90◆父親を越える◆
「リュード!あなた、また急に帰ってきて!あら、お仲間が増えたのかしら?ようこそ、ラーモット家へ!」
すっかり大きくなった実家の玄関で母親のあげた声だ。嫁候補ができたら連れてこいと母親に言われていたことを思い出した俺は、教会の壁画を描き終えた後、東に向かう前に、一度生まれ故郷のエルソン男爵領の実家に寄ったのだ。
パーティーメンバーを紹介し、少しの間、世話になることを告げたら、「こちらにも予定があるし、準備もあるのだからせめて先触れをよこせ」と、皆のいないところで、めちゃめちゃ怒られた。それでも笑顔で、急いで部屋や食事を用意してくれた。食事の席で、父親の所在を聞くと、ちょうど明日戻ってくる予定だという。それまでは皆や母親と話しつつ、旅の疲れを癒した。
翌日父親が帰ってきたので、俺は皆を紹介した。俺のしてきたことや皆の活躍などを話して場が充分に温まった所で、俺は話し始めた。
「父上、母上、報告があります」
「聞こう、リュード」
「こちらにいるレイレですが、えー私の婚約者となります。正式な発表はされておりませんが、東辺境伯からは内々の決定を頂いています。」
「まぁ!やっぱりそうなのね!リュードの態度を見て、わかってはいたけど…、本当によかったわ、嬉しいわ!嬉しいわ!」
「そうか、リュード。よかったな。レイレさん、時々大きなポカをやらかす不肖の息子ですが、強い男に育てたつもりです。どうか息子を、末永くよろしくお願いします」
「はい、リュードは、とても、とても強いです。これからもよろしくお願いいたします。えっと、お義父様、お義母様とお呼び…しても?」
「もちろんだとも」
「もちろんよ、レイレちゃん。子どもは全員息子だったから、私ずっと娘が欲しかったの。よろしくね!」
父親と母親が目に涙を浮かべている。報告に実家によって良かった。と、忘れないうちに父親と話をしておかなければならない。
「父上、明日はこちらにいますか?」
「あぁ、明日は休みだからね。何かあるかい?」
「明日良ければ、レイレと手合わせをして上げてください」
「ふむ…構わないよ。レイレさんもいいかい?」
「手合わせしてもらえるんですか!リュードありがとう!」
以前に俺の父親が血風のパスガンだという話が出た際に、レイレは憧れの人と小さく呟いていた。若かりし頃に盗賊30人を1人で全滅させた父親は、その後もこのエルソン男爵領で、魔物を狩り続けており、時には流れと呼ばれる強力な個体も討伐している。
「じゃあ、女性陣は部屋を変えて、少しお話しましょうか?ちょうどいいから、リュードの小さい頃の話でもしてあげるわ」
「「「聞きたいです!」」」
母親含め女性4人が出ていくと、俺達男チームは、結婚とはどういうものか?という父親の話を肴に酒杯を傾けた。
◇
翌日のレイレと父親の手合わせは、近衛騎士団長以上に、しびれるものだった。
剛剣VS天性の勘の戦いだ。しばらくは互いに剣を撃ち交わしていた。レイレの流麗な双剣を、剣1本と体さばきのみで父親はさばいていく。
勉強になったのが、父親は自分の剛力を理解し、それを活かした戦い方をしていることだった。父親の剛剣に、自分の剣を合わせてしまうと体重の軽いレイレは重心をずらされ、隙ができる。当然レイレは回避しか選択できない。そして回避しかできないように、父親は動き続けている。
「ふむ…すごいな、レイレさんは。…では、こういうのはどうかな?」
勘の塊であるレイレの戦い方を見抜いた父親が、自分の剣を地面に刺す。
「…!」
それを見たレイレが、その先の行動をさせまいと迫るが遅かった。父親は、地面を剣で抉って、大量の土をレイレに浴びせかける。土にはもちろん攻撃力はない。だが視界には土が入ってきてしまう。レイレの勘は、その土と父親の動きを予測するために働く、いや働かされてしまう。
父親は土砂が飛ぶ中、さらに剣をあらぬ方向に投げ、低い踏み込み体制で拾い上げた石を投げ、レイレの対処が追いつかないうちに、その細い首に手を軽くかけていた。
「ふぅ…どうかな?」
「…参りました」
強制的に勘を働かさなくてならない状況をいっきに作ってオーバーフローさせる。剣をあらぬ方向に投げたのも、石を投げたのも駄目押しだ。やはり父親は強かった。
「いや、レイレさんは強いな。過去に一度、流れの、異様に勘の鋭い猿型の魔物と戦ったことがあるんだよ。その時は本当に苦戦をしたのだけど、今日ほど、その体験をしたことに感謝する日が来るとは思わなかったよ」
「そうなのですね…お義父様はやはり強かったです」
レイレの目に尊敬と感謝の色が濃く浮かんでいる。
それを見て、俺は……。
俺は、正直父親にムカついていた。首に手をかけたその姿にも腹が立った。レイレが負かされたことだけなら、近衛騎士団長にも同じ感情を持っているはずなのだが、父親にだけイラつきを感じている。それがなぜか俺は分かっている。
レイレの「憧れの人」という言葉が引っ掛かっているのだ。何とも情けない話だと自分でも思う。憧れの人が父親以外なら、こんな気持ちは湧かないだろう。だが…、親だからこそ、腹が立つ。レイレの気持ちは、俺に向いていてほしい。ぶっちゃけ嫉妬だ。
父親は偉大だ。間違いなく国内強者ランキング上位5位内に入るだろう。もしかすると1位かもしれない。これまでは、父親に勝てないのはしょうがない、どこかでそう思っていた。だが今は違う。こいつ越えたいな。俺は初めて強くそう思った。
「さて、リュード、手合わせするかい?」
俺は黙って頷いた。
◇
父親や近衛騎士団長は『剛腕』と『経験』。レイレは『天性の勘』。
では俺は何だ?
俺は……。
「全部出していきます」
「来なさい、リュード」
俺は今までに、何度も複合魔法を出して父親と戦っている。俺がどんな魔法を出しても、小技に過ぎず、父親の一撃でつぶされて、俺がやられてきた。でも今までの経験の中で気づいた。特にレイレとの戦いの中で。レイレとの勝負で俺は自分のできることの全てを、出し切って勝利したからだ。
俺は自分で決めていたのだ。小技としてつぶされて駄目だったと。いろいろ試してみたけど駄目だったと。でもそれを決めていたのは自分だった。1回使って駄目なら、何回でも使えばいいじゃないか。
「マッドシート!」「マッドシート!」
「マッドシート!」「マッドシート!」
足元に出す泥たまりは当然避けられるが、構うものか。
「マッドシート!」
そうだ、地面に出さなきゃいけないなんて決まりはない。ほら手にかかるぞ。お、大きく避けたな。
「サンドウィンド!」
目つぶしの細かい砂を混ぜた風の竜巻だ。剛剣一振りで消されるが、そんなのは承知の上だ。
「サンドウィンド!」
「サンドウィンド!」
俺の魔法はあらゆる方向から襲うんだ。
「フィアーウォーター!」
俺に生理的嫌悪感を起こさせる水だが、父親は初見の魔法だ。案の定避ける。
避ける選択肢しか取れない。
「マッドシールド!」
対流する泥の盾…が突然自分の腕にまとわりついたらどうする?しかも、それはすぐ乾いて、手が重くなるぞ。腕についた泥を見て、父親が目を見開く。そう、この魔法は本来、術者、俺の手に着けるものだからだ。
まだだ!まだ足りない!
もっと、もっとだ!
頭を回せ!
最高速で思考を!
速度を落とさず、そのまま出せ!
「スタンライト!」「スタンライト!」「スタンライト!」
複数の目くらましの光の玉を、父親の周囲でランダムに移動させる。レイレみたいに剣の形にはできないけど数を出して操ることならできる。無軌道に動く光の玉越しに、父親の戸惑った顔が見える。
「ストーンアロウ!」
遠くに出しておいたストーンアロウを起動させる。光の玉を突き破った石つぶては、父親の脇腹を抉りシャツに穴を開ける。こんな風に魔法を重ねて使うなんてことは、これまで考えもしなかった。閃いたそばから、俺は魔法を行使する。
「ダブル!」
俺は剣で斬りかかりながら、さらにストーンアロウを連発し、責め続ける。自分に当たりそうな軌道でもお構いなしだ。当たっても些細なことだ。
「トリプル!」
さらに3つのストーンアロウをほぼ同時に射出する。全て異なる方向からだ。1つは外れ、1つは父親の肩を貫き、もう1つは俺の腕に穴を開ける。
「マッドカーペット!」
並行起動して大きくしたマッドシートを俺達の足元に大きく出す。転ぶなら俺もろともだが、俺は心構えができている。剣をあらぬ方向に放り投げ、そのまま父親に組み付いて、馬乗りになった所で周囲に出した4つのストーンアロウを目で示す。
「……リュード、私の負けだ」
「う、うぉおおおおお!!」
俺はたまらず雄叫びをあげた。
俺は…
俺が持つのは『企画力』だ。
発想し、組み立て、実行する。それを何度も繰り返す。常に新しい方法を、尽きることなく産み出し続け、誰よりも先を進み続ける。それが俺の武器で、この世界で俺だけができる、俺だけの戦い方だ。
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