53◆『第2回マギクロニクル・エルソン公式杯』◆
「貴族の皆様方、ごきげんいかがでしょうか。これより『第2回マギクロニクル・エルソン公式杯』を開催いたします!前大会に続き、司会進行は私リュードがさせていただきます!」
盛大な拍手が俺を迎えてくれる。仮面をつけた貴族達が、約50名ほどテーブルに座って壇上の俺を見ている。前回よりも20人も増えている。仮面をつけているのは、貴族の派閥など関係なく『マギクロニクル』を楽しもうという趣旨を明確にするためで皆、偽名を名乗っている。例え、特徴で誰が誰かわかろうが、あくまで偽名の、正体不明の貴族なのだ。
漁師の元締めのような肌の黒いのは国王ではないし、大きなクマみたいのはバルクライ北辺境伯ではないし、分厚い胸板のやたら強者の雰囲気を発しているのはユリーズ東辺境伯ではないし、背の高い視線だけで人を殺せそうな人は、宰相のヴァルド侯爵ではないのだ。
というか、どうすんだ、これ。舞台袖のエルソン男爵やエルデン老を見ると2人の瞳孔に光がなかった。しょうがない、俺は自分の仕事をやるだけだ。
「それでは、ここで今大会の賞品を発表させていただきます!前大会では、ブースターパックの優先販売権を賞品とさせていただきました。今回も同じようにさせていただきますが、さらに!今大会だけの賞品がございます!」
ざわりと、場が湧く。
「今大会の優勝者は、ただ1枚しか存在しないカードを手に入れることができます!それは、皆さまも1度はデッキに組み込んだことがあるであろう、白の魔法使い『癒しの聖女リリー』の…特別版『癒しの聖女王リリー』です!』
「それは、いったいなんだ!?」
「はい、この『癒しの聖女王リリー』ですが、コストはそのままに癒しのパワーが1増しています。そして、さらにマナをつぎ込むことで、なんと2人同時回復もできるのです!癒しの聖女リリーの、たどり着く未来の1つには、王女となり、その癒しの力で国を治めるというものがあります。その未来の姿のスペシャルカードが『癒しの聖女王リリー』なのです!」
「なんと!」
「おぉ!」
「それでは皆さま、本日も『マギクロニクル』をお楽しみください!」
拍手喝采を受けて、大会は始まった。
少し補足をしておく。『癒しの聖女リリー』は、傷ついた仲間を回復できるカードで能力的に使い勝手がよく、絵姿もはかない美人な上に、ちょっとお胸を大きく描いているためか人気がとても高い。
それがパワーアップ(胸の開き具合含む)して、より美しくなったのが『癒しの聖女王リリー』だ。皆が欲しがるが、今大会の優勝者に贈られる1枚しかないので、誰が手に入れてもドタバタ劇が展開されるだろう。売り方に関しての国王陛下のお墨付きを得ているのでエルソン男爵には被害は及ばないからいいだろう。
◇
通常TCGは第1弾、第2弾と…販売されていく。各弾ごとに目玉キャラ、目玉コンボなどの強いカードを販売側が設定する。そして、次の弾は、その前の弾の強いカードに対抗する別のカードをなどを出していったりする。そうすることで、流れも作れ、メディアも展開しやすく、お客さんも乗せやすいし、プレイヤー達も乗りやすい。
弾の販売時期、間隔は3ヵ月~半年ほどだが、その商品の人気度や競合商品との関係によって変わることもある。売れるからと言って、短い期間のうちに弾を重ねていくと、お客さんがコンテンツをしっかりと楽しむ間がなく、なおかつ次の商品の購入を強く促すことになり、結果そのTCG自体に見切りをつけられることもある。もちろん、その逆に次の弾が出るまでが長すぎて飽きられることもある。
そういった前世日本でのTCGと同じような展開ができるとは思えなかった俺は、『マギクロニクル』の第1弾では、明らかな目玉キャラやコンボは用意せず、強さを平均的に調整している。各属性ごとの目玉キャラや目玉コンボは設定したが、そのどれもが勝率は同じくらいになるという感じだ。属性ごとの有利不利はあるが、その辺りはプレイヤーの対戦運、勝負運に含まれる。
発売からほぼ1年が経ったこのタイミングで、俺はその辺りの肌感覚を掴もうとしていた。各テーブルの戦いを見ていると、商品をすさまじい勢いで買ってくれている割には、各プレイヤーの理解度や熟達度は上がりきってはいないと感じた。
わざとカード一覧表を作っていないのもあるし、そもそも大規模メディアがないため、プレイヤー同士が直に会って情報を交換するので情報の伝達と浸透に時間がかかるのだと思われた。
最初の開発の段階で、第4弾くらいまでの新キャラ、新魔法、既存のキャラのパワーアップカードなどのネタは仕込んである。俺は各テーブルを回りながら、第2弾は夏前くらいでいいかもな、とかエルソン公式杯以外の中規模大会とか、地方大会を開いて、そこだけのレアカードをもらえるようにするかとか、メディアチームで『マギクロニクル』新聞を少しペースを早めて発行するか…と今後の展開を考えていた。
王都のエルソン男爵邸には、開発チームの主要メンバーも今回は来ているので、数日内に打ち合わせをしてフィードバックしていく予定だ。
◇
「優勝は!前回3位からの雪辱を果たした、ヴァルド侯爵代理のドバル卿だぁ!ドバル卿、おめでとうございます!」
「いやぁ。ありがとう!」
人を射殺しそうな目のままで、ドバル卿は笑う。
「では、『癒しの聖女王リリー』になります。どうぞ」
特別な箱に入れたカードを渡すと、ドバル卿はとても嬉しそうに微笑んだ。
「ヴァルド卿、そのカード、俺に売ってくれ!」
漁師の元締めみたいな貴族が何かを言っている。しかも名前、もうそのまま言ってるし。仮面の意味!
「売りませんよ。何があっても。これは我が家の家宝と今、相成りました。」
「くそう、国王めいれ…」
「はい!ということで!優勝者はバルド卿でした!皆さま今一度盛大な拍手をお願いします!」
盛大な拍手がドバル卿に注がれる。
「以上を持ちまして『第2回マギクロニクル・エルソン公式杯』を終了いたします!次回大会は、また来年の冬を予定しております!それでは皆様ありがとうございました!」
こうして、2回目を迎えた『マギクロニクル』大会は無事に終了した。
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