133◆剣礼◆
「う~む…これは……」
「見ろ、これが牙の大きさだぞっ!」
床に並べられたドラゴンの爪や鱗、牙や角などの素材を見ながら、北と西の両辺境伯が、唸りを上げた。北辺境伯が手に取った牙を、御付きの人間が見て絶句する。ほとんど時を同じくして到着した両辺境伯に状況を説明し終えた俺と子爵は、ドラゴンの素材を披露していた。
「夕食は、すごいのを用意しましたから。ドラゴンの焼肉です!兵士の皆さんにも、肉の入ったスープをお出しします」
「いや、ドラゴンの焼肉!?しかも兵士の分もだと?」
「貴公、私もよいのか?」
「ええ、お二人のためにとっておいたので、食べてください。討伐記念です。本当に危険な肉ですよ、美味しすぎて」
「すごい顔になってるぞ、リュードよ」
おっと、思い出しただけで顔が緩んでしまう。
「すまぬな、結局間に合わず、役にも立てなかった。悔しい思いだ。だが…いただく!」
「国王陛下には良いのか?」
「国王様と東辺境伯、『スタープレイヤーズ』の皆には塩漬け肉です」
「文句を言いそうだが。しょうがないな」
「あぁやむを得まい」
両辺境伯がニッコニコの笑顔だ。国王と東辺境伯に自慢できるのが嬉しいのだろう。もし国王に、この肉を食べてもらおうとすれば、非常に無駄が多く出てしまう。冷蔵・冷凍技術がない世界なので、腐るのも厭わず大きなブロックで運んで、到着したときに腐った部分を全て切り捨てて、中央部分の熟成した無事な部分だけを食べることになるだろう。しかもここは西と北の辺境街道なので、王都まで行くには相当な日数がかかる。こんなにやばくて美味しいドラゴン肉を捨てるという選択肢は例え国王のためであっても取れない。ドラゴンに対する冒涜だ。
◇
夕食も終わり、俺とレイレ、両辺境伯は子爵屋敷の一室で、酒杯を傾けていた。おつまみは、ドラゴンの肉をポテトフライのように細切りにしたものを、ドラゴンの脂でカリカリに揚げたものだ。最初は翼膜で試そうとしたのだが、あれは食べられる部位ではなかった。塩を振りかけてもいいし、サワークリームにつけてもいい。これも絶品で食後にもかかわらず4人で大皿3枚目のおかわりをしている。
「すまぬな。騎士や兵士達も泣きながらスープを飲んでいたぞ。美味かったからだけではない。兵共は家族との別れを済ませ決死の覚悟で来ていたのだ」
「あぁ、本当に感謝している。北も同じだ」
「いえ、本当になんとかなって良かったです。上手くいくかどうかも自信がなかったですし、レイレがいなかったら実行もできませんでした」
両辺境伯はレイレにも改めての感謝を述べた。レイレは、2人に聞かれるままに、レイレの視点から見た戦いの様子を説明した。
「……神経が擦り切れる寸前でした。よく勝てたと思います」
「その貴公達の戦い方よ。驚きしかない!」
「そうだな、まさか…これで倒せることができるとは!」
そういって両辺境伯は手にした『ポケットファイア』を、感慨深そうに見る。結婚披露宴のときに、皆に配った引き出物のブラックバージョンだ。量産分はベージュ色だ。東の拠点では休む間もなく製造が進んでいる。
「一応可能性として話しておきますが、もし今回のドラゴンが番だった場合は、もう1体山脈のどこかにいる可能性もあります」
「そなたの話を聞く限り、凧と『ポケットファイア』で対応することは可能かもしれんな」
「そうですね、お二人には凧の作り方や材料に必要なものをお伝えしておきます。『ポケットファイア』は、がんばれば弓の先に付けて飛ばすこともできるかもしれませんね」
「『ポケットファイア』は対ドラゴン用の武器として、高く買い上げよう」
「いやいやいや、それですと商品の前提がおかしくなってしまいます。耐ドラゴン用の武器で今日も料理の火を点けましたって、わけわからないですよね?値段も上げませんし、生産も今がんばっていますから、普通に買ってください」
「む……そうか、分かった」
「リュード、そなた何か望みはあるか?何か褒美を渡さねば格好がつかぬ。そなたは西の領民の救世主なのだ、何も渡せずでは西辺境伯としても国王や領民から怒られてしまう」
「と言われても、欲しいものとかないんですよね…。レイレ何かある?」
「私も別に…まぁ、強いていうなら少しゆっくりする時間が欲しいというか」
「そうだよね。同感だよ。東に帰って、温泉でも入って、少しゆっくり過ごそうね。」
「…すごい顔になってるぞ、リュードよ」
しまった、レイレとの混浴が頭によぎって一瞬顔に出てしまった。ごほんと咳ばらいを1つ入れつつ、これからの仕事上で必要なことでも考えてみる。
「あ、そうだ、そうです!よければ、西辺境伯の騎士や兵士の方達が倒した魔物の魔石を安く譲ってください。冒険者ギルドの方は交渉して、ルートを確保できたんですけど、どうせなら、もう1ライン確保したいなと」
「そんなことでよいのか?というか、安くなどと言わずそのまま渡すが…そなたの功績に全く釣り合わん。どうしたものか……」
「西のよ、それでは、その魔石の方を広げてはどうか?西のが中心になって、王国、東、北の魔石も安く購入しリュードに届ける、その仕組みを作ってはどうか?もちろん北もとりまとめて安く提供しよう」
「ふむ、そうだな。その案をいただこう。だが、それだけでは理解できない者もいるだろう…後は報酬と名剣、別荘としてのエリスリの屋敷でも、受け取ってもらうか。む、そうだな、エリスリに石像も立てよう」
「いやいやいや、石像とか恥ずかしいので、止めてください!」
「む?そうか?良い案だと思ったのだが」
こうして、俺は魔石の供給ラインを強化することができた。本来魔石は使い道があまりないため放置されることも多く、素材買取でも捨て値でやり取りされている。今後商品を作るにあたって、俺達は大量に必要とするが、価値があると気づかれる前に、供給ラインを確立しておきたい。そう思った俺達は、3方向に別れて、各辺境領の領都で冒険者ギルドと掛け合って魔石の買取ラインを構築した。西は上手くいったし、北と南もたぶん構築できたと思う。そこに辺境伯達からの太いラインを確立できたのは、幸いだった。
◇
「ということなんだけど、どうする?」
俺は今回の先遣隊の中の一番の年少の冒険者モービィに問いかける。モービィは目を輝かせつつ、後ろにいる父親のラバルの方を見る。
「モービィお前も成人している。お前が決めろ。俺のことは気にするな。俺だって普通に働いている。寂しくはなるが……、良い仲の食堂のおかみがいる。亭主に先立たれていてな。結婚を迫られているんだ。良い機会かもしれんな。」
「父ちゃん、いつの間に……。わかったよ、ありがとう!リュードさん、俺、リュードさんと一緒に東に行きます!好きなだけ俺のこと使ってください!」
「うん、わかった。一緒に行こう。モービィには東についたら、いろいろとやってもらいたいこともあるんだ。」
「は、はい!がんばります!」
俺はモービィを『スタープレイヤーズ』の商会のメンバーとして、一緒に東に来ないかと誘った。理由は、モービィの開発者向きの性格だ。モービィが普段から取っていたメモは、魔物の名前や姿、足跡、特徴などが稚拙ではあるが絵と一緒にみっちり書かれていた。特徴となる部分も、構造や仕組みもわかる範囲で書かれていたし、疑問に思ったことも書き留めてあった。打合せで臆することなく自分の考えを述べることもでき、その視点も良い。性格も素直で、掘り出し物の人材だった。
今後モービィには、『スタープレイヤーズ』でほとんど俺しかやっていない魔物の素材の研究や、実験、開発を中心にやってもらう予定だ。俺が本拠地を離れている間はどうしても研究がすすめられない。そういうときの研究員として期待をしている。
◇
「では、リュードよ、冬に王都で再び会おう」
「西のよ、責任を持って我が領に迎え、そして王都へと送り届けよう」
「総員、気をつけ!抜剣!」
西辺境伯の凛とした声が響き、西と北、両辺境領の騎士と兵士がザッと足を鳴らして姿勢を正すと、皆が乱れることなく一斉に剣を抜いた。両辺境伯自身も剣を抜き、自分の顔の前に立てると、それに倣って兵士達も同じように構える。
「ドラゴンスレイヤーに!剣礼!」
「「「「「「おう!!!!」」」」」」
立ち並ぶ剣林が陽光を反射する。そこには戦いに身を置く者達からの、純粋な敬意と感謝が込められており、それは熱気となって俺にしっかりと伝わってきた。体を震わせながら、俺も剣礼を返す。高く上げた剣先に、青い空が澄み渡っていた。
お読みいただきありがとうございます。
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。




