131◆ドラゴンスレイヤー◆
俺達は2チームに別れて動いた。まず毒チームだ。先遣隊の騎士と兵士、冒険者モービィと父親のラバル、地元の冒険者を中心として、付近から取れるあらゆる毒を、植物、魔物問わずに集めまくった。それを慎重に全て混ぜ、樽に封印する。その毒樽を、年老いた数頭の馬に背負わせて街道脇に何ヵ所か放置する。普通のモンスターに襲われる可能性もあるので、少し離れたところから見張り役が観測する。
結論から言うと、この毒の試みは失敗した。年老いた馬が悲しそうに鳴くだけで、ドラゴンは来なかったからだ。
もう1つのチームは俺とレイレが仕切る、凧チームだ。同じような凧を再び作成しつつ、大きな岩が点在する東の草原を確認する。その上で、太腿くらいの太さの丸太を地面に深く穴を掘って立てていく。もちろん尖った方が上だ。長さは、岩を越えない程度に短くし、さらに丸太を周囲の色、岩の灰色と草の緑に塗っていく。
俺が思うに、ドラゴンは恐ろしく目がいい。猛禽類は3キロ先のうさぎを見つけることができると前世で聞いたことがあるが、少なくともそれと同じか以上には見えているのだと思う。ドラゴンはどこかは分からないが山の中に巣があって、そこから周囲を見ている。おそらく年老いた馬は、美味しくなさそうと判断したか、何かしらの違和感をおぼえたのだろう。だが、俺の凧は無視できない。先日の怒りっぷりから察するに、大きな赤い飛行物という時点で、強烈に本能を刺激され、怒り狂って襲ってきた。そこにつけ入る隙があると思う。
10日後、俺達凧チームの準備が整った。
◇
先日と同じ要領で凧を揚げる。凧の真下、点在する大岩の陰に、俺とレイレが隠れている。レイレは参加させたくなかったが、そう伝えたら思いきりビンタされて、もの凄く怒られた。そのときの言葉は「死ぬなら一緒です」だった。いい女すぎて、少し涙が出た。ビンタのせいではない。死ぬ気はもちろんなかったが、これでますます死ねなくなった。
ギャォォォオオオオォォォォンッーーーーー!!!
鼓膜だけでなく心臓までも震わせるドラゴンの怒りの咆哮が響いてくる。見上げると先日と同じく、凧のはるか上空を旋回するドラゴンが見えた。
岩の陰に更に隠れた俺は、ドラゴンは翼をたたみ急降下を始めたのを見て安心した。ドラゴンは創作物によって、単なるモンスターと描かれるものもあれば、知恵と理性がある存在として描かれる場合もある。今回のドラゴンが後者だった場合、2度と罠にはかからずに打つ手が無くなっていた可能性もある。だからドラゴンが同じ行動をとってくれたのが嬉しかった。
ズドォォォンンンッ!!!!
幾つもの雷が同時に落ちたかのような轟音と共に大地が揺れ、土や岩、赤い凧の残骸が周囲に飛散した。
ぐぎゃあぁぁぁああぅううう…
それらが収まると薄くなった土煙の向こうからドラゴンの苦痛を伴ったうめき声が聞こえてきた。岩の上に立ち上がった俺達の目に入ったのは、片翼の骨は折れてぶら下がり、両方の翼膜に幾つもの穴をあけ、前脚の付け根と後脚に突き刺さった杭からワイン色の血を大量に流しているドラゴンの姿だった。
「おぉ…」
「まだだ!気を抜くな!」
岩場の向こうで様子をうかがっていた誰かが声を上げて喜びかけるが、俺は声を上げて制した。ドラゴンは周囲の岩に立つ俺や、向こうにいる人間をぐるりと見回すと、憎しみと怒りを込めて吠えた。このドラゴンは、この瞬間、自分が今のような状況になっているのは俺達のせいだと理解したのだろう。折れた翼を、尻尾を振り回して暴れ始めた。2本の脚を怪我しているにもかかわらず、誰かの影が見えたら、そちらに行こうとする。尻尾が振り回され、ドォンドォンと岩が打ち付けられる。
「リュード、このまま退却しますかっ!?」
「ちょっとまずい気がするっ!」
手負いの獣はやっかいだ。傷を負って興奮状態に陥ると、死んで体動かなくなるまで必死に抵抗する。とくに魔物は生命力が強いので、そこから死ぬまでに相当時間がかかる。今この状態で俺達が退却したとして、このドラゴンはどうするだろうか。人間を敵だと見定めたドラゴンは、下手をすると町にまでくる可能性もある。
「レイレ、やりたくなかったけど、あれを試してみるしかない!」
「わかりました!最後まで!共にっ!」
俺とレイレは岩陰を移動して位置取りをすると、岩の上に登ってドラゴンと対峙した。本当にこの手は使いたくなかった。けれどもやるしかない。
「フィアーウォーター!!トリプル!!」
その巨体にどこまで効くかわからなかったので、いつもより多めに出した薄闇色の水を、ドラゴンの胸元にパシャリとかける。一瞬動きを止めたドラゴンは俺に首を向けると、ギャウウと吠えて突進してきた。
「っぶな!!」
ガギギギ!!
聞いたこともないような音を立てて、俺のいた岩に4本の爪痕が刻み付けられる。咄嗟に岩から飛び降りたが、避け損ねていたら、俺はドラゴンの前脚で何分割かにされていただろう。
フィアーウォーターの効果は、俺に対して生理的嫌悪感を起こさせるもので、MMORPG風に言うならヘイトを集中させるものだ。今ドラゴンは、自分に怪我をさせた人間の中で、憎々し気に目立つを俺を完璧にターゲッッティングしている状態だ。
「くそ、グリフォンと言い!オーガと言い、この魔法ばっかりじゃないか!」
「右ななめの岩!とびこんで!」
ドォンと音がして、尻尾が真上から俺のいた位置に落とされる。
「真っすぐ、2つ目の岩まで移動!岩の上に!」
暴れるドラゴンを中心に円を描くように、俺はレイレの指示に従って移動する。ドラゴンは俺を見失っては探し、見つけ、攻撃を仕掛けてくる。完全に見失わせてはいけない。ほどよく出現して、攻撃させて、避けて、潜って、また出現する。いもぐら叩きならぬ、リュード叩きだ。ただし残機は1だ。
「止まって!」
移動中の俺が、すかさず急制動をかけて止まった瞬間に、目の前に折れたドラゴンの翼が降ってくる。それをやり過ごして再び走る。レイレは戦闘の天才で、その戦い方は第6感ともいえるほどの勘で敵の動きを読んで行うものだ。今回は、後方からその勘を俺のために駆使してもらっている。正直うまく行くかどうかもわからなかったし、本人もそこまで自信はないと言っていた。
「リュード、準備っ!」
俺は走りながら、どこでも火がつけられる『ポケットファイア』と迷宮鉱石のかけらをポケットから取り出す。岩陰で呼吸を整えながら、迷宮鉱石を『ポケットファイア』の指を触れて炎を出すスイッチの部分に、接触させたまま布で固く縛る。迷宮鉱石は魔石に対して、人間が手に触れているのと同じ状態を作り出すため、『ポケットファイア』の先からは小さな火が出ている状態だ。おまけにこの火はガスでついているわけではないので俺が激しく動いても消えない。俺は常に、魔石や迷宮鉱石なんかの最低限のセットは持っているのだが、今回はそれに助けられた。
「左後ろの岩に登って!たぶん、くる!!」
俺は『ポケットファイア』を握りしめながら、岩によじ登った。目の前に、ドラゴンの頭があった。怒りに濁った眼を俺に向けている。
前世でドラゴンを狩るゲームが好きだった。特に好きだったあるゲームは、モンスターの生態や攻撃の仕組みなどを、いかにも現実にいそうな雰囲気でまとめていたものだった。その中で、可燃性の粉塵を周囲にまき散らし、牙を打ち鳴らして発火するという龍がいた。
幸いだったのは、前回ドラゴンの火炎ブレスを見れたことだった。ドラゴンは最初に息を大きく吸い込み、その後吐き出すのと同時に牙を打ち鳴らし火炎を吐いた。その火炎は、リトルサラマンダーのような燃える痰の様なものでもなければ、可燃性燃料の混じった火炎放射器のようなものでもなかった。それはガスだった。ドラゴンは空気を吸い込み、体内の可燃ガスと混ぜて吐き出すと同時に牙で発火させていた。
だから、俺はドラゴンの火炎ブレス攻撃を待っていた。俺のすぐ目の前で、ドラゴンを口を開いた。ヒュウウウウと息を大きく吸い込み始めており、俺自身も引きずり込まれそうになる。
現実感のないその口の中に、俺は思いきり『ポケットファイア』を投げ込んだ。吸引される空気とともに火のついたままの『ポケットファイア』は喉の奥へと消えていく。
「ぶっとべ!この野郎!!」
「リュードッ!!!上の!!!鼻を掴んで!」
レイレの声に、反射的に手を上に伸ばして、ごつごつしたドラゴンの鼻を掴む。感触はゴツゴツした岩だ。掴んだ瞬間、ドラゴンの頭が上がり俺の体も空中へと浮き上げられる。慌てた俺が空中で態勢を捻って、とにかく掴めそうなところにしがみついた瞬間、視界の全てがオレンジ色に染まった。
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※別サイト(カクヨム)になりますが、新作始め、完結いたしました。
自信作です。10万字くらいなので、わりとサクッと読めると思います。
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