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48◆クロナの役割とジャンケン◆




「ハリコフ子爵、あなたは私の言うことを聞く理由があるわ」


「なんだと?女、お前は何物だ?」


「まずは、これをご覧なさい」


 クロナが懐から小さめの羊皮紙を取り出して、ハリコフ子爵の前で広げる。ハリコフ子爵は眉を寄せてそれを確認するとクロナを睨んだ。


「女、お前が王国調査室のものだということはわかった。だが王国調査室が何の用だ。私は何も間違ったことをしていないぞ!」


「そうかもしれません。ではもう1枚ご覧になっていただきましょう。」


 続けて取り出したもう1枚の羊皮紙を読み込むハリコフ子爵の顔が青ざめていき何度も羊皮紙と俺の顔を見る。


「な、な…あ…」


 もちろん、俺は何を書いているのかわからない。クロナが手のひらを上にして俺を指し示しながら、高らかに唄うように宣言する。


「この者、王国における稀代の才腕を持ちうるものなり。アムリリア王国、アムリリア・アーサー・ウィルヘルムの名においてこれを認める。この者に無体を行うべからず、強いるべからず、脅すべからず」


「才腕御免状…だ…と」


 才腕御免状?何それ?初めて聞いたんだけど。


「ハリコフ子爵、もう一度確認するわ。グリフォンの素材は誰のものになるのかしら?」


 ものすごい目つきで俺を睨んだ後、かすれるような声でハリコフ子爵は答えた。


「グリフォンの素材は、そこの冒険者のものだ」


 俺の頭に大きな疑問符を残したまま、グリフォンの素材の件は片付いてしまった。





「クロナ、あの何とか御免状って何?」


 ハリコフ子爵邸を後にして、冒険者ギルドへと戻る道すがら、俺はクロナに聞いた。


「才腕御免状ね。国中をまわる旅の一座とか吟遊詩人とかっているでしょ?中には、有名な歌姫や美少年の軽業師なんてのもいるわ」


「それで?」


「2代前の王様にね、お気に入りの歌姫がいたの。王都で暮らして唄ってほしいという王様の頼みを断ってまで、各地を巡っていた人なのだけど、出身は平民だった。ある地方の領主貴族に無理やり手籠めにされて自殺したの。」


 いつの間にか周りの冒険者達もクロナの話に耳を傾けている。


「怒った王様はその貴族を潰したのだけど、今後同じことが起きてはならないと才腕御免状を発行することにしたの。国王陛下印の保護状ね。御免状は、そうね、2~3年に1枚くらいは発行されるわ」


「俺聞いてなかったんだけど」


「出す事態にならなければ、伝える必要もないって言われたわ」


「そうか御免状持ってたから、クロナは貴族に会ってみればって言ったんだ」


「そうよ。おかげでやりこめて気持ちがよかったわ」


「クロナが、俺を守るって言ってたのも、こういうことも、あるからだったんだね」


「むしろ、本来はこっちの方だったのだけど?グリフォンに突っ込むような人を物理的に守るっておかしくないかしら?」


「いや悪かったよ…」


「まぁ何にせよ、兄ちゃん!良かったじゃねえか!素材もきちんと手に入るしよ。ところでよぉ」


「ところで?」


「兄ちゃんは何の才能持ってんだ?」





 騒動の2日後、俺達はギルド近くの食堂を借り切って、グリフォンにやられた冒険者達の弔いも兼ねた宴会をすることにした。ギルドの人間はお目付け役だけ呼んで他は呼んでいない。何人もが参加させてくれと打診をしてきたが、その場にいなかった無関係の人間は参加させなかった。例外なのは、クロナと俺を治療してくれた教会の人間だけだ。


 今日のメインはグリフォンの肉だ。まず俺達だけで一番うまいところ、後ろ脚のもも肉をいただく。巨大なもも肉は、人間の頭くらいのサイズに切り分けられ、たっぷりの塩とハーブで蒸し焼きにされている。


 生きているときに見たグリフォンは、皮も肉も硬そうで、とても美味しそうには見えなかった。というか、そんな目でみる余裕はなかった。ところが調理されてでてきた肉は、ふっくらと柔らかそうで、湯気と共に凝縮された香りが強烈に俺の鼻と頭を打ち鳴らした。


 皮つきで蒸された肉にナイフを入れると、透明の熱い脂をじゅわりと流れ出す。口に入れて一噛みしたら、口内いっぱいに肉汁と強い旨味と塩気が混ざり合ってあふれ出し、それ以降は噛むごとにピリッとしたり、爽やかだったりといった様々なハーブの風味が駆け抜けていく。グリフォンの肉は信じられないくらいに美味しかった。こちらの世界で食べたものの中で一番美味しいと思う。ぬるいハーブエールで流し込んでは、次々と口に入れていく。手も口も止まらない、止められない。どれだけ食べても飽きる気がしない。


 グリフォンは、数年に一度、しかも大きな犠牲を払ってようやく狩れる魔物だ。普通であれば高位貴族に買い取られる超ウルトラレアな高級肉だ。だが今は俺達だけのご褒美だ。俺も冒険者達も、無言でひたすらグリフォン肉にむしゃぶりつき、飲み込んでいった。





「下位貴族は、珍しい魔物とかが狩れた場合、寄り親である上位貴族にその肉や素材を献上することが多いのよ。今回はたまたま自分の領内でことが済んだものだから、欲張っちゃったんでしょうね。逆恨みではあるけれど、変に根に持たれても困るから、残りはハリコフ子爵に売ってあげてもいいかもね」


 そういったクロナのアドバイスもあって、魔石を始めとするグリフォンの各種素材の内、幾つかは俺が押さえたが、残りはハリコフ子爵に売った。だが一番うまいこのもも肉は、寄り親に献上する分くらいしか残らなかったので、子爵本人が食べれなかったろうと思うと、多少溜飲も下がった。実際グリフォン肉は、そのくらい美味しかったのだ。


 宴会も落ち着いたころ、冒険者の一人が話しかけてきた。


「グリフォンバスター、今回はありがとうな。こんなに旨いものも食わせてもらって。報奨金だって死んだ奴らの分まで含めて等分割してくれた」


「あぁ、あんたには感謝しかねえよ。グリフォンバスター、あんたは最高にいいやつだ」


「ちょっと待て、グリフォンバスターってなんだ?」


「あんたについた二つ名だ。単独でグリフォンを狩ったんだ。当たり前だろ?」


「う…恥ずかしいから、あまりそれで呼ばないでくれ。」


「ハハッ、そういうところも兄ちゃんらしいな。わかった、俺達の仲間内だけでそう呼ぶぜ」


「いや、それも…はぁ、まぁいいや」


「そういえば兄ちゃん、皆で話してたんだけどよぉ」


「うん?」


「国王様が認めたあんたの才能、遊びとかおもちゃを考える?」


「あ…あぁ」


 歌とか楽器とかわかりやすい才能を持っていない俺は、才腕御免状のことで、冒険者達に何の才能があるかと聞かれて、「遊びとかおもちゃを考えて作る」と答えた。そう答えるしかなかった。それを聞いた冒険者達は、最初ぽかんとしていたが「ま、まぁ俺達にはわからねえ、なんだか頭がいい何かってことなんだろうな」と曖昧な反応を返された。なんだかその反応も少し悔しかった。


「でよ、兄ちゃんさえよければ、なんか俺達にも、おもしろいもの教えてくれねえか?」





 結論から言うと、俺が教えたのはジャンケンだった。ジャンケンが、今の3すくみで手を出す形になったのは、江戸から明治の日本だったと記憶している。それまでは原型のようなものはあったらしい。お座敷遊びから始まったようで、ヨーロッパの文献で日本から伝わってきたと書かれているものもあったそうだ。


 そして、この世界では、そのジャンケンがなかった。なので、俺は、皆にジャンケンを教えた。チョキは親指と人差し指を出すスタイルにして剣と呼び、グーを鎧、パーを魔法とした。


「剣!鎧!魔法!せいっ!」


「よっしゃ勝った!よし!お前の酒をもらうぜ!ガハハーッ!」


「剣!鎧!魔法!せいっ!」


「あいこで!せいっ!」


 びっくりするくらい皆盛り上がっている。あちこちで勝った負けたと言いながら酒をあおってる。思えば子どもの頃って、魔法の開発とひたすら鬼のような修行の日々で近所の子ども達と遊ぶことなんかなかった。ある程度、年齢を重ねるとジャンケンをする機会もなく、今日まで、ジャンケンがないことに気づかなかった。


 遊びを考えてくれと言われて悩んだ俺は、1人5リムを出して、2人1組みで勝負して、優勝者に全額プレゼント…というジャンケン大会をやろうと提案した。そしたらジャンケンってなんだ?という話になって、あれ?と思って説明したら、それで盛り上がってしまった。ちなみにそれまでは、勝負するときはコイン投げをしていたそうだ。


 その夜は酒杯やおかずを賭けたジャンケン大会が幾度となく行われ、俺も早々に酔いつぶれて寝てしまった。


 後日、この町の冒険者を中心に、ジャンケンはあっという間に王国中に広まった。





お読みいただきありがとうございます。

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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