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47◆横暴な貴族◆



 目を開けると、宿屋の天井だった。横を見ると、クロナがベッドの横の椅子に腰かけてお茶を飲んでいる。


「あー、おはよ…」


 声をかけると、クロナは目を大きくして立ち上がり、俺の頬を平手打ちした。


「リュード君!あなた、すぐに逃げるって言ったじゃない!」


「ご、ごめん…」


 じんじんと熱を持つ頬をさすりながら謝る。


「なんか皆やられてたし、自分だけ逃げるにも、いやそもそも逃げれるような状況でもなかったし…」


「本当に心配したのよ…。いくら何でも今回は無茶だったと思うわよ……」


「うん、反省してる」


 本当に反省している。反省はしているが、戦いきった、強敵に打ち勝った充足感も感じていた。それを見透かしたかのように、クロナはしばらく俺の顔をにらんでいたが、はぁと小さくため息をついて「もういいわ」と呟いた。


「ごめんね。それで…俺どうなってたの?」


「足と手とあばらを骨折。教会で治療済み。少しの間痛みは残るはずよ。骨折だけで済んでよかったわね。下手したら腕とか足とかなくなっていたかもしれなかったって」


「冒険者達が運んでくれた?」


「そうよ、私はギルドで待ってたの。そしたらボロボロのリュード君が運ばれてきて、皆で教会に連れてったのよ」


「俺、どのくらい寝てた?」


「運び込まれたのが昨日よ」


「心配かけたね。看ててくれてありがとね」


「お腹は空いてる?」


「うん…おなか減った。下に食べに行こう」


「ここで待ってなさい。消化にいいものを頼んで持ってくるわ」


「ありがとう」





 遅めの昼食をとった俺とクロナは、冒険者ギルドに向かった。グリフォンの後始末のためだ。ギルドに入ると中では、冒険者達とギルドの職員達がもめている最中だった。俺を見つけた冒険者達が嬉しそうに寄ってくる。


「おぉ!兄ちゃん!治ったか!よかった!本当によかった!」


「兄ちゃんのおかげで命拾いできたぜ!ありがとな!」


「お姉ちゃん、よかったな!恋人が無事で!」


「昨日は慌てまくってたからな。兄ちゃんが助かってよかったな!」


 恋人じゃないとか、余計なこと言うなとかやり取りをしているクロナを横目にしつつ、俺はギルド職員を睨んでいる冒険者の1人に声をかける。


「どうしたんだ?何かもめてるのか?」


「おう、まさに兄ちゃんのことでもめてるんだ」


「は?俺のことで?」


「おう、さっき言ったことを、もう1回兄ちゃんに説明してみろ!」


 弱り切ったギルド職員が、助けを求めるような目で俺を見て、そして一息に言った。


「すみません!グリフォンの素材はあなたに売れなくなりました!あ、あきらめてください!」


「は?」


「すまない、説明をさせてもらいたい。ギルド長のロレンソだ」


 ひたすら頭をさげる職員の後ろから、グリフォン討伐に同行していたお目付け役の職員を引き連れて少し線の細い初老の男性が出てきた。


「リュード君と言ったか。まずはこの度のグリフォン討伐に対してお礼を言わせてもらおう。町の冒険者達を、ギルドの職員を救ってくれてありがとう」


「いえ、それはいいのですが」


「素材の件だが、我々は決して、このお目付け役の彼が、君と交わした約束を違えるつもりはなかった」


「ならばなぜですか?」


「ハリコフ子爵の横やりだ。『討伐報酬は払ってある。素材もその中に含まれている。私が買い上げたものだ』と言われて、我々も困っている」


「グリフォンは?」


「今はギルドの倉庫に保管している」


「ギルドとしては俺にどうしろと?」


「今、子爵と交渉をしようとしている。せめて討伐した冒険者には、素材のいいものを優先的に渡すべきだと」


 聞いているだけで、むかっ腹が立ってきた。なぜ何もしていないやつが当たり前の顔をして自分のものだと主張し奪おうとするのか。


「最悪でも報酬金を倍にする。なんとか折れてもらいたい」


「おい、冗談だろ!?この兄ちゃんは命がけで倒したんだぜ?」


「報酬を倍にした金額よりも、素材売ればもっとでけえ金額になるのなんか、わかってんだろうが!」


 俺よりも先に、後ろの冒険者達がきれている。


「それはわかっている、わかっているが、ギルドとしてはこの町を、この町の冒険者達を守りたいんだ。」


「あぁん?で、よそもんだからって理由でこの兄ちゃんに泣いてもらえば納まるって算段か、俺達を馬鹿にすんじゃねえよ!」


「っていうかよ、仮に今後、俺達が何かでかいのを狩ったとしても今回みたいによぉ、何もしてねえ貴族にまた持っていかれるってことじゃねえか!なら俺達は町を出るぜ!」


「そうだ、そうだ!」


「そ、そうは言っても、こちらとしても、どうしようもないのだ!」


 ヒートアップしていく冒険者達と、困り果てるギルド側。そんな中で、クロナの声が鈴のように響いた。


「リュード君が、その貴族と会って話をしてみれば、どうかしら?」


「そ、そ、そうだな、ハリコフ子爵も、その冒険者と会いたいと言っていたから、それはこ、好都合だ」


「おう、じゃ、俺達も一緒に行ってやるよ!」


「そうだ、せめて一緒に文句言ってやる!」



 こうして俺は怒れる冒険者達十数名を連れてハリコフ子爵の屋敷へと向かった。


 …困った。


 俺は怒りが持続しない人間で、熱しやすく冷めやすい。念のための先触れを出させたが、冒険者達と町の通りを歩いている頃には既に冷めていて、そして少し、いやだいぶ不安になっていた。


これ、もしかして騒乱罪にとかなるのでは?相手貴族だからやばいのではないかと。





「わしが、ハリコフ子爵だ。お前がグリフォンを倒した冒険者か」


「はい、リュードと申します」


「ふむ、大儀であったな。では下がってよい」


 子爵屋敷の庭先で、片膝をついた俺とクロナの前に、小太りの醜いおっさんが偉そうに立っている。同じ小太りでもエルソン男爵とは違う体の輪郭がぼやけたような、だらしのない体だ。


 俺の後ろには、屋敷の門があり、その門ギリギリのところに怒れる冒険者達が立ってこちらをじっと睨んでいる。それに向かって門の内側から、門番とハリコフ家の兵士達が槍を構えている。俺とクロナの周りにも、取り囲むように数名の子爵の護衛兵がいる。


「恐れながらハリコフ子爵閣下」


「なんだ」


「通常、魔物の素材は、その魔物を討伐した人のものとなります。グリフォンは、私が討伐したものですので、素材も私のものではないでしょうか」


「それは通例だ。今回、私は冒険者ギルドにすでに討伐報酬を払っておる。そこには素材の料金も含まれておる。文句があるならギルドに言えばいいだろう」


「それで納得がいきませんでしたので参上しました。失礼ながら、その報酬金額も相場とはあまりにも…」


「知らん!冒険者ギルドの責任だ。私にはお前の言葉を聞いてやる理由がない。そもそも、なぜ冒険者どもを引き連れてやってきた!?私を脅すためか!?」


「彼らは私と共にグリフォン討伐に参加したもの達です。ことの行く末が気になって一緒に来ただけです」


「無駄に騒ぎを起こしたとして、お前をこの場で処刑してやってもいいのだぞ!だがグリフォンを討伐した功績に免じて許してやる!早く立ち去れ!」


 しっしっと手で追い払う動作をするハリコフ子爵。


 俺はエルソン男爵から、後ろ盾のお墨付きをもらっている。ここでエルソン男爵のことを言うべきだろうかと悩んでいるところで、隣にいるクロナが声を上げた。


「ハリコフ子爵、あなたは私の言うことを聞く理由があるわ」





お読みいただきありがとうございます。

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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