124◆西の槍と北の盾◆
「ふんっ!はっ!」
その日、俺と『スタープレイヤーズ』の皆は王宮の一室で、大きなクマさんが舞うのを見ていた。クマさんの名前はイワン・バルクライ北辺境伯と言う。くせ毛を無理やり撫でつけたグレーの髪が動くたびに跳ね、愛嬌のある丸い目がキラキラと光っている。
その北辺境伯の大きな左右の腕には、それを上回るサイズの盾が装備されていた。盾と言っても、その形状は、五角形を真ん中で半分にした形で、その形状だけを見ると何か新しい武器のようにも見える。
右腕の盾は赤く光り、左腕の盾は青く光っている。振り回される二つの上では赤と青の光の軌跡を描き、白基調の北辺境伯の服装と相まって、幻想的に見えた。
「うぉおおおおーーーっ!!合体!!!」
北辺境伯が、ボクシングのガードのように左右の腕を合わせると、当然その腕に付けた左右の盾も合わさる。2枚の盾は合体し、やや細長のカイトシールドという五角形の盾になった。シュインシュインシュインと、闘気でも上がっていそうな音が鳴るのと同時に、左右の赤と青の光が消えて、中央に紫の光でバルクライ北辺境伯家の紋章が浮かび上がる。
北辺境伯の紋章は、雪の結晶の幾何学模様の中央に、剣が交差する非常にかっこいいものだ。それが紫色に光るさまは痺れるくらい、素晴らしかった。
「どうだ!」
胸を張る北辺境伯に、俺達はおしみない拍手を送る。西辺境伯は満面の笑みで、国王や東辺境伯は少しむくれた様子を見せながら同じく拍手を送っている。
◇
しばらくして槍を持って登場したのはエリザリス西辺境伯だ。軍服のような服装の宝塚女優のような西辺境伯が持つ槍は、ポールアックスと呼ばれる、長い柄の先の片方に幅広の斧がついた武器だ。
柄の中央部分に黄色く光るラインが走り、斧の胴体と刃の部分は赤く光っている。西辺境伯が、それを振り回すたびに、フィーンフイーンと鷹などの猛禽類が鳴くような音がする。
「せぇいっ!」
鋭い掛け声とともに、1回転したポールアックスは、西辺境伯の体の前でビシリと止まる。と同時にポールアックスの斧部分の形状がガシャシャッと音を立てて変わる。その形状は幅広片刃の斧から反対側にも刃が出て、先端からは刺突用のスパイク部分も飛び出している。赤かった斧の刃の部分は、白く光り輝いている。
ポーズを決めた西辺境伯は満足して、槍を立てて石突きの部分を地面にガンとあてる。ガシャガシャガシャと音が鳴り、展開していた部分が逆再生のように戻っていき元の戦斧形態に戻る
。
「フフフ…アハハハハ!最高だ!」
高笑いを上げる西辺境伯に、これもまたおしみない拍手を送る。国王や東辺境伯のむくれ顔が濃くなったが、とりあえず無視をする。
◇
おもちゃにおいて変形・合体という要素は、特に男児玩具では絶対に外せない要素だ。いわゆる戦隊物と言われる特撮ヒーロー番組では複数体のメカが変形・合体し、巨大ロボになる。それを見た未就学児は、かっこいい!欲しい!となって、クリスマスや誕生日に買ってもらい、自分の手で変形・合体させるのだ。
前世で俺が変形フィギュアの開発をしていたころ、海外工場のエンジニアがため息交じりに、日本人は幼い頃から変形合体の英才教育を受けているなんて言っていた。そのくらい、変形合体は小さい頃よりなじんでいるのだ。
ところが…、それを商品化しようとすると、これがなかなか苦労をする。まず対象年齢だ。遊ぶ子供が未就学児だと、安全性はしっかりと確保されなければならない。尖っていないとか、折れない…とかだけではない。放り投げても全く問題ない、振り回して強い力で他のものに当たっても壊れない、そして当たった先が人間でも怪我をさせない…など、かなり頑丈に、そして気を配って作らなければならない。頑丈だから固く作ればいいというものではなく、武器の刃や切っ先に当たる部分は軟質素材を使うなど、いろいろと考える部分も多いのだ。
そこに変形とか合体が加わる。当然パーツ数は多くなり、その多くなったパーツそれぞれに対して、前述の安全性を求められる。さらには、合体しても容易に外れてはいけない、でも子供の力できちんと取り外しが出来なければいけない…こういう矛盾をはらんだ部分も解決しなくてはならない。
対象年齢が大人になれば、かっこよさ、ディテール重視になるので少しくらい尖っててもいいし、繊細な部分が残ったままでも良いとされるが、その分細部まで拘って作らないと、マニアのOKは得られない。
今回の北、西辺境伯の武器は苦労した。開発を受けてから納品まで60日以上もかかってしまった。そのほとんどは、変形・合体の試作のためだ。いい大人、いや人よりも力のある武人が、容赦なく振り回す前提だ。国王の剣や東辺境伯の大剣でももちろんその辺りは気を使ったが、それに変形・合体が加わると洒落にならなかった。この2つの武器のために作った機構試作だけで15個は越えている。そんな大変な思いをしてようやく出来上がったのだ。
盾の方は、左右の盾の接地面が浅い凸凹になっていて、これをガシンと押し当てると内部のかんぬき状のパーツがお互いを引っ掛けあう形で固定する。解除するときは盾の裏から伸びた解除ピンを、手首を曲げて押す。多少ずれてもガシンと合わさるように、凸凹を浅い山形にしたり、合体と光るタイミングのずれをスイッチの場所で調整したりなどで苦労した。
槍の方はさらに厄介だった。変形とか最初にいったやつを何度ぶん殴りたいと思ったことか。柄の中ほどにリリーススイッチがあり、そこを押しながら振ると遠心力で変形するようにしたのだが、この遠心力の制御が難しかった。遠心力と止めた時の衝撃力が強すぎて、何回か試したら破損する、武器を振り回す角度が少しずれたら変形しない、柄がしなってリリーススイッチが効かない、変形したはいいが戻らない…問題が山積みで俺は何度もくじけそうになり、開発担当者のレイレとミュカと愚痴を言い合った。もっとも、愚痴の方向性は、俺→西辺境伯、レイレとミュカ→俺という方向だった。
その労力に見合うだけの良いものが出来上がったと思う。2つの武器を見て、機嫌の悪くなった国王と東辺境伯は徹底的に放っておいた。下手に声を掛けるとうるさいからだ。そうしたら2人とも自分の武器を出してきて、振り回し始めた。俺達の目の前にいるのは、国王でも3辺境伯でもなく、ただの大きな子ども達だった。
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