141◆『メモリースター』プレゼンと販売◆
「皆さま、こちらをご覧ください」
俺が取り出したのは高級な布箱に入った、魔石で作った人工宝石『メモリースター』だ。大きさは親指の爪くらいで、厚みのある碁石のような形をしている。しっとりとして艶やかな表面の光沢は見る角度によって僅かに色が変化する。石の中央部には裏表の両面に数ミリほどのすり鉢状の穴が空いており、そのすり鉢の底の部分は表が乳白色、裏が薄墨色をしていた。
「なんだこれは?」
「これは『スタープレイヤーズ』の創り出した新しい宝石です。名前を『メモリースター』と言います」
「宝石?これがか?確かに不思議な光沢はあるが、透明度も低く、穴も開いているではないか。仕掛けはあるのだろうが、さすがに宝石と呼ぶのは言い過ぎではないか?」
「いい反応をありがとうございます、国王様。この宝石は、自分や伴侶の方を引き立たせ輝かせるためのものではありません。これは人の心を輝かせるための宝石なのです」
「言っていることがわからん、どういうことだ?」
「では、ご覧ください」
俺は自分の首から下げた、『メモリースター』のついたネックレスを取り出す。そして、裏面の穴に指を触れながら、テーブルの向かいに座る、国王陛下と3辺境伯に見せる。数センチ四方のスクリーンが『メモリースター』の上に浮かび上がっており、そこには微笑むレイレの上半身が映っていた。
「なんだ!!?これはっ!?」
「こんな感じで自分の大事な人の姿を肌身離さず持っておくことができます」
「リ、リュード、もっとよく見せてくれ」
「裏側の穴に指を触れてください」
俺がネックレスを渡すと、国王様は何度も何度もレイレを表示したり消したりを繰り返す。
「国王陛下、私にも……」
3辺境伯も同じように何度も試していく。
「リュード、妾は買うぞ。まず妾の家族の分で10個だ」
「エリザリス西辺境伯、まだ値段を言っていませんが……」
「構わん。妾は夫の絵姿を持っていたい。夫にも妾の絵姿を持ってもらいたい。娘夫婦達も同じだろう」
西辺境伯の旦那さんは王都で何度かお会いしたことがある。西辺境伯とは真逆の、ほんわかとした癒し系の人だが、2人はとても仲睦まじそうだ。だが体の弱い旦那さんは西の領地に帰ることはほとんどなく主に王都で過ごしている。1年の中でも2人が一緒にいる時間は冬場の社交シーズンに限られている。ゆえに値段も聞かずに買うと言ったのだろう。
「貴公、この『メモリースター』は幾らになるのか?」
「技術者の出張費込みで1つにつき1万リムです。本体のみの販売ですので、装飾部は各自でご手配お願いします」
「技術者?出張費?」
「それは、今この場で実演いたしましょう。ご説明がてら…お手数おかけしますがエリザリス西辺境伯、そうですね、そのカーテンの前にお立ち下さい」
「む、こうか?」
俺はVRゴーグルのような道具を取り出すと、グラスの上についたスロットに『メモリースター』差し込んで、頭に装着する。
「今から、西辺境伯のお姿を記録します。3秒ほどですので、少しじっとしていてください。もし今のお姿を旦那さんにお送りするのでしたら、どうか笑顔で」
「いや、待てリュード、駄目だ!わ、妾をとるな!そ、そうだ、クマ、いや北のがいいだろう!妾はまた次だ、北のここに立て!」
「む、そうか、なら私が」
「ではバルクライ北辺境伯、笑顔になってください。子どもたちと接しているときのような気分で、そうです、そうです!迷路とかで皆が遊んでいるのを見てる感じです!」
俺がゴーグル越しに北辺境伯を見つめながら、脇についたスイッチを押すと3秒ほどしてピーと音が鳴る。俺は『メモリースター』を取り出して、北辺境伯に渡す。
「できました。試してください」
「おぉ!私が映っている!なんとまぁ…すごいものだな、これは」
「はぁ~~おもしろいもんだな」
「北の、なかなかいい笑顔をするでないか」
東辺境伯も国王様も北辺境伯の横から、空中に映し出された北辺境伯の笑顔を見ながらしきりに感心している。
「そういえばリュード、この宝石は私の妻やマリアンヌ夫人まで巻きこんで、開発をしていたな。なぜこれを東にいるときに、私に見せてくれなかった?お前だけでない、誰もが口をつぐみ、頑なに私に見せてくれなかった。あそこまで拒否することもなかっただろうに」
「見せていたら、東辺境伯はどうしてもと言い張って、自分のを先に作って、この場で他の方に自慢していましたよね?だからです。前回あおりすぎたって、ご自分でも反省されていたじゃないですか」
「む……ぐう」
「うむ、リュード、お前のその判断は正しい、よくやった」
「確かにな、高笑いを上げながら自慢しておっただろうな」
「ということで、以上が実演となります。要は今私が行ったように、この『メモリースター』に絵姿を記録するための技術者を国内であればどこでも派遣します。その派遣料を込みの値段になります。この冬で王都にいる間でしたら、私がお伺いもできますので」
そこから西辺境伯に続いて、他の3名からも注文が入った。冬の社交界でそれぞれのパートナーと一緒につけて自慢すると息巻いていたが、俺が渡すのは本体までだ。たぶんこの後、各人のお抱え職人が苦労することになるのだろう。俺はあったこともない職人に心の中で謝っておいた。
「また、しかし、随分をおもしろいものを考えたな。何をしたらこんなものができる?」
「こういう魔物を発見したのです。それを解剖している中で仕組みに気づいたので、長い時間をかけて研究して、ようやく形にできました」
しばらく『メモリースター』の開発秘話を含めた雑談をする。
「そういえば、貴公の細君はどうした?今回一緒に来ていないのか?貴公なら2人で実演しそうなものだと思ったが」
「北辺境伯のおっしゃる通り、本当は2人で来る予定だったのですが、新しい家族ができたようでして無理はさせられないと東で留守番をしてもらっています」
「おぉ、それはめでたい!貴公もついに父となるか!」
「そうか、良かったなリュードよ。不安定な時期は確かに馬車での移動は避けたほうが良い。早めに戻って、充分にいたわるがいい。特に最初はいろいろと不安にもなっているだろう」
「ありがとうございます。子供が生まれたら、私も毎年、この『メモリースター』に記録するんです」
「なるほど、そういう使い方もありか!」
「この絵姿は長く持つものなのか?」
「数百回以上映し出しても平気でしたが、魔石の魔力がなくなると記録した映像も消えます。なので、100回くらい写したら、一緒にお渡しするチャージ棒で魔力補充してもらったほうがいいですね。魔石が劣化したなどの話は聞きませんし、おそらくですが半永久的に残ると思います」
こうして、『メモリースター』のプレゼントと販売は無事に終わり、商品としては素晴らしいスタートをきることができた。ちなみに、後日訪れた西辺境伯屋敷では、普段の軍服のような衣装ではなく、とても華やかで可愛らしいドレスに身を包んだ西辺境伯の姿を撮影した。旦那さんの反応もすこぶる良く、2人にとても感謝された。ただ、最後に今日見たことは他言無用だと念を押された。
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