49◆北の辺境伯◆
宴会の後、10日ほど町にとどまっていた。クロナが、この町の冒険者ギルドで登録をし星3になるためだ。グリフォン討伐で自分が星1でついて行けなかったことを悔やんでいるのだという。「気にしなくていいよ」と言ったら「楽しんでいるけど、一応は仕事で一緒にいるの!それ以上言ったら気持ち悪い幻覚見せるわよ!」と言って怒られた。気持ち悪い幻覚に少し興味があったが、謝って好きにしてもらった。
ちょっと腹が立つのは、俺は星3になるまで200日以上かかっているのに、クロナは10日でなれたことだ。解せぬ。国の圧力とかかけたに違いない。クロナにそう言ったら、「使えるものは何でも使うわよ。当り前じゃない」と返された。悔しい。
俺達は、再び街道を北に向かっている。このまま北の辺境伯領まで行くつもりだ。季節は夏も終わりに近づいており、北に向かっているのもあって非常に涼しく気持ちがいい。パロと荷馬車の調子もすこぶるよく、気分は上々だった。今回も、行商人の3台の荷馬車と共に移動している。
幌を巻き上げた荷馬車の荷台から、左右に広がる草原を見て不思議な景色が目に入ってきた。無数のベージュ色のコンビニ袋みたいのが草原のいたるところで風に揺れている。その袋はどれも、風を取り込んで、丸く膨らんでいた。
「クロナ、クロナ!あれ何?あの袋みたいの!」
「あぁ、あれは袋草よ」
「名前そのまま!」
「風を受けて中に入ってきた小さい虫やごみを食べるそうよ」
「まさかの食虫植物!」
「この時期、夏の終わりから秋の中頃にかけての、北の草原での風物詩ね。あの袋は食べられるわよ」
「あれ、食べれんの!?」
その晩、着いた町の宿屋で、早速食べてみたがびっくりするくらい美味しくなかった。コシの全くない春雨みたいな感じで味はない。しかも草っぽい青臭さが残っているためか、肉や野菜を溶かし煮込んだスープに入っていたが、これが実に合わない。そして、それ以外の調理方法もないようで、この時期のスープのかさ増し以外に出番はないそうだ。
そんなこんなで、のんびりを旅をして、俺達は北の辺境伯領の領都バルクアクスへと着いた。
◇
「失礼ですが、リュード殿でよろしいでしょうか?」
バルクアクスの門番に、誰何された。
「そうですが、何か?」
なぜ、この門番は聞いてくるのだろうか?しかも全員に聞いていないところを見ると、外見や旅の装いなども含めて、分かった上で声を掛けてきたようだ。
「バルクライ北辺境伯閣下より、リュード殿がお見えになった際は、北辺境伯屋敷にお連れするように言付かっております。どうぞ、私達についてきてきただけますよう、お願いいたします。」
「バルクライ北辺境伯は、ハリコフ子爵の寄り親よ。ちなみに2代前の王様によって潰された貴族は北辺境伯の寄り子だったから、気を使っているのでしょうね」
クロナが小さく告げてくる。俺はそんな大貴族に何を言われるのかと、うんざりとした気分で、町の中央に建つ、冗談のように大きな屋敷へと向かった。
◇
「おぉ、貴公がリュード殿か!このバルクアクスに参るのを、一日千秋の思いで待ちわびていた!」
俺の目の前にクマさんがいる。あちこち跳ねたものをむりやり撫でつけた薄い青色の髪、綿毛をつけたかのようなもみあげに愛嬌のある、くりっとした丸い目。肩幅が異様に広く、体型も容姿も本当にクマっぽい。年齢は30半ばくらいだろうか。
「はじめまして、バルクライ北辺境伯閣下、リュードと申します」
「おお、すまない。挨拶が先だったな。バルクライ北辺境伯爵イワン・バルクライだ」
俺の倍くらいある手に握手される。本当にクマと握手したのかと思うほどだった。
「しかし、貴公どこかで…あぁ!『マギクロニクル』大会で司会をしていなかったか!」
「あれにご参加されていたのですね。はい、確かに司会をさせていただきました」
今年の春に、第1回『マギクロニクル』エルソン公式大会を王都で開催した。貴族の派閥なしで楽しもうという建前のため、参加者は皆が仮面をつけていたが、中には大物貴族も何人もいたはずだ。思い返せば、確かにあの会場にクマみたいな人がいた。間違いなくこの人だ。
「そうか、そうか、貴公がそうか。『マギクロニクル』の開発者だろう?司会にしては、あまりにも精通しすぎていて、おかしいと皆の噂になっていた。」
バルクライ辺境伯は、嬉しそうに続ける。
「『マギクロニクル』な、今、うちの領の貴族や、私の家族も遊んでおる。そうだ後ほど家族を紹介しよう。貴公のことを知れば皆が喜ぶだろう!」
「あの、バルクライ辺境伯閣下、私は何故ここに呼ばれたのかをお伺いしてもいいでしょうか?」
「む、そうだな。来てもらったには2つ訳があるのだ。まずだ…」
「はい」
「うちの寄り子が、貴公に無体を働いたこと聞き及んでおる。誠に申し訳なかった。この通りだ、どうか許してほしい」
そう言って、バルクライ辺境伯は軽く腰をおって頭を下げた。北辺境伯と言えば、北側の貴族全員の元締め、大貴族だ。そんな大貴族が、平民相手に頭を下げた。それだけ才腕御免状の効果が強いということなのかもしれないが、それでも平然と行う北辺境伯は、貴族としてだけでなく人物としても大きいのだろう。
「謝罪を受け入れさせていただきます。どうか頭をお上げください」
驚きのあまり少し間が開いてしまったが、俺はすかさず答えた。1秒でも早く頭を上げてもらいたかった。
「いや本当に申し訳なかった。しっかりと言い聞かせておく」
「2つとおっしゃいましたが、他はどういった内容になりますでしょうか?」
「うむ。そうだな、貴公は『マギクロニクル』のように、遊びや玩具を作るのが得意で、それが故の才腕御免状ということで良いのだな?」
「才腕御免状は先日初めて知ったところなのですが、国王陛下はそういう認識をお持ちになられたのだと思います」
「その才腕を見込んでだ。うちの領でも何か作ってもらうことはできないだろうか?『マギクロニクル』のようなものであれば嬉しいのだが」
「うーん……正直、ご期待に応えるのは難しいかもしれません。『マギクロニクル』は幾つかの偶然と必然が重なって、長い年月をかけて織り上げることができたものですから」
異なるTCGを作れなくもないが、エルソン男爵、そして俺の生まれ故郷に不義理はしたくない。何より今対抗アイテムをぶつけたら、再び派閥争いになったりして、TCG市場が育たずに終わってしまう。
「む、そうだな、『マギクロニクル』は、神が作ったと言っても信じられるほどの精緻な遊びだ」
びっくりするぐらいの高評価だった。まぁ確かに、前世で初めて外国産のTCGマジック・ガシャリングを初めて遊んだときは、それに近い感想を持った。いただいた高評価は前世で遊んだ幾つかのTCGの開発者にささげよう。皆さん、凄いTCG作ってくれて、遊ばせてくれて、ありがとうございました。
「何か創り出してもらうことはできぬだろうか」
シュンとした様子のクマさんが俺の目を見る。悪い人ではない、というか良い人だし、器も大きいし、何より俺の能力を期待してくれている。
「私は、自分の足で世界を歩き、見て、その折々で頭に浮かんだものを作ります。まだこのバルクアクスにも着いたばかりで、どのようなものが思いつくのかもわかりません。でも、来たからには何か作ってみたいのは確かです」
「おぉ…それでは!?もし受けてもらえるのなら、報酬はもちろん、必要なものや体制などは全て用意しよう」
バルクライ北辺境伯は目に喜びと期待を浮かべる。俺は笑顔で返した。
「バルクライ辺境伯閣下、その話、お受けさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「あぁ!頼む!」
俺は再びクマさんと握手した。
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