55◆大発見◆
王都にいるとき、俺とクロナはエルソン男爵邸に住んでいる。宿代、飯代もかからないし、使用人は良くしてくれるし非常に快適だ。エルソン男爵には、『マギクロニクル』で相当な貢献していると自負しているので、遠慮なく使わせてもらっている。
その『マギクロニクル』だが、最近では貴族以外にも、噂を聞きつけた大商人達も買い始めているそうだ。ブースターパックが10パック入った1箱の値段は1500リムで、この1年の間に2500箱以上は出荷している。デッキセットや周辺商材も併せたら、トータルで500万リム以上の利益は出しているはずだ。平民の成人男性が年間1人暮らすので7~8000リムかかることからすれば、売上のイメージもわかってもらえると思う。ちなみに無理やり前世日本での金額に換算するなら、なんと25億近くになる。「まるでお金を刷っているようだ」、前世でTCG関係者の言っていたセリフが頭をよぎる。
今俺は、屋敷の裏庭にある納屋の中にいる。納屋を改造して、俺の研究室として使わせてもらっているのだ。冬なのでかなり冷えるが、火を使ったり、素材によっては臭いが出たりするためしょうがない。
そして俺の体は寒さとは別の理由で打ち震えていた。
「できてしまった…できちゃったよ!」
◇
魔石は人が触れていると、属性ごとの現象を起こして中の魔力を放出し石になってしまう。例えば水の魔石は、触れると全体から水がしみ出して、水滴をポタポタと落とす。けれども、それが生活において使われることはない。出る量も少ないし、人が触れ続けていないとならないからだ。水が必要なら汲んでくるか、魔法で出せる人がいるならお願いすればいい。乾燥地帯で飴代わりに舐められたりはするらしいが限定的な使われ方だ。
つまり魔石には、一部を除いてあまり価値がない。俺は、その魔石に可能性を感じており、使いこなせれば作れるおもちゃの種類も増えると思っている。少し前には、魔力を遮断する膜の開発に成功し、その膜で魔石を覆い、穴を任意に開けることで、発生する現象をコントロールすることに成功した。
今回開発できたのは、そのもう1歩先の技術だった。
鍵になったのは、昆虫型魔物の神経節だ。旅の途中で倒したバッタ型の魔物の甲殻を保存しておいたのだが、その中に干からびた黄色い繊維状の塊と紐がついていた。これはいったい何だろうと思って見ていたら、ふと前世の記憶が蘇った。子供の頃に昆虫図鑑で見たそれは神経索と呼ばれる昆虫の神経の束だった。
神経という言葉から連想をしてイメージを膨らませて試作を作る。カラカラに乾燥した神経を、すり鉢で細かい粉にし、定番の『スライム粉』の溶液に混ぜ込んで、葦のような中空の植物に流しこみ乾燥させた。出来上がったのは薄いクリアイエローの神経棒と呼ぶべきものだった。
もし俺の予想していることが正しければ…と期待を込めて、クリアイエローの神経棒の端を風の魔石にくっつけ、そして反対側の端に指を触れると、ふわりと魔石から風が吹いた。
「よよよ!よっしゃぁああーーー!!」
俺は雄叫びを上げた。これがどのくらいすごい発見かわかるだろうか?直接触らなくても、離れたところにある魔石の効果を発揮させることができるのだ。
例えば、先日作ったハーピィちゃん。あれは直接魔石の設置した場所を触らなければならないが、この神経棒を応用すれば魔石が仕込めないような翼の先に触れることでも鳴くようにすることができる。この先、光る機構を仕込んだおもちゃを作るにも、便利だ。光る剣を作ったときに、柄を握れば剣身が光るようにだってできるだろう。もっとも光を発する昼属性の魔石は、まだいじったことがないので、どうなるかはわからないが。
俺は確実に、おもちゃ道をまた1歩進んだ!何を作ろうかと、これに更なる工夫を加えるにはどうすればいいのかと俺は、ますます夢を膨らませていった。
◇
この神経棒が、人間の何を伝えて魔石の効果を引きだしているのかが俺にはわからない。そもそも魔石が人間の何を判定して現象を引き起こしているのかわからないからだ。電気なのか、生命エネルギー的なものなのか、人間しか持っていない波長的なものなのか…。以前気になった俺は、瀕死や生け捕りにした魔物や動物に魔石を触れさせたことがあるが、魔石は何の反応もしなかった。
この原理をこれ以上は調べようと思わなかった。謎は謎のままだが、現象として起きているのは事実で、俺はその事実をもとにおもちゃを作っていくからだ。いつかもっと本職の研究者が解き明かしてくれるだろう。
神経棒が出来たことに気を良くして、いろんな実験を重ねた結果、俺はもう1つ大きな発見をしてしまった。魔石は魔物の体内で、魔力が徐々に固まって生成される。そしてため込んだ魔力は放出してしまうとそれで終わり。魔石に魔力をチャージすることはできない…はずだった。
ふと思いついて、グリフォンのでかい魔石と、空っぽになったハーピィの魔石を神経棒でつないでみたら何か様子がおかしい。灰色だったハーピィの魔石に、僅かに緑色が戻っていたのだ。慌てて神経棒を取り外し、ハーピィの魔石を手に取ると風が吹きあがる。
「!!!おぁあああーーーっ!!!」
魔石のチャージができた。これは革命だ。作ったおもちゃが遊べなくなってもチャージができれば、何度でも遊べるようになる。これはすごい!凄まじい発見だ!
奇声を発して納屋の中で転げまわっていたら、使用人に相談されたクロナが顔を出してきた。我に帰って「なんでもない、大丈夫だ」と告げると、クロナも「あぁ、いつもの研究ね、寒い中、来るのも大変だからもう少し静かにね」と屋敷に戻っていった。
そこから俺は、魔石の大小、放出のされ具合、属性を変えたら…などの各種条件を変えながら夢中になって魔石チャージの研究をした。
気がつけば、寒かった冬も終わりかけていた。
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