41◆夜属性◆
夜属性の魔法は、感動的な時間を俺にもたらしてくれた。
視界が塞がれる魔法は、例えるならFPS、本人視点で戦うシューティングゲームでダメージを受けると、画面全体が濃い靄がかかった状態になるあの感じに近かった。戦いの最中、急に視界があれになったら隙も生まれるし、行動も制限されるだろう。ちなみに自分自身で夜魔法を俺の目の前にかけても薄暗くなるだけで、今回のように視界に強制的に割り込まれた感じはない。
「じゃあ、幻覚のやつ?あれかけて!」
「いいわよー!えい!」
クロナもノリノリだった。魔法の話ができることが嬉しいらしい。俺の複合魔法に関しても教えられることはお返しに話したりした。話したところで真似できる人間もいないし、クロナが改めて誰にも話さないと言ってくれたので信じることにしたのだ。
「おぉ、こういう風に見えるのか!」
幻覚を見せる魔法は、かけられた瞬間に視界にノイズが一瞬だけ入って、目の前に棒立ちのクロナが立っている状態だった。よく見ると、俺の目に映っているクロナは瞬きをしていないので、よくできたCGを強制的に視界に表示している感じだ。
俺は、そのCGのクロナに手を伸ばす。伸ばした手に、ふにゅんと柔らかい感触があって、俺は驚く。
「え、この魔法って感触まで再現できるの!?」
「あら、リュード君も大胆ね」
「はっ?」
俺が慌てて手を離した瞬間、術が解けた。目の前には頬を赤らめるクロナがいる。
「いやいやいや!いるなら言ってよ!っていうか、この魔法使うなら本人はその場所にいないものでしょ!?」
「でも別にリュード君は敵じゃないし。動くかどうかは私が決めるものよ」
ニヤニヤしているクロナに、悪いことをしたので一応謝る。
「ごめん」
「いいのよ、でも次に触るときは事前に言ってね」
「いや、触んないから!」
すぐに手を話したことが悔やまれる。アニメの主人公のように、気づかないふりしてもっと触っておけばよかった…と少し悔やみながらも、俺は手の中の感触を大事にしようとちょっとだけ思った。
◇
「うーん、こんな感じかな…フィアーウォーター」
俺は手から薄く濁った水を作り出し、カップに注ぐ。
「クロナ、指を入れてみて」
クロナが細い人差し指をカップに入れる。少し間があって、クロナの眉間にしわが寄る。
「うわ!リュード君がすごく気持ち悪い!いやっ!生理的に無理っ!もっと離れてくれる!?」
「……」
これまで見せたことのない、嫌そうな顔を俺に向けるクロナに、俺はショックを受ける。少ししてカップから指を抜いて、それをハンカチで拭うと、クロナはいつもの通りの顔に戻っていた。
「あの…ちょっと言い方…きつくない?」
「魔法の効果を正確に伝えるべきだったから言ったのよ。本心では、たぶんないわ」
「たぶんて止めて、本気で傷つくから…」
「フフッ。冗談よ。で、これ使えそうなの?」
「いや、この魔法は失敗だね。魔物が俺に生理的嫌悪感を持ったら、それはもうやばいくらいに襲ってくるに…いや、それなら使いようはあるのか?」
「どうかしらね?でも本当に器用よね。こんな短時間で複合魔法作れちゃうなんて。すごいというよりあきれるわ」
俺がこの1時間ほどで開発したフィアーウォーターは夜と水の複合魔法だ。効果は、この水に触れた相手が俺を見たときに、俺に恐怖を覚える…というつもりで開発した。生理的に無理って言われたのがショックでたまらない。
今まで、夜魔法は闇を作り出すだけだと思っていたが、幻覚なども含め精神に影響を及ぼす魔法だということがクロナの話で分かった。安心させたり、怯えさせたりもできるらしい。考えてみたら、人を安眠させることもできると、最初に聞いていたので気づくべきだった。
クロナの話では、相手に幻覚を見せるのは、それなりの魔法の出力が必要で、俺の『少ない』では厳しいらしい。またクロナの幻覚も、今相手が実際に目にしているものを、そのまま幻覚として表示しなおすので、本来であれば必要になる溜めや集中がだいぶカットできているが、もしありもしない幻覚をみせるのなら、それなりに大変とのことだった。
「リュード君が複合魔法を教えてくれたように、夜の魔法は、あまり公にされていないから気を付けてね」
「あぁ、わかってる。教えてくれてありがとう」
◇
俺とクロナはエルソン邸の裏庭で戦闘訓練をしている。クロナは短剣と格闘術の使い手で魔法なしでは俺より強かった。
前世で太極拳を数年ほど習った時期があった。その先生は大陸から伝わる正当な系譜で30年学んだ本物の人だった。俺は前世、体が大きかったので、この先生に練習中によく投げられる役にされた。好きに殴れ、蹴れと言われて動くが、何をしても投げられる。どうやって投げられたのかが全く分からない。俺はクロナに散々投げられながら、そんなことを思い出していた。
それ以外にも、エイデン老達とも『マギクロニクル』の今後の売り方の打ち合わせを重ねたりもしていた。3日に1回は、馬車の改造も行っている。また冒険者ギルドにも顔を出して、仲間になれそうな人間を探している、いい人材はいなかった。
こうして日々がどんどん過ぎていき、気が付いたら季節は夏へと変わっていた。仲間候補は見つからなかったため、護衛役の冒険者を2名雇って俺達はついに旅に出ることにした。夏の5日のことだった。
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