61◆旅芸人一座◆
それから俺達『プレイヤーズ』は、西の地方の村々を中心に紙芝居をして回った。訪れた先々で、面白そうな、もしくは欲しい素材をもつ魔物がいたら狩りも行っている。
商品も売れたが、それ以上に紙芝居の反応の方が強かった。強すぎた。完成して最初にクロナとテイカーに見せたときは、いろいろなものをそれなりに見慣れているであろう彼らでさえ、驚いて、そして楽しんでいた。
そうやって村を回りながら、西の辺境伯領に向かっていたある日、俺達は、街道沿いの野営所で旅芸人の一座と共に野営をすることになった。野営所は、行商や商隊が次の町や村に行くには距離があるときなどに利用する場所だ。平地になっていたり、川が近くにあったりと野営をしやすい場所になっている。
「ハミルソン一座の座長、ハミルソンと言います。ここで共に野営をするのも何かの縁、よろしくお願いします」
特徴的なつば広の帽子を被ったよく通る声のダンディな男性に挨拶された。野営所では、こうやって挨拶をしておいて、何かのときに助け合うのが礼儀だ。
「『プレイヤーズ』のリュードです。冒険者、行商、学術調査、芸事の披露を行ってます」
「これはずいぶんと幅の広いご活動ですなぁ。ちなみに芸事と言うのは?非常に興味がございます」
基本的に村や町は夜になると門を閉めるため人は入れない。なので野営所は、「あーこのペースだと夜になるな、しょうがない、早いけど野営所で休むか」みたいな感じで、わりと早めの時間から利用される。ちなみに野営所では、なるべく大勢でいたほうがいいとされる。人数がいると盗賊などに襲われにくくなるし、旅をする者同士、情報交換もできるからだ。行商人であれば、ちょっとした商いが行われることもある。
ということで、時間もたっぷりあったので、俺は紙芝居を披露することにした。何回も行ってきて、声の抑揚や張り具合、間の持たせ方…などが、自分で言うのもなんだが上手くなっている。クロナとテイカーの合いの手も、リズムをとったり、強弱をつけて、俺達の紙芝居の完成度はなかなかのものになっている。
紙芝居を終えると、座長も、10人くらいいた座員も泣いてこそいなかったが、言いすぎとも思える賛辞を送ってくれた。
「いやいやいや!このハミルソン!本当に感動いたしました!こんな見せ方が
あるのですねぇ!いや、素晴らしい!!」
「本当はこの後、商品の紹介もするところなんですが、いつもはあまり説明できなくて」
「おや、行商もされているとおっしゃってましたね。ちなみに何を取り扱っておられるので?」
興味を持ってくれたので、トレカを見せて紹介すると、座員全員が買わせてほしいと言ってくれたので売ってあげた。
「はぁー、しかしリュードさんは面白い方ですなぁ。では、お返しに私達の一座の演目も1つ見ていただいてもよろしでしょうか?」
「はい、ぜひ!」
旅をする芸人一座と言うのは村や町で芸を披露する。軽業師がいてサーカスみたいなことをする一座もいれば、吟遊詩人が集まって合唱する一座なんてのもある。たいがい町の大きめの食堂などに10日間ほど連続で演目を行い、店と客からお金をもらう。
ハミルソン一座は、楽器と唄を披露するオーソドックスな一座だったが、その腕前は相当なものだった。弦楽器と打楽器のリズムにのってよく通る座長の声が響き、そこに重なったり、離れたりしながら、歌姫の声が合わさっていく。不思議な感覚の、そして非常に楽しい演奏だった。俺達も惜しみない拍手を一座に送った。
◇
俺は、ハミルソン一座の1人の女性を見ていた。薄いピンクのショートヘアに、くりっとした大きな目と茶色の瞳をしたかわいい女性だった。だが、顔に暗い陰がある。年齢的には少し下か同じくらいだろう。
それまでは会話に加わり共に話していたのに、一座の演奏が始まると同時にどこかに消え、終わると戻ってきていた。芸人一座の場合は、だいたい皆が役割を持っているので、演奏のときにだけ、その女性がいなくなったのが気にかかっていた。それ以上に皆と話している笑顔が、何か無理をしているような、そんな感じがして目を離せなかった。
俺の目線に気がついたのか、ハミルソン座長が説明をしてくれた。
「彼女は、うちの座の笛吹きでマリルと言いましてね。可哀そう娘なんです。少し前に街道で魔物に襲われましてね。うちにも腕っぷしの強いのはいますので追い払うことはできたのですが、その際に腕を噛まれましてね。笛が吹けなくなってしまったのです」
「そうなのか…。教会で治療は?」
「はい。ただ、治癒を受けるまでに時間がかかってしまい傷は治りましたが、指は上手く動かないのです」
「そうか…。それは気の毒にな」
「はい、この後西の辺境領都に着いたら、そこでお別れをする予定です。情はありますが我々は旅芸人一座です。吹けなくなってしまった娘を、置いておくことはできませんから」
「…そうだな」
「誰か彼女をまかせられるような、お優しい人がいればいいのですが」
「そういうのはできないな」
座長はそう言って俺をじっと見るが俺ははっきりと断る。同情もするがこればかりはしょうがない。その後、しばらく雑談をした後、俺は眠りについた。翌朝、起きて顔を拭いているときに、ピンと閃いた。笛…なんとかできるかもしれない。
「ハミルソンさん、これから向かうのは、エリスリだよな?」
「はい。リュードさん達もですよね?」
エリスリは、西の辺境伯領の領都だ。あと村と町を1つずつ挟むが、だいぶ近くまで来ている。
「彼女の、マリルさんの笛の件、思いついたことがあるんだが聞いてもらえないか?」
「治療に関しては、一度治ってしまったものですから、いかんともしがたいと思いますが…」
「あぁ、いや。実は、俺は、旅をしながら新しい技術や商品を開発しているんだ。笛を吹かなくても、笛の音色を出すことができるかも知れない」
「…?何をおっしゃっているのかわかりませんが…いいでしょう、マリルにも話をしてみましょう」
◇
目の前には、疑わし気な目でこちらを伺うマリルがいる。今は原理試作すらないので、説明が非常に難しい。
「それで、リュードさんは、どうしようと言うんですか?当面生活できるお金もらえれば、私の体は好きにしてもらっていいですよ」
「違う、だから聞いてくれ。さっきも説明したように、吹かなくても笛を鳴らすことができると思うんだ。その装置というか、楽器を作るのに君の経験と知識が欲しいんだ。君の体じゃない」
「それがよくわからないって言ってるんです!同情ならまだしも、からかうなんて、酷いじゃないですか!」
「だから、からかってるんじゃない。同情はしてないでもないが、そうじゃない。俺にできそうなことがあって…いや、いいや、今どれだけ説明してもたぶん伝わらない。次の町について、君達は何日か滞在するだろう?その時にちょっと君が納得できるものを作るからそれを見て、もう1回話を聞いてくれ」
「……」
怒りと悲しみと蔑みが混じった目が正面から俺を睨む。俺はため息をついて、その場を後にした。荷馬車に戻るとクロナが俺に聞いてくる。
「あの女のこに惚れたの?」
「いや、違う、なんというか、見ていられなくて。で、俺が何かできそうなことを思いついちゃったから」
「いいけどね。結果がどう出るにしろ、やるなら真剣にやりなさいな」
「わかってる、ありがとう」
こうして、俺達はハミルソン一座と共に街道を進んでいった。
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