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44◆異世界ぬいぐるみ『キモカワ!ハーピィちゃん。』◆

本日2話更新しています。このお話の前にもう1話ありますので、よろしくお願いします。



 ドン!ドン!


 扉を激しくノックする音で俺は目を覚ました。


「リュード君!いるの!?ちょっと、大丈夫?いるのよね!?」


 心配したクロナが扉を叩いている音だった。


「あ、あぁ、起きたよ、ごめん、今開けるから」


 窓から差し込む太陽の光を見ると、午前の遅い時間のようだった。突っ伏していた机から起き上がり、頭を掻きながらドアを開け、寝起きのにごった意識でクロナを見る。


「リュード君、大丈夫!?何、寝てないの?うわ、汚なっ!しかもちょっと臭う!」


 床に散らばったゴミや道具を見て唖然としたクロナは、その後俺を見て鼻を押さえる。部屋に籠ってから気が付いたら3日経っていた。おもちゃ作りに熱中しすぎて、睡眠は最低限、食事も宿の人に頼んでドアの前に置いてもらい、適当なときに食べていた。昨晩遅くにようやく試作品が完成して、そのまま机で寝てしまっていた。


「なんなの!ちょっと!まずサウナいってらっしゃい!片付けもするのよ!昼になったら、下の食堂に来なさい!いい?」


「……わかった」





 袋を持って食堂に現れた俺を、不機嫌な顔のクロナが出迎える。


「ごめんね、クロナ」


「本当よ。上からはリュード君のやることを邪魔するなとは言われてるけど…、今朝、宿屋の人に言われたのよ!」


「なんて?」


「部屋から、時々変な声が響いてくると苦情が入っている。うちの宿は、女を連れ込むのは禁止してないが、さすがに犯罪は無理だからな。あんた、連れだろ?どうにかしてくれ!ですって」


「…ごめん、本当に迷惑をかけたね」


「はぁ、もういいけど。そうね…これからこういうことがある時は、せめて1日1回はご飯を一緒に食べましょう。いいわね?」


「わかった」


「で、リュード君の持っているその包み。それが今回の成果なの?」


「ふふん、見てくれ、これだ!」


 俺は、袋から中のものを取り出した。





 テーブルの上に置いたのは、高さ30センチほどの3頭身のぬいぐるみだ。大きな頭の下半分はくちばしになっていて、上半分は可愛くデザインしたお婆ちゃんの顔。リアルに作ると怖いので、前世の日本で万人受けしていた、つぶらで黒い目をした白い猫のキャラクター、ケッティちゃんをインスパイアした感じにしている。ぽっこりと丸い胴体は、お尻が平らで座らせられるようになっており、デフォルメされた鳥足が前側についている。


 羽も尾羽もかわいさが増すようにボリュームを付けたうえで、本物のハーピィの羽を縫い込んである。ちなみにハーピィの羽の色は、くすんだオレンジと茶色が混じったものだが縫い付ける際に、きれいなものを選別して、色の濃淡をわけて配置している。絵を描いたりは得意だが、裁縫は非常に苦手なので、とても苦労した力作だ。


「怖っ!!」


 クロナは目を見開いてる。


「え?この顔とかかわいくない?」


「きもちわるいっ!」


 しょうがない、それならば、このぬいぐるみの真骨頂を見せようではないか。


「クロナ、この頭のてっぺん触って」


「え、いやだけど」


「ちょっと触るだけでいいから!」


 恐る恐る手を伸ばして、ぬいぐるみの頭に手を付けた瞬間ぬいぐるみが鳴いた。


ヒィィィイイイイイイイィィーーーーーーッ


「ひぃぃっ!」


「これさ、背中にもついててさ、しかも触り方でね」


ピュ!ピュピュ!ピュゥォォォオオオオオォォーーーーッ



「いやぁ!」


 クロナはぬいぐるみをぶん投げた。壁にたたきつけられたぬいぐるみはコテンと倒れた。





「リュード君、なんなの!?なんなのそれ!?」


「え、『キモカワ!ハーピィちゃん。』だけど?」


「だけど?じゃないわよ。キモカワってなに?なんなの、リュード君は呪いのアイテムを作る人なの?」


「いや、そういうわけじゃ…かわいくなかった?」


「あのね、私達、つい数日前に、あれ倒したわよね?散々嫌な思いをしたわよね?なぜ、それを作るの?」


 あれ…。俺はなぜハーピィちゃんを作ったのだろう。これは、やってしまったかもしれない。俺は昔から、自分の中から沸きあがる衝動に逆らえずに、流れのままにものを作ることがある。今回もそうだった。


 笛しか今は鳴らせないから、その笛の音色がはまりそうなキャラクターにしよう、素材も鳥素材がたくさんあったから、それを使おう、単なる鳥のキャラクターだとおもしろくないし、せっかくだからハーピィをかわいくしてみたらいけるんじゃないか!そんな感じで思考がどんどん進んで、そのまま作ってしまった。


 おまけに俺はとても忘れっぽい。ハーピィの時の嫌な記憶なんて、次の日にはきれいに忘れていたし作ってる最中、素材を弄っていても何とも思っていなかった。


 俺の思い違いはさらに続いていた。“きもくて”“かわいい”、略してキモカワの概念だ。そもそもこの世界で、前世日本でよく見かけたデフォルメされたキャラクターを見たことがない。白ネコのケッティちゃんや、ゆるキャラみたいなデザインのものが、この世界の皆も可愛く思えるのかリサーチもしていない。


 本来“かわいい”が成立した上で、さらにその上に乗せられた“きもさ”を含めて、受け入れ、味わうのがキモカワだと考えると、この世界ではあまりにも早かったに違いない。そういえば前世でも、キモカワ自体が、わりと新しくできた言葉だったなと思いだす。俺のおぼろげな記憶では、最初は女子高生の間に、ゾンビ人形が流行ったとかだったが気がする。間違えているかもしれないが。


 そして少なくともこの世界では、きもい時点で終わりなのだ。


「やっぱり、ダメだよね?」


ピィィ…ピィィーーーー


「殴るわよ。…もう私に見せないで」


「はい…」



 額に青筋を浮かべたクロナの怒り顔を前に、俺はそれ以上推せなかった。こうして、俺の渾身の試作『キモカワ!ハーピィちゃん。』はお蔵入りアイテムになったのだった。





お読みいただきありがとうございます。

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。



今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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