18◆エルソン男爵◆
「エルソン男爵閣下が、君に会いたいとおっしゃっている。ついては秋の60日にエルソニアの領主館に来るようにとのことだ」
感謝祭から20日ほど過ぎたある日、ソファーに呼ばれた俺に父親が言ったセリフだ。
父が仕えているエルソン男爵は、領都エルソニアを含む町2つと村3つを治めている貴族だ。耕作可能な土地が少なく、特産物もない土地なので、領地の収入も平均より低めで、貴族の中では、質素に生活しているのがエルソン男爵だと聞いたことがある。
「どういったご用件になるのでしょうか?」
「君の作ったカードが、商人達の間で、かなりの高値で取引されていてね。閣下の御用商人の1人がそれを閣下に献上された。閣下はいたく気にいられてね。だが制作者までは商人は知らなかったのか、伝えていなかったのか、エルソン男爵閣下はご存じなかった。そして私に尋ねられたのだ。『君の住む町で作られたそうだ。何か知らないか』と」
「…何と言えばいいのか、本当にすみません…」
「全くだよ。私がやむなく、作ったのは息子ですとお答えしたところ、それはもう喜ばれてね。すぐにでも会ってみたいと」
「わかりました。秋の60日にエルソニアまで上がります」
「1セット、カードを君から献上しなさい。できれば、全てキラカードといったか、あの光っているものがいいだろうね」
「承知しました。あの…父上のカードはどうしましょうか」
苦虫を噛み潰したかのような顔になった父親は、間を開けて答える。
「1枚だけ、用意しておいてくれないかい。セットには入れなくていいから」
◇
俺はエルソン男爵はもちろん、前世でも今世でも貴族とは会うのは初めてだ。騎士爵は貴族位ではないので、騎士の長男でも貴族と会うことは少ない。家を継がない次男以降は平民になるためもっとだ。長兄のアストは2度、次兄のセンドも1度、父親と一緒にエルソニアに行った際に、エルソン男爵とは会ったことがあるという。長兄はもちろん、次兄までは父親の跡継ぎ、騎士になる可能性があったためらしい。
俺の貴族のイメージは、前世の映画やネット小説から得たもののみで、お金を持ってて見栄っ張り、半分は搾取するだけの、どうしようもないダメ貴族で、もう半分は主人公の味方になったりする良い貴族だ。
初の貴族との邂逅だ。せっかくの機会を無駄にしたくはないし、良い方の貴族 (父親の発言からそうである可能性が高いが)であれば、少しでも心証を良くして、父親の役に立ちたい。
俺はカードを2セット用意して、そのうち1セットには新しい要素を1つ入れた。企画でも何でも、相手に求められる以上のものを出すのは、前世からの俺の信条だ。父親にも、献上する2種のカードを事前に見せて確認をとってある。仕込みを終えた俺は、冒険者活動に勤しみ、その日が来るのを待った。
◇
「ふむ、君がリュードか。会いたかったよ。私はエルソン男爵オリバー・ベルンストだ」
「お初にお目にかかります。私は、騎士パスガン・ラーモットの3男、リュード・ラーモットと申します」
エルソン男爵のエルソンは名前ではなくて、領地の名前だったことを知らなかった俺は一瞬混乱しかけたが、どうにかつっかえずに返答した。俺はまだ成人前なので、3男ではあるが、家名は名乗れる。成人したら、姓は名乗れなくなる。
「緊張しているね。まぁ、楽にしてくれ。」
エルソン男爵は、40歳すぎの背の低い小太りのおじさんで、服装を変えて鍬でも持たせれば、その辺で畑でも耕していそうな人物だった。ニコニコと笑顔で、目を細めながら俺をじっと見ている。怖くはないのだが深いグレーの瞳に、全てを見透かされていそうで少し緊張する。
場所は20畳ほどの来賓室で、展示台や壁に、絵や装飾品や武器が飾られている。良し悪しはいまいち分からないが、全体に地味な印象だ。いかにも貴族のお家に飾っていますみたいな装飾が入ったものも置かれているが、目を引くようなものは1つもない。
「ここは他領から訪れた貴族を迎える時に使用する来賓室でね。ここで話したい理由があるのだ。さぁ掛けたまえ」
地味ではあるが、うちのよりも1段と質が良さそうソファーに腰掛ける。父親のパスガンはエルソン男爵の後ろに立っている。
「さて、リュード。君は今年の感謝祭でずいぶんとおもしろいモノを売っていたそうだね。町でも噂になっているようだ」
「はい、こちらでございます」
テーブルの上で持参した包みの1つを開けて、全てキラカードのトレカを5種類披露する。
「おぉ、素晴らしい!!」
エルソン男爵はカードを1枚ずつ手に取って嬉しそうに吟味する。
「いいね!うん、とてもいい!陰影を大胆に活かした新しい表現様式の絵、際だった白さの不思議なカード、それがキラキラと光を反射する様子!うむ、これはなかなかいいモノを作ったね」
「ありがとうございます。よろしければ、こちらはそのままお納めください」
「礼を言う。先日1枚手に入れたのだが、どうしても全種類揃えたくてね…。全種類だよ?」
俺はちらと目線を送ると、父親が頷く。
「も、もう1枚ございます。こちらです」
「おぉ!これが噂の幻のカードか!ふむふむ、実物と変わらぬ、いい男っぷりがよく表現されているカードじゃないか!なぁパスガン?」
「閣下…どうか、ご容赦ください」
顔を赤くした父親という珍しいものを見れた。
「このカードは、キラキラとしていないのだね?」
「エルソン男爵閣下、誠に申し訳ありません。そのカードのキラは母上1人のものとなっておりまして…」
「フッ…ハッハッハッハッハッ!パスガン、妻に愛されているな!すばらしい!まずは家庭の平和からだ!実に良いね!ハッハッハッ!」
一瞬きょとんとしたエルソン男爵は、豪快に笑うと後ろを向いて、さらに父親をからかった。父親の顔がますます赤くなる。
「そうなると、もう1つの包みが気になるな。それも見せてくれるのだろう?」
「はいこちらも同じカードですが、一部手法を変えたものをお持ちしました。」
俺は包みを開ける。カードの印刷はステンシルで薄い色を重ねていき、最後に黒でイラストのアウトライン兼カードの枠の装飾を塗って締めている。俺はそのカードの装飾の部分の黒を、金属粉と『スライム粉』を加えた新塗料を厚めに塗ることで、煌めくメタルフレームカードへと進化させた。キラ効果と相まってカードは重厚感が増し、さながらちょっとした芸術品のように見える。重みと厚みが増した分カード感はうすれたが、それはやむ無しだ。
「これはなんと…!素晴らしいな…装飾の部分が金属で作っているのか!」
「正確には金属の粉を塗料に混ぜ込んで塗っております。こちらは、この世に1セットしかありません。どうぞお納めください」
「いやいやいや…リュード、君は想像以上だ。これは本当に嬉しいな。パスガン、君の息子は素晴らしい」
「お褒めにあずかり恐縮です。ですが、いまだ年若く危うさもあります。あまり閣下も誉めすぎない様にお願いいたします」
「それを見守り、補い、叱り、そして羽ばたかせるのが、我ら大人のなすべきことだよ」
エルソン男爵は朗らかに笑った。
「さてリュード、少し頼みごとがあるのだけど、聞いてくれるかい?」
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