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130◆ドラゴン釣り◆




「リュード、これは何ですか?」


 レイレが、俺達の目の前の地面に広がった大きな三角形を指さす。先遣隊のメンバーや子爵、その部下の騎士や兵士も皆同じように首をひねっている。


「これは、凧だ!」


「凧…?何をするものですか?」


「これは空を飛ばすことができるんだ」


 俺が作ったのは、カイトと呼ばれる洋凧だ。三角形のシャープな形をしていて、日本でも1970年代にアメリカからゲイラカイトという商品名のカイトが輸入されて大流行した。この形のカイトは非常によく飛ぶため人気になり、その後は定番となった。今でも正月近くになると、おもちゃ屋などで売られている。モービィとの会話の中で、目のつけどころ、飛ぶと言うワードから、これが頭の中に閃いた。おまけにカイトは、なんとなく空を飛ぶドラゴンぽくも見える。


「ここで飛ばすと大変だから、町から離れて実験しよう。うまく飛ぶといいのだけど。子爵、このあたりで、丘とかになっていて、強めの風がふくところありますか?」


 俺達は、町から充分に離れた丘の上に移動した。ちょうど遠くに見える山からであろう、そこそこ強めの風が吹いている。数名に凧の下部分を持ってもらい、徐々に凧を立てていく。すると、グォッと一段強い風が吹き、凧が一気に飛び上がった。俺を含めた子爵の所の騎士や兵隊、冒険者、総勢30名は慌てて綱を引く。前世で大凧を揚げた経験はないが、15メートル四方の大凧を100人ほどで揚げると聞いたことがある。今回俺が作った凧は横は8メートル、縦が5メートルほどのその半分にも満たないサイズなのに、引っ張られる力は30名でも足りないくらいだ。


「リュード、ここからどうするのですか!?」


「しばらく上げ続けて様子をみようか!」


 それから30分ほど経った頃だった。何か空気が震えているような気がして俺が空を見上げると、山の方角から赤い点がどんどん大きくなって近づいてくる。


「来たっ!!」


 凧の綱は、最悪飛ばされないようにと、近くの大木に結んである。木は葉っぱをまき散らしながらギシギシと唸りを上げているが、それでも抜けもせずにがんばってくれていた。兵士や冒険者達は、わらわらと四方八方に散っていく。赤い点は、俺達の遥か上、凧よりもさらに上空で2~3度旋回したかと思うと、急降下してきた。翼をたたんで落ちてくる赤いドラゴンの姿が赤い巨大な砲弾に見えた。



ギャァァァアアアアアアオオォォォン!!



 子爵邸の赤いカーテンで作られた凧は、空中での激突で骨がへし折れ、布部分も切り裂かれて、ドラゴンと一緒に地面に激突した。激しい振動が俺達を襲い、巻き上げられた土や草が周囲に散らばる。


 頭を上げた俺の少し前にいたのは、あれだけの高さから地面に激突したにも関わらず怪我1つ負っていない赤く巨大なドラゴンだった。胴体だけで2階建ての一軒家くらいの大きさがある。翼や首がついているので、体感で行くなら小さいビル1つ分くらいの大きさだ。


 あかん、こんなの無理や。なぜか関西弁が俺の頭の中に流れる。前世でモンスターを狩るゲームがあった。会社の会議室で、深夜にプロジェクターを使って大音量で遊び、なかなかの大迫力だー!なんて興奮したことがあるが、そんなレベルではない。


 歯がガタガタと鳴る。恐怖だ。根源的な、体の奥から震えがくる恐怖。人間がどうこうできるレベルではない。200年前の北の騎士とか、よくこんなのに突っ込んでいけたと思う。


 ドラゴンは、自分の体の下にある砕け散った木材とそれに絡まりついた赤い布となった凧を見て少し首をかしげると、10秒ほど口を開けて息を大きく吸い込んだ。さらに口を開けて、ガチガチと牙を打ち鳴らすと炎を吐き出した。炎は火炎放射器のように自身の体の下の地面を放射状になめていく。あまりの激しさに、離れたところにいる俺達にも火傷しそうなほどの熱が届く。ドラゴンは翼を大きく広げると、炭と化したカイトのくずを巻き上げながら空に飛び立ち、一鳴きして空へと消えていった。





 俺達は子爵の屋敷に戻り、その日は誰もがすぐに早々ベッドに入った。俺はレイレに抱き着いて寝たし、レイレも俺に抱き着いて寝た。お互い震えていた。ただただ、あの生き物が恐ろしかった。ラノベやファンタジーでドラゴン倒すとかよくある展開だけど、絶対に無理だと思う。


 翌朝になり、目が覚めると震えは収まっていた。抱き着ける相手がいて良かったと心から思う。空腹に気づき朝食を食べる。食べながら人間すごいな、あれから1日も経ってないけど、お腹減るんだって思ったら自然と笑えてきた。なぜ笑うのかとレイレに聞かれたので答えたらレイレも笑った。ウィンナーみたいな加工肉の塩が効きすぎていて、いつもならお茶で流し込むように食べるのだろうが、今日はやけに新鮮に美味しく思えた。


「……それで、どうしましょうか?」


「うん、このままだと西辺境伯達はあれと戦わなきゃいけなくなる。当然、多くの犠牲が出るだろうし、西辺境伯だってどうなるかわからない。それは俺は嫌だ」


「そうですね。私も嫌です」


「だから知恵を絞ってどうにかしよう」


 俺とレイレは子爵邸の食堂で案出しをすることにした。


「あの高さから地面に激突して平気だったんだ、剣も槍も通らないと思う。うちの最大火力のミュカも今はいないし。というか本当に別行動なのが悔しいけど、しょうがない」


「リュードの魔法は?」


「俺のストーンアロウ、最大まで威力を溜めてグリフォンは撃ち抜けたけど、あれには通じなさそうな気がするなぁ」


「そもそも200年前はどうやったのでしょう?」


「追い払ったのは北辺境伯のご先祖だろうから、そっちに聞いてみないとだけど、馬に乗っての槍の突貫しかないんじゃないかな?」


「でも相手は飛ぶし、火を吐きますよね」


「うん、だから3分の1も犠牲が出たんだと思う。怪我を負わせて追い払ったていうけど、馬のスピードを乗せた槍でも、早々大きな傷なんて与えられてないと思うんだよね。ドラゴン的には、小さいのがたくさんチクチクくるから、嫌がって逃げたとかじゃないかな」


「子爵に聞いて、魔法を使える兵士や騎士をあたってみるのはどうですかな?」



「我が領の兵士達には、魔法を使える人間が少ない。火属性の『たくさん』が1人、土属性の『ある』が2人、風属性の『たくさん』が1人だけだ。」


 気が付くと、いつの間にか先遣隊のチームが合流し、俺達の話し合いに参加していた。子爵も混じっている。誰もが1晩寝て、気力を取り戻してきたようだ。


「というか、あれ魔法聞きそうでした?」


「むりでしょうな。」


「リュードさん、魔物の毒とか集めて、なんとか打ち込んだりはできないでしょうか?」


「強い魔物ほど毒は効きづらいし、何が効くのかもわからんな」


 手を上げたモービィに、父親が答える。


「毒か…でも1案だよね。弱らせることができるかもしれないし。何が効くのかわかんないなら、あらゆる毒のミックスとかしたの作ってもいいよね」


「あの頑丈で固そうな体に、どう打ち込みましょう。量も必要でしょうし」


「馬とかに背負わせておいたら?咥えないだろうか?」


「毒の臭いとかかぎ分けそうだけど…でも、毒の樽を作って馬にくくりつけておくで1案としておこうか。」


「その場合、リュードの凧は使えませんね。あれ、絶対なわばりを荒らしにきたドラゴンだと思って襲ってましたよね」


「あの敵意というか、怒りの雰囲気はやばかった。」


「例えば、またあの凧で呼んで、凧と共に落ちる所に杭を何本も立てておくとか。」


「かなり範囲が絞られてしまうかな。でも、その方向も悪くないかも。子爵、このあたりに大きな岩がゴロゴロしてるような場所はありますが?」


「あるな。東の草原だ」


「じゃあ、もし次呼ぶとしたら、そこにしよう。で、その岩の間に杭も立てておこう」


「戦うなら、火炎対策とかも必要だろうか?」


「人間の力じゃ傷もつけられないだろうし、昨日の様子を見ても人間を相手にしていないから、戦うという考えは捨て去ろう。罠とか使って、仕留めることを前提にして、それが通じなかったら別の手段を考えて…って感じで」


 皆が目をぎらつかせながら頷く。昨日は、存在のあまりの巨大さに打ちのめされた。正直、心の奥にはまだ恐怖が残っているが、負けるわけには行かない。試せることはまだある。俺達は、それぞれの作業に取り掛かった。




お読みいただきありがとうございます。

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

☆評価、ブックマーク、感想いただけましたら嬉しいです。


※別サイト(カクヨム)になりますが、新作始め、完結いたしました。

自信作です。10万字くらいなので、わりとサクッと読めると思います。

お時間ある時にでもお試しくださいませ。


何があっても平気な拳法くんも、美少女白ギャルにはかなわない♡ (完結)

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どうぞよろしくお願いいたします。

今日の/明日の、あなたに、ちょっといいことがありますように。

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