138◆異世界宝石『メモリースター』◆
「リュードさん、どうでしょうか…?」
「いや、すごいね!この短期間によく作り上げたよ、すごいよモービィ!」
俺の手の中には、昼と夜の合成魔石『写映石』がある。夜の方の穴に指を触れると、反対側の昼の方の穴から、空中に数センチ四方の光るスクリーンが浮かび上がる。そのスクリーンにはついさっき記録した俺達『スタープレイヤーズ』全員の姿が写っていた。
『写映石』を皆に渡すと、皆口々に驚きの声を上げ、モービィを誉める。
「すごいよね!モービィくん!感動した!この道具使えば、夜属性の人なら誰でも、映像を好きなように記憶できるんだもん!」
「えぇ、モービィの発想にびっくりしたわ、実験台になったかいもあるというものね」
「モービィのおかげで、ようやく商品化が叶いそうです。リュード、これはどういう販売形式で進めていきますか?」
「そうだね、思いついたこともあるから、後で説明しよう。その前に皆に、この道具の原理をモービィから説明してもらわないとね」
「はい、で、では。説明します……」
今日は以前からモービィに研究を命じていた、昼と夜の合成魔石で作られた映像を記憶して映す石『写映石』の研究の成果を発表する場だ。俺は事前に研究の成果を確認しているが、わざとらしいくらい皆の前でモービィを誉める。自分の成果がそのくらいすごいことだと本人にも認識してもらいたいからだ。
以前に『スタープレイヤーズ』の女性陣で研究開発した『写映石』は、映像を記憶させ映すところまではできたが、そこから商品化までの道筋を見つけられずにいた。いや、商品のイメージはできている。ネックレスのようにして、肌身離さず持ち、いつでも大事な人が見れる…そんな素敵なアイテムにしたいのだ。
問題となっていたのは、映像の記憶のさせ方だった。昼と夜の合成魔石に映像を記憶する方法は、女性陣の大量の睡眠時間と涙と汗を引き換えに発見されたものだ。
魔力を全て抜いた昼と夜の合成魔石の夜の側に、別の夜の魔石から魔力をチャージする。その際にT字型の神経棒を使用し、T字の突き出た棒の部分をクロナが握り込んで、相手に幻覚を見せる魔法を使う要領でイメージを送り込む。チャージする魔力に無理やりイメージを割り込ませる、それも魔力量が『たくさん』のクロナが全力でごり押しするというものだった。
それを今回のモービィの発明によって、夜属性の人間であれば『少し』の魔力量の人間でも簡単に記録できるようになったのだ。
「しかし、すごいよね、この道具。何と言うか、この発想は出てこなかった」
「それ着けてる姿は、なんというか、すごく奇妙で…怪しいですね」
俺は、前世でいうところのVRゴーグルのような器具を装着していた。ゴーグルの厚みは5センチ近くある。両目の部分は筒状になっており、かつ内部が黒く塗られているため、俺はすぐ目の前が円状にしか見えていない状態だ。ゴーグルの上部分は額を半分くらい覆っており、その内側に接点のようなものが付いている。さらにゴーグル前方には、合成魔石をはめ込むスロットもついていた。
「えっと、視界に入る情報を整理して余計なものを排除したら、もう少しイメージを送りやすいのかなと思いました。それと、イメージを送り込むのに手を使う必要がないのかなと。クロナさんは幻覚を相手に送るので手なんですけど、目で見たものを近い所で送れるようにした方が合理的だと思いました」
「はぁーーそれで出来たものがこれなんですね、いや、こういう物は、リュード殿しか作れないものかと思っていましたが、モービィもなかなかどうして……」
「本当ね、こんな道具を作れるモービィがいれば、リュードもいらなくなるんじゃないかしら?」
「いや、俺いるから!必要だから!言われたモービィだって困ってるじゃん!」
場が笑いに包まれる。俺は笑いながら、モービィを商会に加えて正解だったと心から喜んだ。
モービィは5歳の魔法判定の際に、風と夜の2つの属性があり、量は『少し』だと言われたそうだ。2属性以上を持つものは、体内の魔力のラインが混線してしまうため、魔法が出せなかったり、出せても安定しないため魔法の適正はないとされている。
俺は生まれた時から前世の意識があり、とにかく体内の魔力ラインを意識して訓練したので、混線しないどころか、同時に出すことで複合魔法を使えるようになったが、そんな人間は他にはいない。
それを踏まえた上で俺は、魔法適正はあるが魔法を使えない、ちょうどモービィのような人間に、刺激を与え続けたらどうなるかを実験し続けていた。完全に俺の興味本位だったが、結果としてモービィは夜属性の魔法だけ少し使えるようになった。夜属性を得たことでモービィの研究はさらに進んで、今日を迎えた。
「じゃあ、モービィ、今回の道具開発の特別報酬。はい」
俺はモービィに金貨のみっちり入った袋を渡した。ちょっとした、いや、かなりの金額だ。
「い、いえ、受け取れません!今でさえ給金、かなりたくさんもらってるんです!だ、大丈夫です!」
「いやモービィ、これは受け取って欲しい。モービィに対する評価を形にしたものだから。使わなければ貯めといていいし、街でパーッと使ってもいいし、気になるこがいるなら誘ってもいいと思う。モービィは、この先も何度も特別報酬を手にすることになるかもしれないから、今のうちに慣れておこう」
「う…あ、ありがとうございます!」
考えたいこと、試したいことはまだまだたくさんある。モービィには、俺の頭と手の一部として、さらに研究開発に励んでもらおう。ちなみにボーナスを得たモービィが最初にやった贅沢は『イーストスパランド・ザナドゥ』に3連泊することだった。商会メンバーは、福利厚生として半額料金で並ばずに入れるようにしてあるので、つつましい贅沢だと思うが気持ちはよく分かった。そのうちいい相手でも見つけて欲しいと思う。
◇
「それで、リュード。どのような商売、売り方にしましょうか?」
「うん、まずこの『写映石』だけど、仮称だったから、正式に名前をつけよう。で、その名前つけるにあたってだけど、根本的な考え方から変えたいと思う」
「考え方を変える?」
「そう。俺達は今回、ネックレスやブレスレットを売るんじゃない。俺達は新しい宝石を創り出した。その宝石を売るんだ」
「なるほど!!素晴らしいです!リュード!」
テイカーがパンと手を叩いて声を上げる。
「え、どういうこと?」
「そうですね、ミュカ、まずこの『写映石』、魔石生産の手間は『ポケットファイア』と変わりませんが、先ほどのモービィもですし、皆のこれまでの開発にかけた手間、それと『写映石』に記憶させるにも人員を派遣しないといけません。その分の費用を考えていくと、どうしても高額商品、富裕層や貴族相手のものになります。」
「うん、たしかに」
「ネックレスやブレスレットになると個人の好みもありますし、流行なんかも出てくるでしょう。それを全部『スタープレイヤーズ』で行うのは、さすがにきついものがあります。」
「あぁ。だから、宝石なのね」
「そうです。宝石として売るのであれば、そこから先は宝石職人達と購入者達のやりとりになります。おまけに職人達の仕事も奪わずにすみます。」
「本当に…いろいろ考えてるのねー」
「ちなみに値段に関しても、記憶する出張費込みで高値を設定するつもり。例えばさ、自分の思い出を記憶できる新しい宝石…100リムで売られていると聞いたらどう思う?」
「安くて、胡散臭いと思っちゃいますねー」
「だから、値段は最低でも1万リムからにする」
1万リム、前世の金額にあてはめるなら500万くらいだろうか。宝石に記録させるスタッフの派遣料も混みでの金額だ。もう少し高くても買ってくれるだろうが、俺達から買い取った後、装飾品に加工しないといけないので、少し割高感が出てしまい、広がっていかない気がする。
「だから、『写映石』の外観も、もう少し工夫して高級に見えるようにしよう。そこは女性陣、あとマリアンヌ夫人やチェルノ夫人にもお願いしたいと思う。頼むよ。」
「「「了解」」」
「それで名前はどうします?」
「『メモリースター』はどうかな?」
その後、記憶させる道具を5台作り、夜属性をもつ貴族家の出身の人間を数人、東辺境伯から紹介してもらい、本人の適性を見た上で雇い入れた。それぞれのスタッフは、『メモリースター』の販売代理人、兼記録技術者としてトレーニングしていく。技術取得を兼ねて、『スタープレイヤーズ』の皆がそれぞれ欲しがる『メモリースター』も作った。俺はレイレが微笑んでいるもので、レイレはその逆だ。ハイマンやクロナ、テイカーにミュカも喜んでいた。
女性陣の開発の成果も素晴らしいものになった。合成魔石の表面に層状に塗るスライム粉と木粉の混合液の配合や素材を変えて試しまくった結果、『メモリースター』は真珠に近い質感になった。色も、白、黒、薄い青、深紅、薄紅色の5色から選べる。
この年の冬に『メモリースター』を王都でデビューさせるべく、俺達は準備を重ねていった。
お読みいただきありがとうございます。
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。




