92◆合体魔石◆
俺達は作り上げた15種類の魔石を触って、どのような現象が発生するのかを検証した。結果、合体した魔石は、どちらの面に手を触れるかで起こる現象が変わることがわかった。
例えば、火と水の合体魔石。火の面に指を触れれば、反対側の水の面から温かい水がポタポタと垂れてくる。だが逆の、水の面に指を触れても、何か反発力のようなものを感じるだけで、火の面からは何も出てこない。この反発力は、魔力遮断コーティングした普通の魔石に、穴を1つだけ開けて、指で押さえる時に感じたものと同じだった。おそらく現象化しようにも放出口がないことで、中の圧力が高まっているのだと思う。爆発する危険性もあるので、触り続ける実験はしたことがない。
そして合成魔石の実験結果が以下となる。中央が合成魔石で、→の反対の面から指で触れて、→が出てきたものだ。×は何も出なかったことを示している。整理のために番号を振った。
(1)温かい水←水火→×
(2)×←水土→×
(3)霧雨、ミスト←水風→×
(4)光る水←水昼→×
(5)うすく濁った水←水夜→×
(6)×←火土→温かい砂
(7)炎←火風→温かい風
(8)×←火昼→ほんのりと温かい光、太陽光っぽい感じだろうか
(9)薄暗い紫色の炎←火夜→うす温かい黒いもや
(10)巻きあがる砂←土風→×
(11)光る砂←土昼→×
(12)暗っぽい、もやっとした砂←土夜→×
(13)キラキラした風←風昼→キラキラした風
(14)薄暗い風←風夜→薄暗い風
(15)光と影の混じった感じ←昼夜→光と影の混じった感じ
何とも不思議な結果だった。大きな傾向としては、水の面と土の面を触ったとき、その現象となる水と砂は相手側の魔石から出てこない。具体的な物質である固体と液体は、魔石を通って反対側から出てこれないのだと思う。
今回の収穫は(7)の火と風の合体魔石だ。通常、火の魔石は触っても熱くしかならないが、風と合わせることで、小さい炎が出た。これは大発見だった。しかも触り続けている間は炎が出続ける仕様だ。
「これですよ!!リュード!最高の商品がきましたーーーーっ!」
興奮したテイカーが叫ぶ。俺もすぐに気づいた。これは大きなビジネスチャンスだ。
魔力の適性のない人間は、全体の3分の2を占める。炎の属性をもつ人は、残り3分の1の中のさらに1~2割だろう。当然、火の属性のないほとんどの人は、火打石などを使って火を起こす。そこに、お手軽に火を起こすことのできる道具が発売されば…確実に、絶対に売れる。前世ではどこでも買えたライターの異世界版だ。製造工程も簡単で、材料の魔石を大量に確保できるなら、ある程度値段も抑えられるだろう。おそらく多少の雨の中でも使えるだろう。テイカーが最高の商品だと叫んだのも納得だ。……おもちゃでないのが、若干不本意だが。
この商品の今後の展開について皆で打ち合わせをした。俺達が商品を今作り始めて、少ない数を売ったところでおもしろくない。商売の単位として小さいし、大きな話題にもならないからだ。ということで、どうせ作るなら俺達の拠点ができて、商店を構えて、材料の入手方法や生産工場、人員などを整えてから、大々的に売りだすことに決めた。この異世界ライターは、仮称で『ポケットファイア』と呼ぶことにした。
(4)の光る水や、(11)の光る砂などは、おもしろいが光は弱く、発光時間も短いので何かには使えそうにない。
(9)の火と夜の合成魔石で出る薄暗い紫色の炎は、幻想的な色合いの火が燃えているので何かに使えそうだ。若干の気味の悪さはあるので、ホラーテイストのセンサー玩具なんか作ってもおもしろいかもしれない。
そして俺が、一番モヤモヤしているのは(15)の昼と夜の合成魔石だ。魔石に開けた放出の穴から、陽光を反射した水面みたいなのが、2~3センチ浮いたところに光っている。その光の中に影がちらついている感じだ。近いものを上げるなら、昔ブラウン管のテレビであった白黒のノイズ画面が光っているような感じだ。なんなんだろう、これは。
昼の魔石はなりきり武器やドレスで、LEDの代わりとしてアイテムを開発してきたが、実は夜の魔石は、研究が進んでいない。剣と魔法の世界だから、そういうものだからと納得するしかないのだが、夜の属性で出せる、もしくは魔石を触って出てくる、もやもやとした影がどういうものかがわからないのだ。
夜属性の魔法使いは、相手の視界を真っ黒にしたり幻覚をみせることもできる。クロナに手伝ってもらって、夜属性の魔法を俺自身にかけてもらったり、いろいろと試したこともある。この影は、相手に何かを見せたりする素になるものだと思うのだが、何をどう利用していいかが、さっぱり思いつかない。
俺は手にした昼と夜の合成魔石をじっと見る。何かがここに隠されているような気がする。おもちゃに関しては、俺の勘はあたるので、この感覚が間違っていないと思うのだが、今のままでは判断する材料が不足している。
俺は、頭の中の保留ボックスに、昼と夜の合成魔石を放り込んでおいた。保留ボックスにいれた案件は、日常生活をしていても、頭のどこかでうっすらと考えていて何かと結合すると降りてくる。俺はそれを待ってみることにした。
◇
東へ進んでいくにつれて『スターズ』の、そして特にレイレの人気の上がりっぷりがすごい。
レイレは東辺境伯の領都ユーガッズで冒険者になった。そこから、しばらくは領民のために東辺境をまわって活動していたそうだ。東辺境伯に連なる身分の高い姫君が、民のために冒険者をして魔物を倒して回っているとすぐに有名になった。冒険者姫、東の姫君などと呼ばれて、民から慕われている。
そのレイレが久しぶりに、わが村にわが町に来たとなっては、どこに行っても大歓迎状態だ。宿屋に泊まれば、ご飯サービスは当たり前、お代はいらないと言うのを無理やり受け取らせる状態だ。
「あ、あんたさまは…誰だ?」
「彼は、リュードです。私達『スタープレイヤーズ』のリーダーで星5の冒険者です」
恐れるような、伺うような目線で俺に問うてくる町の人に、レイレがにこやかに答えてくれる。もうこのやりとりも何回目だろうか。
レイレ様がきた!→人数増えてる、お仲間増えたんだ!→なんだ、あの偉そうな男(決して偉ぶったりしていない)という流れを経て、恐る恐る俺に質問が来るのだ。
中には、レイレのいない所で、あからさまな敵意を向けてくるやつもいた。命の危険は別に感じないのだが、ちょっと疲れるときもある。たいていは町に入って3日も泊まると、落ち着いてくれるので、それだけが救いだった。
最近は俺も魔物討伐に精を出している。魔石はできるだけストックしておきたい。優先度の高い魔石は使い勝手のいい、風と昼になってしまうが魔石も容量や出力が違うので種類があって困ることはない。また、自分の知らない魔物の姿や生態を見ることで発想につながることも多い。そんな感じで冒険者の活動を行いながら、ゆっくりと街道を進んだ。
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