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134◆巡遊伯爵◆



「素敵です…」


 夜空と湖面に灯る無数のスカイランタンを見ながら、レイレが白い息を吐く。俺はそのレイレを後ろから抱きかかえるように座っている。2人の体を覆うように俺が大きな毛皮を被っているので、表に出ている顔以外は温かい。


 左側の岸では北の領都バルクアクスの住民達が賑わっている様子も見えるが、距離も離れているため程よいBGMになっている。俺達の乗っている小さなボートは、時折軽く揺れるが、その揺れもまた心地いい。


「ふふ…リュードは不思議な人ですね。こんなお祭りも考えることができて、皆を笑顔にすることができて。いつも全力で」


 レイレが俺に深くもたれかかる。レイレの髪や体からどこか甘いような良い香りが熱と共に上がってくる。俺は何も言わずに抱きしめる腕に少しだけ力を込める。


「そんなリュードを独り占め。フフッ、それがとても嬉しいです。自分がそんなことを思うようになる日が来るなんて、考えたこともありませんでした」


「同じくだよ。俺もレイレを独り占めできている自分が誇らしいし、嬉しいし、大声で叫びたいくらいだよ」


「……東に戻ったら、ゆっくりしましょう」


「そうだね……。忙しかったし、大変だったからね。それまでは長めの新婚旅行を楽しもう」


「新婚旅行?」


 新婚旅行という文化がないことを思い出し、慌てつつもそれを出さないように俺はごまかす。


「あ、いや、俺が考えたんだけど、結婚したての夫婦が記念に旅行とかするっていう意味でね」


「新婚旅行…いいですね。新婚旅行する夫婦が増えたら素敵ですね」


「うん、じゃあ、先々で俺達の計画にも入れていこうか」


「また予定が埋まってしまいますね。私のことを構わなくなったらいやです」


「大丈夫、ずっと一緒だから」


「約束ですよ」


「うん、約束」


 ドラゴンを倒した後、俺達は北辺境伯に「貴公は、まだスカイランタン祭りを見ていなかったな。貴公の考えたものだ、ここからであれば、時期的にも間に合うし、王都に戻るのであれば北を経由するのはどうだ」と誘われた。そういえば、考えはしたが確かに見ていなかったなと思うのと同時に、レイレと一緒にぜひ見たいと思った。


 春先に『スタープレイヤーズ』の皆と別れた。俺とレイレだけの旅になり、最初は新婚旅行みたいだなーなんて考えていたが、そもそも西に来たのも仕事で、その後はずっと忙しかった。休みは定期的にとっていたけれど、旅行っていうほど楽しい思い出を一緒に作れていない。そして今回のドラゴン騒ぎだった。レイレを寂しがらせないように気を使っていたつもりだったが、喜ばせることはできていなかったと反省した俺は、今回の北行きを決めたのだった。


 スカイランタン祭りは、素晴らしい祭りだった。俺が企画提案したのは、レイレに会う前だが、過去の自分を褒めまくりたい気分だった。その他にも北辺境伯の屋敷で貴族子供向けの迷宮『ホワイトラビリンス』、領都内にある平民向けに作った2つ目の大迷宮『ブラックファントム』をレイレと一緒に攻略したり、北の領都巡りなんかも楽しむことができた。


 そして冬に入り、俺達は北辺境伯と共に王都へと向かった。





「…以上をもって、その武勇を称え、ドラゴンスレイヤーの名と共に末代まで残すべく、リュード・サプライザー巡遊男爵を、巡遊伯爵に上爵する。おめでとう!!リュード・サプライザー巡遊伯爵」


「ははーっ!ありがたき幸せにございます!」


「励めよ、巡遊伯爵」


 俺は心の中で「いや、巡遊はついたままなんかいっ!」と突っ込みを入れていた。ニヤニヤとした国王陛下の顔が前にあり、俺の後ろでは国中の貴族達が拍手をして新しく生まれた伯爵を祝ってくれている。


 俺とレイレは王都に着いて東辺境伯の屋敷に入るや否や、訪れた王宮の使者に上爵、つまり爵位を上げられる旨を伝えられた。急いで服を新調し、冬の20日に王宮へと入った。子爵以上の叙爵、上爵は冬の社交の時期の最初に、大勢の貴族達の前で行うのだと言われたためだ。


 王宮の大広間では、中央に1段高くなった舞台が用意され、そこに国王陛下と宰相が待っていた。下には多くの貴族が集まっている。初めに宰相から、今回の上爵の根拠となる理由、推薦人が誰であるかなどが紹介される。ちなみに今回の推薦人は宰相であるヴァルド侯爵だった。宰相が推薦人の場合は実質国王陛下が推薦人であること表している。国王は立場上、一貴族を推薦することはなく、その代理となっているからだ。


 俺は結局、男爵から1つ飛ばして、一気に伯爵まで上爵された。ドラゴン討伐した史上初の人間であり、国に訪れる危機を救ったから、それに見合うものとしたと説明があった。正確な爵位の位置づけとしては、子爵以上伯爵以下だそうだ。ちなみに領地はなく、その分年単位での貴族給金をもらえる仕組みになっている。頭に巡遊が付いているので、国内を回れば、俺の貴族としての責務は満たすことになっているそうだ。





「…通例では、この場では男爵の叙爵は行わないが、リュード・サプライザー巡遊伯爵と共に、ドラゴンを討伐した、その武勇を称え、レイレ・サプライザーを、巡遊女男爵に叙爵する。」


「おめでとう、レイレ・サプライザー巡遊女男爵」


「あ、有りがたき幸せにございます」


「期待しておるぞ、巡遊女男爵」


 なんとレイレも叙爵された。俺とレイレが夫婦でドラゴンを討伐したことは既に世間にも広がりつつあるそうだ。夫婦ともに高ランクの冒険者で名が売れているため、それぞれで叙爵、上爵し評価することで国の懐の広さを見せつつ、その人気にあやかろうということだと思う。


 その後、俺とレイレは国王陛下に呼ばれ、感謝を伝えられた。ドラゴンの塩漬け肉も非常に喜んでもらえた。ただ、西と北の辺境伯達は既に自慢済みだったらしく、ぐちぐちと新鮮なステーキ食べたかったとか言われたが、苦笑いで返した。


 俺はドラゴン討伐の時の傷を癒すという名目で、今年はもう東に戻り、来年は商品開発や商会の整備などを中心に活動するため巡遊はお休みすると、国王様に宣言した。


 こうして俺は、ようやく東に帰ることができたのだった。






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