59◆テイカーの実力◆
村人に助けを求められてやってきた俺達の目に入ってきたのは、村の中を徘徊する2匹の巨大な蜘蛛だった。パロと荷馬車は心配だったので、村の入り口よりかなり手前に置いてきてある。
昆虫系の魔物というのは、生理的にきつい。できるだけ近寄りたくない。遠隔攻撃、ストーンアロウだけで倒したいところだが、今回は使わずに我慢するつもりだった。俺が切り札として魔法をもっていることは世間的にもバレているが、どんな魔法なのか、そして複合魔法を使えることを、テイカーには話していないからだ。パーティの仲間ではあるが、一応まだお試し期間でもあるからだ。
ちなみにテイカーが魔法を使えるのかどうかも聞いてない。実戦で魔法を使える人間は少ないが、たまにいるし、冒険者の場合はそれを隠していることもある。軽々しく聞くものでもないと思ったのだ。
「テイカー、あの蜘蛛、何してるかわかる?」
「餌となるものを探しているのでしょう。家畜か人間でしょう」
「1匹だけやるとは言ったけど、あまり距離が離れてないし難しいかな」
物陰に隠れながら蜘蛛の様子を伺ってた俺達の耳に悲鳴が聞こえた。
「ジョージ!ショージ!だ、誰かー!私の子どもを助けてーっ!」
俺達は全速力で、悲鳴の上がった方向へ走り出した。
◇
バラバラになった木の残骸が周囲に散らばっている。中身と共に打ち壊された物置の隅で男の子が真っ青な顔で呆然としている。隣の家の扉が開けられ、中では母親であろう女性が後ろから父親に飛び出さないよう抑えられている。
何の感情も宿していない大蜘蛛のガラスの様な目が、男の子に向いているのがわかった瞬間、俺は飛び出していた。
「っらぁ!」
剣を抜いて飛び出し、大蜘蛛の横を走り抜けながら、先端の鎌になった脚と、その後ろの脚を関節から斬り落とす。
「ていっ!」
俺の真後ろから続いたテイカーが、さらにその後ろの脚を2本メイスで砕く。
蜘蛛は一瞬で片側の脚を全て失い、ドシャリと倒れた。
シャカシャカと残った脚だけで奇怪なダンスをしている蜘蛛の頭部に剣でとどめを刺して、もう1匹を見ると、クロナが上手く立ち回って、こちらに来ないようにしてくれており、そこにかけつけたテイカーがメイスで鎌の脚を根元から砕き落としていた。
互いが自分のやることを瞬時に判断して動く。王都にいる時に、軽い訓練はしていたが、実戦で、しかも初戦で声を掛け合うことなく、流れるようなコンビネーションを組めたことが俺の心を震わせた。
残りの蜘蛛を片づけると俺達は自然と拳をぶつけあった。
◇
村人に礼を言われながら素材を剥ぎとっていると町から来た冒険者達6名が現れた。事情を話し、素材の一部と糸袋を俺達がもらうことを伝えると文句を言ってきたが、村人たちの援護射撃と、蜘蛛2匹を3人で倒せる腕前の俺達にはそれ以上言ってこなかった。というか何もせずに討伐報酬はもらえるのだから欲張らないのが正解だ。文句を言ってきたのはポーズ付けと、あわよくばという気持ちからで、そんなのは俺達もわかっているので、さして気を悪くすることもなく、俺はその冒険者達と町へと向かった。
町へ着いた俺達は、宿をとったが、俺とテイカー、クロナは全員別部屋だ。
「俺とリュードは一緒でもよくないですか?宿のグレードは落とさない方がいいと思いますが、部屋代はせめて節約した方がいいでしょう」
「ごめん、蜘蛛の素材が手に入ったから少し籠りたいんだ」
「テイカー君、この状態のリュード君に何を言っても無駄よ。新しい素材とか手に入るたびに、1人で籠って実験とかずっとしているのよ」
「そうなんですか」
「ひどいときには街道の脇に荷馬車をとめて、その中でいじりだすわ。部屋にこもって3日間出てこなかったときもあるわ」
「クロナさんも苦労されていますね…」
なんか俺が悪いみたいな流れになりかけているが、とりあえず、俺は素材を抱えて部屋に入ることにした。
「リュード君、夕ご飯は一緒だからね。呼びにいくわよ」
クロナの呼び掛けに俺は手を上げて答え、ドアを閉めた。
◇
蜘蛛の素材は、とても良いものだった。乾燥した昆虫の神経を粉にして、『スライム粉』に混ぜて固めた神経棒。これは葦のような植物に注いで棒状にしか作れなかったのだが、蜘蛛糸に浸して乾かすことで自由な形にすることができたのだ。また1歩、おもちゃ道を進める。
ちなみに成功例しかあげていないが、こういった成功の裏では、膨大な量の失敗も重ねている。普通は素材をいじっても結果が出ないことの方が多い。ただ、これまで重ねてきた失敗の傾向から、なんとなく使える素材の方向性というか、いじりかたがわかってきた気がする。
今回手に入れた技術でどんなものが作れるか、俺はいろいろと頭に浮かべながらベッドに入って休んだ。
◇
「リュードは、行商人の資格とっていますよね?」
クロナとテイカーと夕食を食べているとき、テイカーに聞かれた。
「うん、荷馬車とパロを買うのに必要だったからね。テイカーもでしょ?」
「はい」
「で、急にどうしたの?」
「私達がパロの荷馬車で移動しているため、寄る村や町で、何か売っていないのかと聞かれるのです」
「あーそうだね。確かに聞かれるね。今までは学術研究とか適当に言ってきたけど」
「これは、大きな機会損失です。何かを売るだけではありません。リュードの考えるものを広めていける、せっかくの機会なのに、それをしていないことになるのです」
「むぅ…。…そうだね、確かにそうだ」
俺は身分的には、冒険者であり、行商人である。最初に作ったトレカでは俺自身が販売もしていたがそれ以降は研究と企画、開発にしか目がいってなかった。
「ということで、リュード、俺達が各地を回りながら売れるものを作ってはいかがでしょうか?」
「そのために私達が手伝えることがあれば言ってね。リュード君ほど手先が器用ではないけれど作ったりすることも、教えてね。
2人は俺が部屋に籠っている間に、そういう話をしていてくれたらしい。
「2人ともありがとう。なら明日から、俺達に何ができるか、考えてみるよ!」
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