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45◆グリフォン◆



 

その生き物は巨大だった。鋭いくちばしのついた鷲の頭は、身長185センチの俺よりも遥かに上にあり、猛禽類独特の獲物を見透かすような瞳が俺を見る。硬さとしなやかさを感じさせるライオンのような胴体と後ろ脚。左右の翼は広げると優に5メートルは越えるだろう。大きく羽ばたく翼から起きる風が、砂を巻き上げる。


 そこかしこで、冒険者達が倒れて呻いている。中には手足を失い、動かなくなっている者もいる。目の前の魔物、グリフォンの持つ、前脚の大きく鋭いかぎ爪のせいだ。


 俺は今、猛烈に後悔していた。本当に来るんじゃなかった。心から反省している。軽い気持ちでグリフォンみてみたい!とか思うんじゃなかった。昨日の自分を殴りたい。


 とはいえ、事態が好転する見込みは全くなく、むしろ悪化する一方だ。襲い来る爪やくちばしを必死で避けながら、俺はどうやればこのグリフォンを倒せるか考え続けていた。





 鳴くぬいぐるみ、『キモカワ!ハーピィちゃん。』を作って、クロナを不機嫌にさせてから3日後。俺達は、北の辺境伯領へとつながる街道を進み、次の町へと入った。護衛は雇わずに行商人と一緒に移動したが、何かに襲われるようなこともなく、のんびりとして気持ちのいい旅路だった。


「街道で魔物が出ている。町を出て北に向かうなら、自己責任だ。それと、星が3つ以上の冒険者がいたら冒険者ギルドに来てくれって話だ」


 町に入る際に門番に不穏なことを言われた。俺は商人ギルドのプレートしか見せておらず、クロナも星1なので訪れる人間全員に言っているのだろう。ちなみに強制力は一切ないので、無視しても問題ない。そもそも星3であっても、他の町の冒険者というだけでギルドからの信用度は低い。ただどの町でも星3になって初めて護衛依頼が解禁されて他の町に行けるようになるので、多少なりとも力はあると認められてはいるようだ。


 俺とクロナは、宿屋に荷馬車を預けると、早速話を聞きに冒険者ギルドに向かった。


「なんか、門番に星3がいたら冒険者ギルドに行ってみろと言われたんだが、何かあるの?」


「おぉ、兄ちゃん、星3か。グリフォンが出た」


「グリフォン!?あの翼の生えたでかい鳥みたいな?」


「あぁ、北街道を半日進んだところだ」


「グリフォンか…」


「討伐隊を組んでいる。明朝出発だ。弓か槍が使えるならそれがいい。参加して帰ってくるだけで60リムだ」


「そんなの冒険者が倒せるもんなのか?」


「ハッ。無理に決まってんだろ。お貴族様、ハリコフ子爵様が、まず冒険者ギルドで対応せよとのお達しでな。ケッ」


 騎士や兵士の損耗を嫌がる領主が、最初に冒険者ギルドに魔物にあたらせるのはよくあることだ。ちなみに、故郷のエルソン男爵領では、誰よりも真っ先に父親が向かって片づけてしまうので、そんなことは起きない。


「じゃあなんで行くんだ?」


「大勢で行きゃ向こうが逃げるかも知れねえだろ?」


「なるほど。ちなみに報酬の60リムは行くだけで?」


「ああ。参加するだけでいい」


「もし戦うことになったら?」


「逃げるなり、戦うなり好きにすればいい。ちなみに倒せたら1000リムだ。ギルドのお目付けも行くから、貢献度に応じての払いになるがな」


「素材の買い取りは?」


「お前、俺の話聞いてるか?まぁ、いい、こういう場合は、全員でかかるから、素材はギルドのもんだ」


 ここでやりとりを聞いていたクロナが声を上げた。


「ちょっとリュード君!もしかして参加する気!?」


「グリフォン…見てみたいんだ!」


「リュード君、私貴方を守らなくちゃいけないんだけど?」


「クロナはいいよ、こなくて。っていうか、星1だから同行できないだろうし。大丈夫、危ないことはしないから」


「リュード君、グリフォンよ、わかってるの!?数年に1度どこかで出たって話題になって、国や辺境伯の騎士団と兵士が出張って相手するレベルなのよ!」


「いや、だから見てくるだけだって。本当に、少しでもやばそうと思ったら逃げるから!」


 俺は何とかクロナを説き伏せ、討伐隊への参加を申し込んだ。ちなみにギルドの提示した60リムは、数日間豪勢な食事が食べられるくらいの金額だ。危険度からすると安すぎることこの上ないが、ギルドとしても、倒せるとは微塵も思っていないのがよくわかる。ハリコフ子爵からの予算の分だけ動いたぞという最低限の実績を残すためなのだろう。





 翌朝、町の門の前に集まったのは、防具も武器もバラバラで何一つまとまりのない、むさくるしい男達、およそ30人だった。誰もがもらった報酬で何を食べるかとか、久しぶりに娼館にでも行きたいとか話している。声をかけられた俺も、適当に相槌を打ったりしながら、街道を歩いていた。


 だらだらとまとまりのないまま街道を進んで3時間が経った頃だった。


「おい、あれ…」


 誰かが指さした空の先には、鳥の影が見えた。だが近づいてくる影は、中央、胴体の部分が膨らんでおり、形がおかしい。さらに距離が縮まってくると、その大きさもおかしいことに気づく。


 それは俺達の上空を3回ほど旋回すると、頭上から落ちてきた。翼をたたんで手足を胴体に寄せた体勢から、俺達の真上で翼を大きく広げ、力強く羽ばたき上空へと舞い戻っていく。その前足に哀れな犠牲者を掴んで。俺も含め周囲の冒険者は、翼の風圧で転ばないようにするのが精一杯で、まともに動けない。


「ぎゃあぁっ!」


 空から冒険者が落ちてくる。地面に激突した冒険者は手足が異様な方向に曲がり、呻いている。かぎ爪によって、体に穴も開いているようで、地面に血が広がっていく。


「グ、グリフォンだぁーーーっ!!」



 そこからグリフォンの攻撃が続いた。地面に降りてきたと思ったら、地面を揺らしながら走り、翼も使った突進で冒険者をなぎ倒す。空中でホバリングしながら、風圧で動けない犠牲者を、くちばしでつつき、加え、放り投げる。こちらの人数がいても、グリフォンは意に介した様子もなく突っ込んでくる。逃げ出そうとした冒険者を優先的に狙っているようで、集団から離れた冒険者が次々に動かなくなっていく。


 このままでは全滅する、これはまずい…と俺は慌てるが、その一方で、どこか冷静な自分もいた。前世で、ドラゴンなんとかという、グリフォンが出てくる3Dのファンタジーゲームを遊んだ記憶があるが、あれと目の前のグリフォンの挙動が一緒だったのだ。すごいな、あのゲームを作った人。あなたの考えたモーションや攻撃方法、今同じことが目の前で起きています。


 改めて見回すと、冒険者はすでに10人ほど転がされていた。弓持ち数人が必死に応戦しているが、翼の突風で正面からはまともに当たりもせず、たまに側面や背面からの攻撃に成功しても、矢は肉に浅く刺さっているだけでほとんどダメージを与えていない。俺も剣しか持っていないので有効打を与えるのは難しいだろう。


 どうするか…。


 俺の複合魔法だと、殺傷能力が高くて唯一使えそうなのが、土と風の複合魔法ストーンアロウだ。土で作った円錐状の硬い石つぶてに、高回転させた風の渦を当てて、飛ばす技だ。普段は小指の爪くらいの大きさの石つぶてだが、もしグりフォンを倒すなら、最低でも親指くらいのサイズにしないと確実なダメージを与えられないだろう。そして、そのサイズを高出力で飛ばすなら風の回転と密度も上げないとならず、ギリギリまで射出を押さえて力を溜めるとしても…1回撃ったら俺は間違いなく気絶する。


 おまけにグリフォンは空中にいても地面にいても、動きは素早く当てられる気がしない。ファンタジー系RPGゲームのように、こういう時に敵のヘイトを集めて、敵の攻撃を受けてくれる盾役、タンクがいれば、俺のストーンアロウで狙撃できるだろうが、そんな人間はいない。


 どうにか、グリフォンの注意を引き付けて、ストーンアロウを叩きこむことはできないか。


…あ。


 俺は閃いてしまった。





お読みいただきありがとうございます。

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どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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