135◆再会◆
「っぷはぁ~~~~~!!!!」
俺は冷えたエールを一気に飲み干すと、テーブルにダンッと音を立てて木製の杯を置く。
「はぁ~~~、美味しいですね……リュード、もう少し丁寧に置きましょう」
「ごめん、ごめん。気をつけるよ」
「おかわりいる人は?」
「はーい!」「はい!」
クロナが注文をとってくれる。テーブルの上には前世で言うところの、フィッシュ&ポテトを中心に幾つかの料理が山盛りで並んでいる。エールが冷えているのは、冬の時期だけの俺のこだわりだ。この世界は冷蔵庫がないので、大概どこに行っても冷たい飲み物なんか出てこない。だが、風呂上りには冷えたのをキューンと飲みたいのだ。だから冬時期だけは、俺達用にエールの樽を幾つか外に置いてもらっている。
東辺境領の領都ユーガッズに帰ってきた俺達だったが、なんと屋敷にはまだ温泉がひけていなかった。冬の移動だったので、移動の馬車の中では、ひたすら温かい湯舟に浸かることを考えていたのに、盛大な肩透かしを喰らった俺は我慢できず、皆との再会もそこそこに隣のスパ銭『イーストスパランド・ザナドゥ』に来ていた。
貴族エリアは予約で埋まっていたので、『スタープレイヤーズ』全員で、平民向けエリアに入り、今フードコート奥の衝立を立てたVIP席でスパ銭宴会としゃれこんでいる。ちなみに皆、甚平のような館内着を着ている。
「はぁ~~揚げ物やばいね。まだ本稼働じゃないのに作ってくれて有難い。美味しすぎて止まらない!美味い!」
「リュード殿、あなたはよくこんな素敵なものを作ってくれました。あぁ…本当にたまりません」
「食べすぎると太っちゃいますが…今日くらいはいいですよね」
レイレもどんどん口に入れていく。『スタープレイヤーズ』は全員、冒険者で体を使うため、皆よく食べるし、揚げ物が大好きだ。フィッシュ&ポテトだけでも、山盛りになった大皿が5つもあったのに、もう無くなっている。
「しかし、ようやく帰ってこれたなぁ…大変だったよ」
「領都は2人の噂でもちきりでしたよ。ドラゴンスレイヤー夫妻とか言われていますよ」
ハイマンが上気した顔で楽しそうに言い、その横でクロナがハイマンの食べる分を皿に取り分けていた。ミュカとテイカーは同じタイミングでエールを飲み干して、ふぅと息を吐いている。
「でもさ、すごいよね!ドラゴンスレイヤーだよ!史上初だよ!」
「いやー、正直きつかった。レイレいなかったら俺死んでたし」
「それはお互いさまですね。リュードがいなかったら、どうにもならなかったのですから」
「その上、リュードはとうとう伯爵にまでなってしまいました。驚きですね。でも……」
「うん、巡遊は取れなかった。笑うしかないね、アハハハ」
「レイレもすごいじゃない。女男爵なんでしょう?その……」
「えぇ、巡遊がついています。っていうか、この巡遊がついてるのって、なんだか妙に恥ずかしいんです……」
「その恥ずかしいの、俺ずっとやってたんだけど!」
俺も含め、皆が笑う。ようやく帰ってきた。もう皆面倒くさくなって、自分達の屋敷は横にあるのに、そのまま男女別の雑魚寝スペースに行って休んだ。
◇
「さて、いない間、本当にお疲れさま。秋に皆で落ち合う予定だったのが、結局、今年の終わりになっちゃったね。今日はもう冬の85日だし」
「しょうがないよー。でも冬の間に帰ってこれたのならまだ良かったよね」
「確かにそうかもね。では、じゃあ皆のそれぞれの動きをすり合わせていこうか」
こうして、『スタープレイヤーズ』商会の長期出張明けの幹部会議が始まった。今年の成果と来年以降の計画は以下のようになった。
・王都、北、西、南に支店が開設された。支店では買取とうちの商品の販売を行っていく。
・東、西、北の冒険者ギルドが魔石の買取を行う仕組みができた。魔石は季節毎に棒品、精算され、その代金は手間賃を加えて各支店が支払う。
・加えて来年以降で、西辺境伯を中心として貴族兵達が倒した魔物の魔石も確保できるようになる
・現在の主力商品は『ポケットファイア』で、現段階で4000個以上の生産ができている。一部は先行で流しているが、今後は800個ずつを翌春に輸送し各支店で販売する。販売は、貴族納品分200個と一般販売分を600個とする。
・『ポケットファイア』の価格は50リムとする。1食のパンが2リム固定なので、ライターとして考えればアホみたいに高いが、工数や輸送費を計算しつつ、俺達の利益率はかなり低めに設定している。値付けはテイカーともめまくったが、永続的に売れるであろうこと、平民の暮らしを少しでも楽にするべく開発された商品という考えから、結果50リムに落ち着いた。
・『ポケットファイア』はドラゴンを倒した道具という、変な付加価値がついた。そのためプレミア価格をつけられ転売されまくる気がするので、俺のわがままからカードを1枚つけてもらうことにした。カードには商品のロット番号と、お礼メッセージ、そして元値と『スタープレイヤーズ』のスタンプが記載されている。加えて支店でも常に作り続けることを声高に宣伝してもらう。前世では販売側として、転売ヤーに悩まされた記憶があるので、少しでも抑えられればいいなと思っている。
・新商品となるミニフィギュアの開発を行う。西では既に生産に入っているので、来春以降、西から王都経由で各支店に輸送する。そして、王都、東、北、南のフィギュアも開発していくのと同時に、原型が出来たら、誰かが出張に行って生産体制を構築する。
・それぞれの商品や魔石の輸送は、王都から北、西、南方面はテイカーの実家の隊商に依頼する。王都と東は、元冒険者のモロクを中心とした『スタープレイヤーズ』隊商でつなぐが、いずれはこれも全国まで伸ばしていく。
・開発スタッフとして俺がモービィを、番頭補佐としてテイカーが南の街カプラードの『リトルラック』のチェーリオの孫を連れてきている。来春から正式に商会に入れる。各地でこれはと思う人材がいたら、『スタープレイヤーズ』の俺達であれば引っ張ってきていいとする。
・来年1年は、俺とレイレの巡遊はお休みして、商品開発と商会と工場拡大に力を注いでいく。
組織が大きくなっていくのは、商品を作るのとはまた異なる喜びがある。
前世で俺が1番長く勤めた会社は、超ヒット商品を生み出し、生産まで行ったことで、どんどん会社が大きくなっていった。組織が大きくなることは、人が増えていくことで、増えた人の分だけ問題も起きていく。それを俺は現場として、管理職として、嫌と言うほど味わった。俺自身も本当に未熟で、いろいろなことが全くうまくできなかった。
組織が大きくなる喜びは何なのか。それは、できることが増えて、未来が広がっていくことだ。今まで1種類しか作れなかったものが2種類作れるようになった。違うジャンルにも手を出せるようになった。広報が充実し、新しい宣伝ができるようになった。広がった業務間でシナジーを生み出し、より連動し楽しいものが産み出せるようになった……1つの商品を売るだけでは味わえないものがある。
だからこそ、気を付けなければいけないと俺は思う。トップと幹部の意志が1つになっていることや、働く人間の環境を整えて、ちゃんと還元すること、現場を見て見ぬふりをしないこと…他にもたくさんあるだろう。
『スタープレイヤーズ』の皆は、俺のおもしろいことをやりたい、ものを作りたいという想いを実現して広げていくのを根幹にしてくれているので、俺自身がそこを常に中心において、ぶれないようにしないといけないし、きちんと皆にも伝えないといけない。働く環境だって、1度皆を忙しさで追いこんでいるという嫌な実績があるので、常に振り返りつつ、それを末端まで落とし込んでいかないとならないだろう。
考えること、やることは山積みだが、俺は皆と一緒に進んでいこうと改めて決意した。
◇
皆で打ち合わせが終わり、新メンバー達の顔合わせも済んだ後、俺達は酒を飲んでいた。
「ということで、リュード、私とミュカには滞在中、しょっちゅう引き抜きの話が来ていました。名のある大商人から、うちで出資するから君の商会を立ちあげてみないかとか、うちの番頭にするとか、うちの娘の婿にどうかとか」
「そ…そうなんだ。ってか、すごい腹が立つんだけど」
「ですよね。だから私は、『貴方はグリフォン倒せるのか?『マギクロニクル』を作れますか、だったら考えていいですよ』と答えたんです。そしたら、途端に表情を変えて、『そんな大きな態度をとっていられるのも今の内だからな』ですよ」
「アハハ、断ってくれてありがとう」
「当たり前じゃないですか。リュードのような面白い人早々いませんから」
「ハイマンや私にも、引き抜きの話は来てたわよ。昔の王国調査室の仲間からも、各地で根拠のない噂を流そうとしていたという話も聞いたわ。そっちは、調査室の方で対応したらしいけど」
「あー下から上まで妨害してきてるんだね。皆への声掛けは内部崩壊狙ってかな」
「そういうことでしょうね。ですがリュード殿、あなたがドラゴンスレイヤーになって伯爵にまでなってしまったので、もうそういう妨害も無くなっていくでしょうね」
「一気に伯爵になっちゃうのかって思ったけど、そういう意図もあったのか。今度、国王様にお礼を言っておかないと」
「ついでに巡遊も無くしてもらうようにお願いしては?」
「これは無くならないでしょ……」
皆の笑い声と共に、俺は杯をあおって酒を飲み干した。暦上の新年まで何日もないが、後はレイレといちゃつきながら過ごすだけだ。こうして俺のハードだった1年が終わった。
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