58◆西へ◆
「それじゃあ、また帰ってくるのよ。皆さんもリュードのことよろしくお願いしますね」
母親のアウラが、テイカーとクロナに頭を下げ、2人も頭を下げながら「がんばります」とか「私にできることをしますわ」などと返事をする。俺は苦笑いを浮かべている。
◇
王都の周囲には、円状に穀倉地帯が広がっており、東西南北に4本の主街道が走っている。王都を出た俺達は西へ続く主街道を1日半かけて進み、穀倉地帯を抜けた先で、脇街道を入って南下した。そうして着いたのは、俺の生まれ故郷であるエルソン男爵領だ。
俺達は西へ向かう前にエルソン男爵領へと来た。実家に寄って母親に顔を見せておくのと、『マギクロニクル』の開発チームの様子を久しぶりに見ておくためだった。
『マギクロニクル』の開発チームの面々は、元気にネタ作りや開発に勤しんでおり、久しぶりに熱い話ができて楽しかった。苦楽を共にしたメンバーだけに、今の開発と生産に追われる大変な状況も理解できたので、少しでも支えになればと貴族達の楽しみっぷりや大会の様子を伝えると、ものすごく喜んでいた。俺がいなくても、充分に『マギクロニクル』を回していけると思うが、念のため今後の注意点などの幾つかの指示も出しておいた。
俺の実家は以前の4倍くらいの大きさに改築されていた。母親は俺が帰ってきたのを、そして仲間を連れているのを見ると「あらあら!」と喜んで、ご馳走攻めをしてくれた。食事の席で「この子は子どもの頃から、誰かと一緒にいるのを見たことがなくて、ずっと心配していたの」とかいう始末。7歳から血反吐を吐くような修行を続けていて、その前はひたすら魔法にのめりこんでいたので、友達は確かにいなかったが、それを成人してから言われるこの恥ずかしさ。
「リュード、こっちにいらっしゃい」
「なんでしょう、母上」
別れ際に母親に手招きされる。
「リュード、クロナさんは本当にお嫁さん候補じゃないの?」
「本当に違うって。国のお目付け役だって説明しましたよね?」
「そう残念ね…いい?お嫁さん見つけたら必ず連れてきなさい。必ずよ」
母親は家を出た時よりも少しふっくらとしており、ちょっと肝っ玉母ちゃんさが増していた。トレカの頃から、カードのベース作成を続けてくれている母親は『マギクロニクル』の生産において、非常に忙しくなったラーモット家を切り盛りしてくれている。今では従業員15人を越える工房の女主人だ。原料となるスライムの養殖や、雲草の栽培もやっており、近所の知り合いの主婦以外に、孤児だった子どもも数人預かって寝食を与えつつ仕事もさせているという。父親が自慢げに話すとともに騎士引退後は、自分も家を手伝うのだと嬉し気に話していた。
「まぁ、わかったよ。そのうちね」
「そう言っているうちにすぐに年を取るのよ。リュード、あなたはもういい年なのだから。それをわかって頂戴ね」
曖昧な調子で返すと、少し怒られた。18歳でいい年と言われても、前世の記憶もあり全くピンとこない。いい人がいればとは思うが、今のような生活を続ける中で出会えることもないだろうから、まだ先の話だと思っている。
苦笑しながら母親と別れ、俺達はエルソン男爵領を後にした。
◇
西街道に戻り、旅を続ける。
「お~~い!そこの人!待ってくれ~~~!どうかー!」
翌日の昼過ぎ、荷馬車をのんびり進めていると、後ろから俺達を追いかけてくる人がいた。
「頼んます!頼んます!どうか、おらの村を救ってくだせぇっ!」
すがりつかんばかりの勢いで泣きついてきたので、俺達は足を止めて事情を聞いてみた。追ってきたのは近くに住む村人で、昨日、村のすぐ横の森で蜘蛛の魔物を発見したそうだ。確認のために向かった村人も見つけたことから、すぐに近くの町の冒険者ギルドと衛兵に討伐をお願いにいったそうだが、その伝令役が帰ってこないうちに、今日になって森から2匹出てきたのを見て、再度町に伝えるべく走っていたそうだ。
こういう場合、下手に手を出すと面倒くさいことになる。倒しても、ギルドから正式に依頼を受けたわけではないので報奨金は出ないし、素材に関しても横取りするなと正規の依頼を受けた冒険者に喧嘩を売られる可能性がある。ここから町へは半日くらいだから、早ければ今日にでも兵士か冒険者が来るはずだ。
「ちょっと面倒な案件ね」
「そうですね、既に討伐依頼を出ているので倒してもただ働きになるでしょうね」
「そ、そんなぁ、む、村じゃあ怖くって誰も出れなくて皆、家にこもってるんだぁ!村ン中にまで出てきてるんだぁ。おらだって死ぬ気で走ってきたんだぁ!」
「ここらで蜘蛛の魔物だと、おそらくハンタースパイダーですね」
「テイカー、それどんなの?」
「大きさは、でかいやつで俺達くらいでしょうか。前足の2本が鎌みたいになっているのが特徴です」
「強い?」
「通常ですと、数人で囲んで、鎌に気をつけながら槍で刺し続けて倒します」
「素材とかは?」
「鎌と脚、後は腹部に糸袋があります。糸袋は、お湯の中で糸を巻き取っていけばちょっといい値段の糸が取れますね」
「それ、欲しい!」
「ちょっとリュード君、目をキラキラさせないで。すでに出ている討伐依頼はどうするのよ?」
「お兄さんは、今2匹目がいたって知らせに行こうとしていたんだよね?」
「んだ。そしたらあんたらがいて、冒険者みたいだったから、助けてくれねえかと」
「よし、じゃあ、1匹だけ倒そう。お兄さんは、そのまま町に行って俺達のことも一応伝えといて」
「えぇ、そんな後生な…いや、でも…。わ…、わかっただ。」
明らかに不満そうな顔をしている村人だったが他に選択肢もなく、頷いてくれたので俺達は村へと向かった。
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