88◆午前試合、双剣の舞◆
国王へのお披露目はそれからも続いた。『激走!ゲイルダッシュ!』や紙芝居も国王に披露した。国王は、いちいち歓声を上げながら楽しんでくれるので、ついつい俺も説明や話に熱が入る。
「いやぁ、なかなか楽しかったぞ。リュード。何か望みはあるか?」
「あ、もしよければですが…」
「ほう、お前から言ってくるのは珍しいな。なんだ?」
「私のパーティメンバーのレイレと、近衛騎士団長との手合わせを所望します」
「東の冒険者姫か。オウガ姫とも呼ばれているそうだな。どうだオブリア?」
「は、国王陛下がお許しいただけるなら、是非。同じ双剣使いで、冒険者としても名高いレイレ殿と手合わせできるなら望外の喜びです」
声をかけられたオブリア近衛騎士団長が答える。っていうかオブリアという名前だったのか、知らなかった。
「よし、認める」
「リュード、いいのですか?」
いいのですか?と聞きつつ目が輝いている。俺はもちろんと答えると、レイレは嬉しそうに笑った。
◇
レイレとオブリア近衛騎士団長の戦いは見事としか言いようがなかった。2人が繰り出す4本の剣は、時に激しく、時に流れるように動き続け、周りで見てる俺達も、一瞬たりとも目が離せなかった。
オブリア近衛騎士団長の繰り出す双剣が、どのような多彩な動きを見せようとも、レイレをかすることもできない。レイレはひらりひらりと、その全てを避け、いなしていく。
対する近衛騎士団長も素晴らしかった。レイレの双剣が鎧を何度も打とうとも、最小限の打撃にとどめ、決定打を出させない。
互いが相手の様子を探りつつ、どんどんギアを上げていったが、やはり近衛騎士団長の方が一枚上手だった。自前の剛力による強打や体当たりなどの動作を増やしていき、プレッシャーを高めてレイレをすり減らしていく。最終的にレイレの集中力が切れて、近衛騎士団長の剣を喉元に突きつけられて終了した。
10分程の時間だったが、長かったような、一瞬ですぎたような不思議な感覚の熱い試合だった。国王含め、見ている人間全員が拳を握って魅入っていた。
「いや、レイレ殿、あなたは強い!素晴らしい剣士だ!」
「はぁ…、はぁ…、ありがとうございました!」
レイレが肩で息をつきながら俺達のところに戻ってくる。
「出し切りましたが…勝てませんでした。リュードの仇を取りたかったのですが、残念です」
「相手は近衛騎士団長だからね。ありがとね。そう思ってくれていたことが嬉しいよ」
汗だくのレイレが悔しそうに俺に報告するが、これだけの戦いを見せてくれたことで大満足だ。俺は国王の目の前であることも忘れて、レイレの頭をなでていた。レイレは嬉しそうに目を細めている。
「なんだ、お前ら、そういう仲か?」
「あ……」
そのやり取りを見ていた国王に聞かれて、弁解のしようもないので俺は頷いた。
「はい、東辺境伯からも内々に承諾を得ています」
「くっそ、東のが1歩リードか」
「何がですか?」
「お前の取り合いだよ。西も北もうざいくらい自慢しまくってきてな。で、今回俺が宝剣もらったから、あいつ等にやり返してやろうと思ったが、嫁さん用意されちゃ敵わねえか。おい、リュード、もう1人いるか?」
レイレがキッと国王を睨む。
「おう…、悪かった!冗談だ許せ。そんなに睨むな」
貴族の場合は第2夫人や愛人がいるのが当たり前だが俺は平民だしな。というか相手が国王でも睨むレイレが恐い。気をつけよう。後、献上したなりきり武器が国王の中で宝剣になっているみたいだ。
そんなこんなで国王との歓談が終わり、王都滞在中の宿とさせてもらっているエルソン男爵邸に俺達は戻ったのだった。皆、帰り道はぐったりとして誰も口をきかなかった。
◇
春になれば領地貴族は領地に戻るものだが、エルソン男爵は、俺と少し話したかったらしく、まだ領地には戻っていなかった。久しぶりに見た男爵は少し老けた様子だった。「ご苦労されてますね」と言ったら、「誰かのおかげで胃に穴の空くような体験が列をなしているんだよ!」と静かにきれられた。
せんだっての冬に行われた『第3回マギクロニクル・エルソン公式杯』は、男爵の次男マルコ君がMCをがんばったおかげで、何とか無事に終了できたらしい。ところが東と北の辺境伯は知っていたが、他の貴族は俺がいないことを不満に思ったらしく、文句をエルソン男爵に言いまくったらしい。
「それは、すみませんでした。でもマルコ君が、がんばってくれたのはよかったです」
「リュード君、今年の第4回はやるのか?いや、やらないとならないのだろうが、リュード君は戻ってこないのか?」
「できれば引き続きマルコ君にお願いします」
「ううむ…仕方ないか。リュード君も、今では星5の冒険者、『スタープレイヤーズ』のリーダー、才腕御免状も持っているとあれば、引き留めらんか。せめて、こまめに居場所の連絡をよこしてほしい。君が、王都の連絡先をここにしているおかげで、手紙が山ほど届いているのだ」
「わかりました。すみません」
「それと『マギクロニクル』の君の分だが、額が大きくなっている。1度の引き出しの金額には制限ができるので、注意してくれ」
『マギクロニクル』の売上の1%は、俺の取り分で、かなりの額をそのままエルソン男爵に預けている状態だ。
「それは大丈夫です。ありがとうございます。」
「まぁ久しぶりだ。どうだね、各地で君がしてきたことでも話してくれないか?それを肴に、少し飲みたい。つきあってくれないか?」
「喜んで、ご相伴に預かります」
◇
せっかく王都にきたので、少しは休もうと皆、それぞれで羽を伸ばすことにした。
テイカーは実家の商会に行った。西辺境伯のドレスや依頼の報酬の金を、実家の商会に預けているため、その内容の確認や詳細を打ち合わせるためだ。 ハイマンは王都の教会に行き、奉仕活動や治療の手伝いなどをし、レイレとミュカは、王都での買い物や見物を楽しんでいる。クロナは王宮の王国調査室で報告書を作ったり、上司の愚痴を聞いたりしている。
俺は、レイレとデートしたりしつつ、エルソン邸に送られてきた、俺宛の手紙の処理や『マギクロニクル』の今後の打ち合わせを行って過ごした。事前に俺が王都にくることは伝わっていたようで、エルソン男爵領から、開発チームの主要メンバーも来ていた。レアカードの方向性、新キャラ、追加カード、追加ルール…今後の詳細を詰めていく。もう長くチームをやっているので、皆、俺がいなくても商品は作っていける。とはいえ、久しぶりに会って熱い打ち合わせをするのは楽しかった。
そんな中、教会から戻ってきたハイマンに声をかけられた。
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