125◆異世界ボードゲーム『アムリリア・ドリームライフ!』◆
2辺境伯の武器を作りながらも、俺は他の依頼も受けていた。それがエルソン男爵からのものだ。リリースから4年が経ち『マギクロニクル』もさすがに売上は落ちてきた。むしろ4年もよくもったと思う。ヒットが長く続いた理由は、『マギクロニクル』の起ち上げから苦楽を共にしたチームのおかげだ。時折顔を出して指示はしたが、システム開発、文芸、イラストデザイン、生産などの各チームが本当にがんばったからこそ4年も続いたのだ。
エルソン男爵から、「『マギクロニクル』に代わるもの…、は早々作れるものではないと思っているが、何か新しいものを作りたい」と依頼があったのだ。
俺は何ができるか、何が作れるかを考えた。『マギクロニクル』に代わるものとして新しいTCG、トレーディングカードゲームを作ることは可能だ。『マギクロニクル』で慣れた人間であれば、もう少しルールを複雑化しても大丈夫だろうし、より戦略性の高いものにできると思う。でも、それをやりたくはなかった。そうやって新しく作ったとしてもワクワクを感じないのだ。『マギクロニクル』でおそらくTCGの熱を出し尽くしたのだと思う。
そこで俺が目を付けたのはボードゲームだ。この世界でもチェスのような遊戯や、貴族の子供が遊ぶような簡単なすごろくがある。前世において、誰もが知っている有名なボードゲームを上げよと問われれば、日本限定かもしれないが『人生』と名前が付くゲームが上げられるだろう。
とはいえ、この世界であのゲームをそのまま出しても意味不明すぎる。なので、俺はこの世界なりのアレンジを加えた人生的なゲームを作ることにした。
◇
「では5歳の誕生日を迎えましたので、サイコロを…えい!」
レイレが真剣な様子でサイコロを振る。出た目を確認して、顔をほころばせる。
「やった!私は水属性の『たくさん』です!」
「おぉーレイレすごい!じゃあ、このカード中から1枚見ないで選んで。」
「えいっ!あ、貴族に召し抱えられるになりました!」
「ぐぬぬ、レイレの人生の始まりっぷりが妬ましい!あたしは魔法の才能なしなのに」
「いや、ミュカ、魔法の才能はなかったけど、まだまだこれからだから。はいサイコロ振って」
「えい!3!…えっと、剣の才能を磨いた」
「お、いいじゃない、それだったら兵士か冒険者の道にもいけると思うよ」
「では次は私ですね。私も魔法の才能はないので、こっちのルートですね。ほっ!4…なになに?計算が得意になった」
「お、ハイマンもいいね、商人ルートが濃厚だね!」
◇
「私の順番ね。…2。詐欺に騙されて所持金の半分を失う…ちょっとどういうこと!?私そんなにまぬけじゃないわよ!」
「いや、クロナ、ゲームだからおさえて」
「私は、5が出ました。む、グリフォンと戦う!?いや、勝てなくないですか!?私はパン屋ですよ!?」
「大丈夫、サイコロ2つ振って、合計2が出たら勝てるよ!どうやってかは知らないけど、パン屋の不思議パワーかなんかで!4以下なら逃げられるから。」
「いやいやいや…ふん!10!駄目じゃないですかっ!!!!」
◇
「人生最後の勝負ルートですね。水の魔法使いで貴族に召し抱えられた私の人生ですが、やはり私は挑みます!えい!3。」
「何が出た?」
「…通りで転んで頭を打ち、魔法の使い方を忘れた…。毎年の収入がなくなる…。どうしてですか!」
「いやレイレ、そんな声上げないで。ゲームだから」
「アハハ、順風満帆だったレイレの人生もようやく影が差したわね。もちろん私も勝負ルートに挑むわよ!…6!えっと……」
「クロナ…?」
「なんで、ここで私も所持金を失うのよ!家が焼けましたってひどくない!?」
「やはり、ここはパン屋として堅実な?人生を歩んできた私が勝つのです。私は勝負ルートには行きませんよ。ほい…3。あなたが商売人なら、あなたの商品が王族に認められ300万リム儲かる!きましたよ!私の堅実人生がやっぱり最後に勝つのです!」
「あたしは冒険者だし、当然人生勝負ルート!5!えぇ!!ドラゴンでてきたよ!」
「ミュカがんばって、サイコロ2つ振って、12が出たら討伐成功、さらに剣の才能磨いたから、11でもOKだよ!」
「いや…むりでしょ!…えいっ!」
「「「…11!」」」
「いやったぁーーっ!ドラゴン討伐成功!2000万リムゲット!人生大逆転!」
「すっごーーーいっ!」
「ま、まだ勝負はついてないわよっ!」
◇
『スタープレイヤーズ』内でテストプレイをしたところ、非常に盛り上がった。俺の作った、この世界風にアレンジした人生的なボードゲームをとても好評だった。識字率もあって、遊ぶのは主に貴族になるのだが貴族が主人公ではない。主人公を貴族にしてしまうと、何というかつまらないからだ。貴族は貴族になっちゃうし。次男以降はそうでない場合も多いけど、それでもある程度優遇されている。平民の方が人生丸ごと懸けたアップダウンイベントを用意できて楽しい。
スタートして少ししてからの、魔法の才能があるかどうかのサイコロからルートがうっすらと分岐していき、途中で獲得できるスキルによって、職につきやすくなったり、有利になったりするイベントがある。でも場合によってはパン屋でグリフォンと戦うという、意味不明な事態になったりと、我ながらおもしろいものに仕上がった。
テストプレイも何回もして、うまくまとまりそうだったので、俺は試作を『マギクロニクル』の開発チームに預けた。あとは彼らにまかせれば良い商品が完成すると思う。貴族用として、数種類いる魔物を立体物にして、コマも職業ごとのシンボルを用意すれば、見栄えもかなりよくなるだろう。俺はドラゴンを前にしたパンのコマを想像して、笑いをこらえることができなかった。
200日ほど後、このゲームはエルソン男爵からの新商品として『アムリリア・ドリームライフ!』という名前で発売され、あっという間に売り切れて、即増産が決まった。発売されて少しして、貴族の子どもが平民の暮らしを学ぶために使われると風の噂できいた俺は、慌ててエルソン男爵に『嘘、大げさ、まぎらわしい、がたくさん入っていて、平民の暮らしの勉強には全くならないから、そういう説明をいれて販売してほしい。そもそもパン屋ではグリフォンに勝てない!』とお手紙を送ったというオチがつく。
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