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52◆異世界スカイランタン◆



 大迷路が完成し、子ども達が遊びまくって楽しんでくれた翌日、俺とバルクライ北辺境伯はお茶を飲みながら談笑していた。


「バルクライ北辺境伯閣下、実は大迷路以外にも思いついたものがありまして、それもお見せしておこうかと」


「ほう、どんな遊びだ?」


「遊びというか、名物というか…。お祭りの目玉になんかできればおもしろいかなと思いまして。ただ、ここですと危険ですので庭でもよろしいでしょうか?」


「危険?ふむ、何やら意味が分からんな。よし行こう」


 庭へとやってきた俺は、大きめの薄いベージュの袋とピンポン玉くらいの黒い塊を取り出す。


「それは袋草か」


「はい、袋草を3枚、接着してつなぎ合わせたものです」


「その黒いのは、牛糞燃料だな?」


 バルクライ北辺境伯は、平民の燃料までよく知っていた。牛糞は乾燥させると、よく燃える燃料になる。冬の寒さが厳しい北では、資源にも限りがあるため、家畜の糞を乾燥させたものを燃料として使用している。草などを混ぜ込んで火力や燃焼期間を目的に応じて調整しているようで、俺が用意したのは料理に使う火力が高めのものだ。他には炎はあまり出ないが、暖房として熱が長持ちするタイプもある。しかもこの牛糞燃料、草の香りがするだけで全く臭くない。


 俺はまず袋の内側につけた細い木の骨組みを十字に広げて、袋を膨らんだ状態で固定した。次に袋の口の部分に、真ん中が大きく凹んでいる十字型のパーツを取り付ける。凹みの部分は、ちょうど牛糞燃料がすっぽりと納まるようになっており、そこだけ細い金属のパーツになっている。


 袋が燃えないように気を付けながら牛糞燃料に魔法で火をつける。バルクライ北辺境伯や居合わせた家族、使用人は、何が起こるのかと怪訝な顔をしている。しばらく待つと、袋がふわりと浮かびはじめた。


「ぬ!?」


「え?」


「う、浮いた?」


 ぼんやりと光りながら浮かんでいる袋を見て、皆が目を丸くしている。


 俺が作ったのは、天燈、スカイランタンと呼ばれるものだ。暖かい空気が袋の中に入って浮かび上がる小さい熱気球で、台湾で行われるランタンフェイスティバルなどが有名だ。お祭りでは、ランタンに願いごとを書いて空に飛ばすが地面に落ちて時折火事になることもあるのだとか。さすがに飛んで行ったスカイランタンがどこかで火事になるのはイヤだったので、紐はつけている。


「こ、これはなんだ?」


「煙突から煙が空へと上がっていきます。暖かい煙は空気より軽いのです。その軽いのを集めるとこのように浮かびます。私はこれをスカイランタンと呼びます」


 バルクライ辺境伯の目はスカイランタンに釘付けになっている。


「それでですね…」


「う、うむ?」


「このスカイランタンを300いや、500個ほど作って秋の終わり、風のない日の夜にに、湖の上で灯してみるのはいかがでしょうか?おそらく誰も見たことのない、とても素敵な光景が広がると思うのです」


「ほう」


「凪いで鏡のようになった湖面に、スカイランタンの灯りが反射して数は倍になって見えて……、幻想的な風景になることでしょう。例えば、こんな具合に!」


 俺は羊皮紙を張り付けたキャンパスを取り出して見せる。そこには俺の描いたイメージスケッチが広がっている。手前に喜ぶ観客の影があって、その向こうには夜の湖が広がっている。その上にスカイランタンが無数に灯り、湖面にはそれが反射している。商品スケッチに比べて、風景イメージは苦手だが、がんばって描いてみた。


「ほわぁ…」


 バルクライ北辺境伯のレアな表情と声をいただいた。


「き、貴公は…、貴公は誠に、才腕御免状を持つだけの男だな。これほど心振るわせられたのは初めてだ。素晴らしい!」


「ありがとうございます。喜んでもらえて何よりです」


 翌年の秋、俺は参加できなかったが、スカイランタン祭りをバルクアクスで行ったところ大盛況となったそうだ。それ以降、噂が噂を呼び、毎年の秋の終わりに、祭りを開催するごとに近隣から観光で訪れる人が増え続けて、北の辺境領の名物となっている。


 ちなみに俺の描いたスケッチは、翌日からバルクライ北辺境伯の屋敷の正面玄関のところに飾られている。「恥かしいので辞めてほしい」と言ったら、「我が家の誉れだ。すまないがどうしても飾りたい」と強くお願いされてしまい、折れるしかなかった。





 冬に入り、バルクアクスには粉雪が軽く舞い始め、冷え込みも厳しくなっていた。それでもまだ序の口で、冬の20日を越えたくらいから、更に寒さは厳しくなり、雪もかなり積もるということだった。その頃には街道もほとんど通れなくなり、一冬の間は閉じ込められてしまう。大仕事も無事に終えたので、俺達は早々に、バルクアクスを発って王都へ向かうことにした。


 冬は貴族の社交シーズンとなるため、バルクライ北辺境伯家族も王都へと移動する。俺が王都に行くことを伝えると、一緒に行こうと提案されたが、馬車と俺のパロの荷馬車では足並みが揃わないため丁重にお断りした。


 荷馬車はゆっくりと街道を進む。クロナは、夏の間は御者台によく座っていたのに、今は幌の中に入って、毛皮にくるまって寒い寒いとうるさい。俺はご機嫌取りもかねて荷馬車の中に牛糞燃料で段をとれる七輪みたいのを即興で作ってやった。


 バルクアクスでは、大迷路にスカイランタンで俺が常に忙しく、途中手伝いはしてもらったものの、基本は放置していたため、後半はクロナの機嫌が悪かったからだ。それでも文句を言ってこないあたりは、自分の中で仕事としての線引きをしていてくれていたようで助かった。王都に発つと伝えたときには、だいぶホッとした顔をしていた。


 今回俺が王都に向かうのは、『第2回マギクロニクル・エルソン公式杯』を開催するためだ。司会進行の役を任されている。それ以外にも、カードの今後の開発・販売計画も修正して打合せしていかねばならない。


 御者台で、白い息を吐きながら、俺は今後のことを考えていた。





お読みいただきありがとうございます。

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どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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