやすい。


「了解よ」


「で、明日からだけど、まずは1日、森に入って探していこうと思う。探すのは、もちろん目玉だけど、他にも普通の動物とか魔物の痕跡も。狩人からは、ゴブリンくらいしかいないって聞いてるけど一応ね」


「なぜ、目玉以外の痕跡も探すの?」


「目玉は小さいって言ってたよね。小さいってことは、基本的に、自分よりも大きい他の生き物から襲われやすいはずなんだ。だけど、それでも生き残っているのは何かしらの手段を持っているってことなのかなって。例えば強い毒とか、棘とかの対抗手段、羽とか脚とかの逃走手段、後はずっと隠れていたり、何かの真似をしたりとか」


「あー、だから、他の魔物とかを調べれば、目玉が何の手段を持っているか予想をたてられるということなんですね!?」


「あんまり自信はないけどね。でもそうやって、考えていけば、順序だてて探すことができそうかなって。俺としては、狩人の言っていた目玉の周りのなんかもやもやとしたもの…それが鍵だと思ってるんだけどね」


「リュードさん、いつもそんなこと考えてるんですか?」


「今まで会った冒険者達から教わったこととか、そういうのをつなぎ合わせて考えたんだ」


 もちろん、その中には前世で得た知識も入っている。前世で学んだ様々な生き物の知識はこの世界でも役立つことが多い。子供の頃から生物図鑑やテレビの生き物番組が大好きだったから、その手の知識はたくさん持っている。


 そして俺達は野営の準備を進めて夜を迎えた。





 夕食を食べ終えて寝るまでの間は、焚火を見ながら、ゆっくりとした雰囲気で会話をすることが多い。


 思い返せば、温泉に行く途中にパーティで野営をしたのが半年近く前だ。宿屋もいいが、俺は野営の雰囲気も好きだ。暗闇の中、焚火と星の灯りしかない空間。1人でいると心細さしかないが、仲間といると、より強く絆を感じる空間。


「リュードさんは、いつレイレにプロポーズするのー?」


 火に照らされたミュカが、瞳をキラキラさせながら聞いてくる。


「またストレートに聞いてくるね。えーっと、東に着いたら、とか拠点を手に入れたらって思ってるんだけど、正直いつすればいいのか、わかんなくなってる」


「レイレもいつ言ってもらえるのでしょうか?なんて時々ぼやいてるからねー。まぁ、ユリーズ東辺境伯閣下に内諾もらってるし、もういつ言ってもOKだと思うけどねー」


「うーん、だからと言って、明日いきなり言うってのも違う気がして」


「そうやって日々を重ねることで、どんどん期待値を上げちゃってるの、わかってる?」


「…うん。どうしよう」


「それとなく、レイレにも言っといてあげるよー。すごく真剣に悩んで、よくわからなくなりつつあるみたいって」


「なんか、それも情けない…いや、それとなく、お願い、ミュカ」


「あたしに対する埋め合わせ分が増えるねー。相当美味しいものでもおごってもらうから、覚悟してね」


「了解」


「あら、ならミュカは、テイカーと出かける機会でも作ってもらえばいいんじゃない?」


「ちょ!クロナ!」


「え?テイカーと?……あ、ミュカはもしかしてテイカーを?」


「いやー、別に好きってわけじゃないよ。まぁ、条件的にいい相手だし。なんかちょいちょい気を使ってもらってる感じもあって、悪くないなって」


「あいつ、そんなこと一言も言ってなかったな。ん~、了解、何か2人で一緒にできそうな作業でも考えてみるよ」


「うぅ…お願いします」


 ミュカがカップを抱えて下を向く。焚火に照らされただけではない赤みが、頬にさしていた。


「クロナは?」


「私?私は特にないわよ。」


「例えばハイマンとか?」


「なんか皆同じこと言うのよね。悪い人じゃないけど…ないわね。」


「まぁ、気になる人が、とかじゃなくてもいいから何かあったら言ってね」


「了解よ」


 焚火がパチリと音をたて、夜空に火の粉が舞った。




 翌日、お目当ての目玉は、あっさりと見つかった。


 朝になり、俺達は森に入った。森とは書いたが、樹高も数メートル以内で、木と木の間隔も空いている低木林だ。地面まで光も届いており、風も抜け気持ちがいい。たまにゴブリンに遭遇するが、さっくりと倒しながら奥へと進む。


 隠れている野生生物を見つけるための第1歩は風景を数分間見つめて、違和感をつかみとることだと、前世でネイチャーガイドの知合いから教わったことがある。俺達3人は進んでは立ち止まり、数分周囲を見続けるという行動を繰り返していた。


「んー?リュードさん、あれ見えます?」


 ミュカが10メートルほど先の木の根の間を指差す。ミュカは弓を使うのもあってか目がいい。攻撃力だけでなく、今回ついてきてもらったのは本当に正解だった。


「ん?」


 木の根の間、10センチ四方くらいの空間がおかしい。境界がぼやけた鏡を置いてあるような感じだ。


「なんだあれ…?ミュカ、あの変な所の上、木の幹を射ってみて。」


 ミュカが射った矢が、幹にトスンと刺さった瞬間、その鏡のような映像は、ビクンとなって1回乱れたが、再び映像を映し出した。


 俺達がその映像に近寄ると、なんとその後ろに目玉がぷるぷる震えているのを見つけた。前世でいうところのたこの胴体が目玉の下についている。目玉は青白く、蛸の胴体は青灰色で、率直に言って気持ち悪い。


「気持ちわるっ!」


 クロナの声を聞き流しつつ、観察を続ける。目玉の前には光のスクリーンがあり、そこに目玉から見たであろう風景が映し出されていた。同じような木立が続く中で、その一部をきりとったものが映っているので、一瞬騙されそうになるがよく見ればすぐわかる。出来の悪い光学迷彩という感じだろうか。


 俺は興奮した。


「すごい!何この魔物!どうなってんの!?」


ぷぎゅう


 手でいきなり触るのは怖いので剣の柄で、目玉と蛸の間の部分を押さえると、

何の抵抗をすることもなく目玉を捕まえることができた。


 目玉の後ろに飴玉くらいの袋のような器官がついている。触手は6本だが、

粘液みたいなものは分泌もしておらず、棘のようなものもない。この世界で、俺が見た中で1番魔物ぽい造形をしている。


 押さえ続けていると、目玉が展開していたスクリーンに変化が起きる。木立のようなものもあれば、遠くから見たゴブリンのようなもの、真っ黒なもの、数種類の映像が流れる。


「あは、あははははっ!!すごっ!すごい!あははははっ!」


 クロナとミュカが眉をひそめて見ている中、俺はテンションが上がって大声で笑い続けた。





お読みいただきありがとうございます。

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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