46◆一撃必殺◆
「あぎゃぁっ!」
数メートルほど向こうにいた冒険者が宙に舞い、また1人グリフォンの餌食になった。30人いた冒険者は今では動けるものは半分にまでなっていた。グリフォンをどうにかする前に、先に片づけておくべき話がある。俺はグリフォンを目で追いながら、声を張る。
「ギルドのお目付け役は!まだ生きているか!?」
「な、なんだ!」
「あいつを倒すか、逃げれる算段はあるか?」
「あああ、わるわけねえだろ!」
「どうにかできるかもしれない。俺は魔法を使える!」
「じゃあ、それをやれ!早く!」
「もしグリフォンを倒せたら、素材は全て俺のもんだ!」
「いや、それはっ!?」
「今、あんたの権限でそれを言え!」
周りの冒険者達は、俺と同じようにグリフォンの動きを目で追い、避けながら、俺とお目付け役のやりとりを聞いている。実際にお目付け役が、ギルド内でどの程度の力を持っているかは知らないが、最低限の言質はとっておきたい。
「お、おめえの命だってかかってるんだ、素材がどうこうじゃなくてっ!やらざるをえないだろうが!」
「俺は、なんとかして逃げるし、逃げれる。あんたも死ななきゃいいな。ちなみに俺についてこようとしても無駄だぞ。ついてこようとした奴は容赦なく囮にする!」
これは嘘だ。正直、俺も逃げ切る自信はない。だが、こっちも命を懸けて賭けにでるのだ。ならば、ギルドにも少しくらい支払う覚悟を持って欲しいし、周りの冒険者達も軽々しく何とかなるなんて思って欲しくない。目をくるくる回しながら、動転するお目付け役に文句を言ったのは、俺以外の町の冒険者達だった。
「おい!おい!俺達の命もかかってるんだ!どうせ駄目元だろっ!?なら、首を縦に振りやがれ!」
「そうだ!」
「やらせるだけ、やらせてみろ!」
「ぐ…わ、わかった!認める!お前がグリフォンを倒したなら、素材はお前のものだっ!」
地元の冒険者達に圧力を受けた目付け役はそう言わざるを得なかった。俺はさらに周りの冒険者達にも声を上げる。
「あんたら!こいつを倒した報奨金は生き残っているやつで山分けだ!」
「おぉ!」
「頼みがある!俺は魔法を使ったら、ぶっ倒れる。もし上手く倒せたなら、俺を町まで運んでくれ。そして見た魔法のことは何も言わないでくれ!」
「おう、まかされたぜ!」
「兄ちゃんが駄目だったら、次は俺達だからな。あいつを倒せるなら何だってやってやる!」
「終わったら町1番の上手い飯おごってやるからな!」
討伐隊30人の中で、いまだ生き残っている冒険者達は、町でも実力のある方なのだろう。これだけの窮地にいながらも、誰もが小気味よく返してくれ、中には引きつりながらも笑顔を向けてくれる冒険者もいた。その様子に、俺もさらに心を奮い立たせる。
「よしっ!」
俺は両手で自分の頬をはたき、気合を入れる。やるだけやってみるだけだ。
◇
地面に降りたグリフォンに向かって、俺は石を投げ、手を打ち鳴らし、注意を引こうと試みる。だがグリフォンは一瞬こっちを見ただけで、近くにいた冒険者に突進したので、俺は後ろからグリフォンを追いかけた。襲われた冒険者が、地面を転がりながら避けたところで追いついた俺は、複合魔法を唱えた。
「フィアーウォーター!」
俺の手から出たコップ1杯ほどの薄く濁った水がグリフォンの腰のあたりにパシャリとかかる。少し前にクロナと会ったことで開発できた夜と水の複合魔法だ。効果は、この水が触れた相手が俺に恐怖を覚える…を狙ったのだが、クロナには生理的嫌悪感が爆増したと言われてショックを受けた。
頼む、効いてくれ。できれば、もともと狙っていた魔物除け効果の方…。
グリフォンは冒険者をついばもうとしていたが、急にその動きを止めると首をぐりんと180度回して俺を見た。その瞳には、恐怖ではなく、明らかに怒りが込められていた。
「やっぱり、そっちだよねっ…!」
さっきまでの突進が嘘のように、速度2割増しで突っ込んできたグリフォンを避ける。生理的嫌悪感が増した相手、つまり俺の排除を全力で行うことをきめたのだろう。
そこからが、とにかくきつかった。グリフォンはひたすら俺を狙う。ガチンガチンとくちばしが近くで鳴り、前足の鋭い爪が幾度も繰り出される。翼から巻き起こされる風で、何度も転がされ、土まみれになりながら突進を避ける。
「うわぁぁーーーーっ」
何度目かの突進を避けた時に、俺とグリフォンの距離が開いた。チャンスと見て、俺は、わざとらしく叫び声を上げながら、逃げるように走り出す。
キュィィイイイイイッッ!!!
グリフォンは、高い声で一鳴きすると、大空へと飛び上がった。
俺は走りながら魔法を始動する。普段のストーンアロウよりも威力を上げるため、時間が必要だ。俺は、自分の頭の上に、親指ほどの石つぶてを土魔法で作る。高硬度で創り出したライフル弾のような形をした石つぶての底は、吹き矢の矢のように大きく抉れている。そこに密度を上げた小さな竜巻をあて、石つぶてを高速回転させていく。
だがまだ撃てない。まだ威力が足らない。グリフォンは矢があたっても、浅く刺さるだけでダメージをほとんど受けていなかった。皮膚もかなり厚いだろうし、筋肉も硬いだろう。それを軽々とぶち抜くくらいの威力にしないと駄目だ。
俺の気力と体力は、ゴリゴリと凄まじい勢いで削られていく。走りながら魔法を高めているため操作と維持に必要な集中力も相当で、脳の奥からジンジンと鈍痛がし始める。
イイイィィィィンンンンン…
回転する石つぶてから甲高い音が響き始める。まだ、まだ足りない、もっとだ。どろりと鼻血がでて、走り続ける俺の頬を流れていく。
俺は振り返ると、震える右手を前に出し、銃の形を指で作った。ちょうど指の先で旋回を終えたグリフォンが、まっすぐに俺に滑空してくるところだった。視界をどんどん埋めていくグリフォンは、雄々しく、きれいな生き物だった。すまない、と心の中で詫びる。
滑空を止め、両翼を大きく広げたグリフォンは俺の待っていた体勢をとった。空から獲物に掴みかかろうとする、一瞬だけ動きの止まる、回避のできない体勢…そして俺は撃った。
「ストーンアロゥウウッッ!!」
バンッと響く音と同時に、グリフォンの首から上が消し飛んだ。俺は、自分に突っ込んでくる頭を失ったグリフォンの胴体を眺めながら気を失った。
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