91◆ブレスト◆
俺と父親の血塗れの姿を見た母親は「ここまでやる馬鹿がいますか!」と激怒した。しばらく説教をされた後、俺と父親は教会に行って治療した。帰り道、珍しく父親に誘われる。
「すぐ帰るのもつまらないからね。1杯だけ飲んでいかないかい?」
「いいですね、父上、行きましょう」
塩味の効いたクラッカーみたいなおつまみを、苦みの強いエールで流し込みながら俺と父親はポツポツと話した。
俺に前世の記憶があろうが、前世分も含めて年齢を重ねていようが、目の前で微笑みを浮かべて杯を傾ける男は、まごうことなく俺の父親だった。危険にあふれ命も軽いこの世界で、俺が生き抜いていけるように厳しさと愛情で持って多くを教えてくれ、導いてくれた。
家族だけでなく、騎士として近隣の人間も守っているすごい人物だ。なぜだか分からないが、今日の勝負を経て今さらながら、それを強く実感する。そして改めてレイレの憧れる気持ちもわかる。嫉妬していた自分を情けなく思い、会話をしながらも秘かに反省する。
「リュード、君は修行をしていても、手合わせをしていても、真面目に、必死にはやっているけれど、まだ心の奥を開放していないというか、そういう感覚を私はずっと持っていたんだよ」
「……」
「君の奥底に眠るものを、どう引き出せるか?そればかりを考えて修行させていたこともあるくらいだ。リュード、君は」
「はい」
「自分の全てを引き出す戦いをしたのだね。レイレさんとだろう?」
「そうです。そうしないと勝てませんでした」
「強いからね。レイレさんは。だからだね。リュードは今日、私に対しても君の全てをぶつけて、広げて、どこまでも続けて、そして私を飲み込んだ。レイレさんに会う前の君なら、おそらくしなかっただろう戦い方だ。うん……素晴らしかったよ。完敗だ」
「父上…」
目頭が熱くなる。
「……ありがとうございました」
俺と父親は無言でカップを打ち鳴らすとエールを飲み干して、帰路についた。
その後、数日実家に滞在した。せっかくの記念だと、レイレ以外のメンバーも全員俺の父親と手合わせを行い、こてんぱんにされたが皆すごく嬉しそうだった。
◇
俺達は来た道を辿って王都へ戻った。王都に2日滞在した後、俺達は当初の予定だった東の辺境領へと通ずる街道を進み始めた。自分の戦い方、持つ力を改めて自覚した俺は、目に映る街道の景色に、俺の進む未来を重ねて知らぬうちに笑みを浮かべていた。
街道を数日進んだ2つ目の町の宿屋で、ある日の夕食後、俺達はブレストをしていた。
ブレストは、ブレインストーミングの略で、数人の参加者が集まって、アイディアや解決方法を導き出す会議形式のことだ。ファシリテーターと呼ばれる司会進行役と書記役がいて、参加者は1つのテーマに従って、それぞれに好き勝手に思いついたことを言い合う。ブレストのいいところは、人が集まることで自分にはない視点、そこから得られた着想が手に入ることだ。
ポイントとなるのは、ブレストの場で結論をださないことと、そして人のアイディアを絶対に否定、却下しないことだ。それをすると、どんどん意見は出なくなっていく。俺も前世でブレストを何百、何千回と行ってきたが、ブレストの意味をわかっていない人からはすごく否定されたし、却下されまくった。気を付けるようにはしていたが、俺も同じように否定や却下をして同僚や若いスタッフに迷惑をかけたことも多くあった。
俺達『スタープレイヤーズ』は単なる冒険者チームではない。商会(予定だが)メンバーであり、発案者であり、試作屋であり、開発者であり、生産者であり、演者だ。面白いと思ったら何でもやる。それをチームでやれることの嬉しさを、幸せを、俺は毎日噛みしめている。
この日のファシリテーターはレイレだった。お題は“合体”。お題は俺が出すことが多い。合体を選んだ理由は、合体変形玩具というものが前世にあったからだ。戦隊モノの巨大ロボットなどが有名だ。男の子の憧れだろう。他にもなりきり武器にも合体要素が入ることもある。
俺はおもちゃをベースに考えるが、ブレストはジャンルの制限もないので、いろいろなものを合体するアイディアが出ている。前世の知識のある俺の方が、いろいろと出てくるが、それを主張して、俺の得意な方向に持っていってもしょうがないと思っているので発言は控えめにしている。
「例えば経過治療院の時みたいな壁画と、私達の鳴る光る武器を合体するとどうなるのでしょう?」
「へぇ、なんか楽しそうね、それ」
「あれかな、壁にドラゴンの絵とか描いてあったりして」
「でも、倒した!とかって、表現できないよね」
「うーん」
聞いているだけで面白い。例えば、どこかの劇団とかに、ストーリーと仕掛けをセットにして販売してもいいかもしれない。すごい盛り上がりそう。壁ではなく、板にして、板を回転させてドラゴンが火を噴いたり、負けたりも表現できるだろう。って本当におもしろくなりそうだな。
「テーブルと椅子を合体…」
ネタに詰まったテイカーが目に入ったものをそのまま呟く。これもブレストあるあるだ。テーブルと椅子がセットになった商品は、アウトドア用やその他でも、前世では実際にあった商品なので、テイカーのアイディアもありかもしれない。
「テーブルと椅子もいいけど、椅子だけを合体して長い椅子、あ、それってベンチか」
発言したミュカが、自分で既にあるものだと気づく、これもブレストであるあるだ。前世では、事務椅子をつなげて簡易ベッドにして仮眠をとっていたなと思いだす。あれ起きるときに、キャスターが動いてあせるときがあるんだよね。
そんなことを、ボーッと思い出していたらミュカの発言が俺の耳に飛び込んできた。
「そういえば、リュードさん、魔石って合体させるとどうなるの?」
「魔石を?」
「うん」
「合体?……うあーーーーーっ!」
「な、なにっ!?」
魔石を合体!?そんな面白そうなこと考えたことなかった。え、どうなるの!?
「えっと、ごめん、今日のブレストはここまででっ!ちょっと魔石の合体やってみる!」
◇
魔石のおさらいだ。魔石は魔物の体内で魔力が固まってできるとされる。火、水、土、風、昼、夜の属性の魔石があり、人間が触れることで、それぞれの魔石は、属性に応じた現象を起こす。
火→触れると熱くなる。
風→触れると風が出る
水→触れると水が滴たり落ちる
土→触れると砂みたいのが出る。
昼→触れると光る
夜→触れると、黒いもやみたいのが出る
この仕組みを利用して俺は、自走するミニカーや鳴る光るのなりきりおもちゃを開発してきた。魔石は現象を起こして魔力がなくなると、ただの石になってしまう。抜けた魔力を、他の魔石からチャージできる技術も俺は開発した。
魔石は小指の爪ほどのもから、でかいのになると拳よりも大きかったりする。割ったりすると、魔力が抜けて石になるが、少しずつ削っていけば、もとの半分より少し大きいくらいのサイズまでは、魔力を維持させたまま削ることは可能だ。
部屋でテーブルの上に魔石を並べて、作り方を検討していると控えめなノックが鳴った。返事をすると入ってきたのはレイレだった。
「リュード、私達でもできる作業があれば、一緒にやりませんか?その……皆も、どういう結果になるのかを知りたがっているのもありまして…」
あぁ、そうか言いにくいのでレイレが代表して言いに来てくれたのだな。俺は相変わらず、自分でだけ突っ走っていこうとしてしまう。
「レイレ、ありがとう。じゃあ、準備するから皆を呼びに行ってもらってもいい?」
「はい、呼んできますね!」
加工の仕方を打ち合わせた俺達は、実験用のサンプルを幾つも作るところから始めた。同じサイズの魔石を全種類用意した。火属性の魔物はまだ狩っていなかったが、王都で見かけたので購入済みだ。
小指の半分ほどの大きさの魔石を、丁寧にやすりで、平らになるように削っていく。削りすぎると魔力がなくなるので、ほどほどで止めておく。並行して作っておいた接着剤で削り終えた魔石の平らな面同士をくっ付けていく。
接着剤は、魔物の骨とか皮とかを煮込んで作った膠に、いつもの昆虫の神経節を乾燥した粉を混ぜ込んで作ったものだ。最後に俺とミュカがホットウィンドと、火球を出して乾燥させていく。
さらに、接着した魔石に『スライム粉』と木くずを溶かした溶液を重ね塗りをしていく。魔石全体を、魔力を通さない膜で覆う、魔力遮断コーティングの加工だ。その膜のそれぞれの魔石側に指が触れる程度の穴を開ける。こうすることで、発言する現象の出口は絞られて、実験結果もよりわかりやすくなるはずだ。
こうして、俺達は15個の実験用合体魔石を作り上げた。
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