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142◆ライバルTCG『グランナイトストーリーズ』◆



 冬は貴族の社交シーズンだ。巡遊伯爵となった昨年の冬は上爵された後、すぐに東に帰ってしまっていたため、各貴族の出るパーティに出るのは久しぶりだ。


 俺は貴族の言い回しや間の取り方、話題の組み立てなども全く知らない。そのため、俺が出席する際は仮面パーティとなるのが決まりになっている。どこの誰かをはっきりさせないことで、俺は余計な言質もとられないし、気を遣うこともなくなる。そして各貴族も序列を気にせずに話しかけることができ、運がよければ俺に何かしらのアイディアやアドバイスをもらえるということで、お互いにとって旨味のあるスタイルだ。その中で直接会う必要があれば、派閥の長が後日仲介してくれる流れができている。





 冬の半ばとなったある日、俺は3辺境にも王族一派にも属していない王都周辺の貴族による独立派と言う派閥の仮面パーティに参加していた。派閥の長は、国王様の右腕である宰相のヴァルド侯爵だ。


 穀倉地帯は王都を中心に王族が抑え、広大な辺境は各辺境伯が治めている。その間にある、険しく開拓困難で特産品もない場所を治めている低位貴族の集まりが独立派なので、この派閥は今まで元気もお金もなかった。


 だが、俺の生まれた土地であり、『マギクロニクル』を開発したエルソン男爵領のおかげで、この独立派はここ数年は活気づいている。『マギクロニクル』で上げた莫大な利益をもとにエルソン男爵が超低金利で他の貴族に貸し出しており、派閥の貴族が様々な開発に挑戦できるようになったためだ。なので、独立派の貴族達は意欲が高く、パーティも刺激があって楽しい。


「サプライザー巡遊伯爵、本日は貴方に見ていただきたいものがありまして……」


 そう言って近づいてきた痩せぎすの若い貴族がいた。ルールとしてはここで俺が見せてもらっても、誰かわからない貴族の1人から見せられた物になるため、俺がどういうリアクションを返しても問題はないし、見るのを断ってもいい。だが、俺に何かをアイディアを出してもらおうとする貴族は多くても、わざわざ何かを見せようとする貴族は少ないので俺は快諾した。


「ぜひ拝見させてください」


「はい、これです。巡遊伯爵にお見せするのも恥ずかしいのですが、なかなか行き詰っており、恥を忍んで何かヒントでもいただけぬものかと……」


 その貴族が取り出したのは、30枚ほどのカードだった。パッと見ると『マギクロニクル』に似ている。カードは下地の白がわずかに黄みがかっており、デザインやイラストも粗いもので、ルールやフレーバーテキストは手書きだった。商品というよりは、試作だ。


「ふむふむ……おぉ……」



 俺は、ルールテキストや、カードの数値などを細かく見ていく。カードには全て、騎士と従士が描かれており数値が振られている。粗いがいけそうだ……それが俺の感想だった。


 今まで『マギクロニクル』の真似をしようとした商人や貴族はいた。だが、デザインは似せることができても、肝心のゲームは無理だった。俺には前世で得た知識と経験があり、それを元に人数と時間をかけてシステムを作り上げてきたのだ、そう簡単に追いつけるようなものではない。


 今手にしているカードは、試作ということもあるだろうが、持つ手に熱さが伝わってくるような熱が込められたものだった。手持ちのカードから想像するに、騎士同士がチームを組んで戦う内容のようだ。ただシステムが成立しているのかどうかが不明瞭だ。


「なるほど、おもしろそうですね。騎士隊を組んで対戦するのでしょうか。右下の数値、これの合算値で勝敗を決するのかな。もし騎士を出すのにコストなどの設定がないなら、ひたすら闘わせるだけのものになっちゃいそうですね……あ、逆にそれが狙いなのかな」


「一瞬でそこまで!?」


「開発者の熱意とこだわりを感じます。システムがどこまで成立しているかが分からないので何とも言えませんが、少しクセが強そうです。戦略がたてられるものであれば、はまる人も多いカードゲームになると思います」


「巡遊伯爵にそこまで言っていただけるとは!あぁ……本当にありがとうございます!」


 青年貴族は目に涙を浮かべながら、語り始めた


「『マギクロニクル』に感銘を受けたのは家督を継ぐ前でした。あまりカードは買えませんでしたから、人にどんなカードがあるのか、内容を聞いて、自分の持っていないものだったら、同じサイズに揃えた羊皮紙に書いて、何度も遊んでみて…研究してきました。知れば知るほどに複雑巧緻に組み上げられたシステムに魅了され、はまりました。そして私の中に、いつの日か私も!つたなくてもいい!こういうものを作りたいという想いが芽生えたのです!」


 まさかの青年貴族本人が、システム考案者だった。しかもカードが手に入らないから、白カードに自分で書き込んでまで研究をしたことに驚かされた。それは前世で入手困難な海外産のカードを研究して遊ぶのに、俺と先輩達とで行っていたのと同じ行動だったからだ。カードリストとシステムの書かれた英語の本しかなかったから、全部訳しながら手で書き写して、徹夜でプレイした。最初は訳もひどくてまともに遊べなかったものだ…懐かしいな、先輩達は元気だろうか。


「システムは成立しているのですか?」


「まさにそれです、やりたいことはあるのですが、そのために他の要素をどういった割合で設定すればいいのかもわからず…今は成立しているとは言えないです」


「いいですね、では1度遊びにお伺いしても?」


「は!はい!ぜひお待ちしております!」





 その後、ヴァルド侯爵を通じて青年貴族、アーキム子爵と会った。ちなみにエルソン男爵には『マギクロニクル』も数年を経って売上も落ちた今だからこそ、ライバル商品が必要で、ここでTCGの火を消さないことが大事だと伝えて、俺が監修に入ることを認めてもらっている。実際前世のカードゲームも、数種類のTCGがブームを繰り返しながらずっと続いている傾向にあった。


 アナログゲームのシステム作成には、勘所、ポイントのようなものがある。“ゲーム構築には、まずここを設定”とか“ここまではOKだけど、これ以上は要素がまとまらず破綻する”みたいなポイントだ。何本も企画を練り、試作を作り続けるとなんとなく把握できるようになる。アーキム子爵の考えたシステムはなかなか面白かったが、バランスが悪く進行が止まるフリーズバグもあった。それでも初回の試作で、ここまで作りあげたのはすごいと俺は感動した。


 俺は、アーキム子爵に開発チームを揃えてもらい、一緒にゲームのシステムを再構築した。ただし、ずっとは付き合えないので、王都にいるこの冬の間だけだ。


 アーキム子爵のやりたいこととこだわりを聞きつつ、コンセプトである騎士同士のチームバトルを幹として組み替えていく。アーキム子爵のイメージは次から次へと騎士を出すものだが、それだけだと戦略性に乏しく単発のカードバトルにしかならない。TCGはカードが集まるたびに戦略が広がっていかねばならない。


 なので要素を整理しつつ、戦略性を高める仕様にした。大きな改善点は陣形要素だ。3×3のカード配置マスを用意し、ポジションと騎士の組み合わせで、発揮できる能力を設定する。加えて騎士同士の連携要素や、アイテムを中心とする補助カードも設定する。


 コストの概念も導入する。なるべく分かりやすくするため、1ターンに一定の士気ポイントが上がり、それを使って騎士の召喚、補助の仕様、陣形変更に攻撃などを行う。


 これらのシステムを遊べる試作まで出来上がって、俺の監修期間が終わった。システムはまだまだデバッグが必要なので、継続して行うことを指示し、ストーリーラインやキャラクターの重要性を説明し、拡張性と第2段以降のネタもすり合わせした。


 そして特に大事なこととして、騎士や従者には女性を最低3割、できれば5割は入れることを強く勧めた。アーキム子爵は、女騎士などほとんどいないと、最初はものすごく渋っていたが、『マギクロニクル』で上位人気カードの話をしたら納得していた。おっさん使うより、きれいな、又はかわいい女の子使う方が人気は出るのだ。



 この後200日ほどして、アーキム子爵より、この世界での第2のTCGとなる商品『グランナイトストーリーズ』が発売された。騎士という貴族にとってより身近な要素のため、たちまち人気になってヒット商品になった。貴族が自領の騎士と共に遊ぶ姿も王国のあちこちで見られたと言う。






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