50◆北のリサーチ&プレゼン◆
「貴公、よければ夕食でも共にしよう。家族や子ども達も紹介しよう。着いてきてくれ」
バルクライ辺境伯の後に俺とクロナは続く。
「屋敷の部屋も用意させよう。貴公とそこのお仲間、それぞれ一部屋でいいな」
「バルクライ辺境伯閣下、本日はお世話になります。ただ明日以降はできれば街の宿に泊まりたいと思います。この地の魔物や、商店、人々の暮らし等も見たいと思いますので」
「道理だな、わかった。そうだな、今日泊まった部屋は貴公がバルクアクスの街に滞在する限りいつでも使ってくれても構わない。あわせて門番にも、貴公がいつ来ても通すように手配しておこう」
「ご配慮いただきありがとうございます」
バルクライ辺境伯には連れられて着いたのは、大きな扉の前だった。
「おう、着いた、ここだ。イワンだ、入るぞ」
扉の中から「はい!」「お入りくださーい!」とか「クマの叔父様だ!」とか幼い声がたくさん聞こえる。中に入ると、部屋は想像以上に広く、おそらく3歳~10歳くらいの子ども達が20人ほどいた。絵本や積み木がそこかしこに散っている様子は、まるで保育園やお店のキッズコーナーだ。
「この北の地は冬がとても寒くてな。ほとんど外に出ることはなくなる。私の一族は冬になると皆この屋敷に集まるのだ。暖房代も節約できるし、何より寂しくない」
「それは素敵な考え方ですね。それで、この子たちが冬の間に遊べるようなものを、ということでしょうか?」
「貴公は理解が早いな。その通りだ。大人と少年は、鍛錬をしたり、今年は『マギクロニクル』もあるからいいのだが、それよりも小さな子たちや女の子はな。何か退屈せずに過ごせるものを与えてあげたいのだ」
子ども達を見る北辺境伯の目は限りなく優しい。
「貴公が来てくれたのが、このタイミングでよかった。集まるのが初めての子もいるのでな、夏の終わりに10日ほど、まずはこのように集まって、本格的に冬が来たら、また集まるのだ」
慣らし保育か!と突っ込みを入れそうになってしまう。俺は子ども達の年齢や、体つき、顔や着ているものなどを見ていく。企画をするにあたって、ターゲットが明確なのはいいことだ。皆、何この人?と不思議そうな目で俺を見ている。その後、夕食をいただくまでの間、子供たちと仲良くなって、普段どんな遊びをしているかとか、何が好きかとか、夏は何が楽しいとか、そういう話をいろいろと聞かせてもらった。
その後の夕食では、バルクライ家の主だった人達と食事を共にした。ここでは、バルクアクスの街まで届いていたグリフォンバスターの二つ名を話題にあげられ、いろいろと語らされた。 ちなみにグリフォンの肉は、ハリコフ子爵から献上されたらしい。とても美味しかったらしく、バルクライ夫人に「また次も機会があったらお願いね」と言われたので「次があったら私は泣いて逃げ出します」と返したら笑っていた。
◇
翌日バルクアクスの街に宿をとった俺は、それから10日間ほどリサーチに明け暮れた。街中をめぐって商店をのぞいて買い物と雑談をしたり、冒険者ギルドに行って、目を付けた冒険者達に一杯おごって魔物の情報や周辺の様子を聞いたり、実際にその場所に行ってみたりした。
その結果、人々の暮らしぶりや気候などもある程度、把握できた。冬になると街の北にある山脈から吹き下ろす冷たい風と雪でとにかく冷え込むため、人も魔物も外での活動を一切しなくなる。この期間は、冒険者達もよっぽどの依頼でない限り安宿から出てこずに、ずっと酒を飲んで寝てるらしい。
また、バルクアクスの街のすぐ隣には、山脈の雪解け水でできた大きな湖があり、夏や秋は魚がとにかくたくさん獲れる。さらに牧畜も盛んで、羊や牛の肉自体も美味しいが、チーズも自慢だということだった。実際、名物だという、白身魚のチーズ焼きを食べたら、最高に美味しかった。
俺の頭の中に幾つものアイディアが湧いては消えていく。そして俺は、バルクライ家のための、子ども達のための素敵なアイディアを閃いた。ただ、少し大掛かりになりそうだったので、しっかりとしたプレゼン資料やイメージスケッチを用意しなければならなかった。今はないものにお金を出してもらうには、相手がしっかりとイメージできる企画書がなければならない。それらを携えて、俺は再びバルクライ家を訪れた。
◇
「…ということで、バルクライ北辺境伯閣下、冬場はどうしても体を動かすことが減ります。そのためには個々で皆さん鍛錬をしたりもされるのでしょうが、子どもは集中力も続きませんし、難しいでしょう。その為の企画がこれなのです!」
イメージスケッチを指さして俺は熱弁する。
「この遊びを通して、子ども達は体を動かし、宝物を発見し、欲しいものを悩みながら手に入れる体験をし、幾つかの苦難に立ち向かう経験を得ます。それに、この企画に専任者をつけていただければ、毎日変化するので飽きずに楽しめます。しかも大人達も楽しめますし、なにより上からお茶を飲みつつ、子ども達に声をかけることもできます!」
「う~~む」
バルクライ辺境伯は、顎に手を当てて考え込む。おそらく想像以上に大掛かりになってしまったと思っているのだろう。でも、もう一押しだ。さらに俺はノリノリでプレゼンを続ける。さらにここから発展する、その様子を想像してもらおう。
「もちろん、そのためにはあの子ども達の部屋、できればあれよりも広い部屋を、まるっといただくことになります。ですが、これが出来上がれば、バルクライ家の子ども達だけでなく寄り子の子ども、他貴族の子ども達も大興奮させて喜ばせることができます!さらに!街の人や旅人に向けたもっと大きなものを郊外に作ってもいいと思うのです。そうするとそれ目当てに、多くの人々が訪れることになるかもしれません!」
「うむ…、わかった。貴公を信じよう。それに、こんなものは確かに見たことも聞いたこともない。やってみてくれ。何が必要だ?」
「専任の管理者、お抱えの職人チームですね、いまから突貫でかかれば、冬までに間に合うとは思います」
「わかった、すぐに手配しよう」
こうして俺はバルクライ北辺境伯邸に通い詰めて、大きめのプロジェクトを推し進めることになった。
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