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119◆披露宴その2◆



 披露宴は続く。俺とレイレは来賓客に挨拶をしていく。1番初めは1番偉い人、国王陛下だ。浅黒い漁師の元締めのおっさんにしか見えない国王陛下が、煌びやかな装飾が入りまくった礼服を着ている様子は、気のいい派手な成金おやじみたいだ。


 ちなみに結婚式に関しては、せっかく俺を男爵にしたのに、国王陛下が下位貴族の結婚式に顔を出すのはよろしくないとどうしても宰相がOKを出さなかったそうで、正式には招待もできなかった。仮面をつけて参加してくれたのだが、それはたまたまお忍びで近くを通りがかった国王が、下々の貴族の様子を知るために、正体を隠して参加したということだそうだ。


「おう、リュード、冒険者姫、2人ともなかなか似合ってるな。その光る衣装は、西辺境伯の娘の結婚式で話題になったやつだな。ふーん…いいな!…だが、ちょっと光が足りないな。俺はこう、もっとビカビカに光るやつが好みだ」


 派手好きな国王らしいコメントに思わず笑いつつ俺とレイレは声を合わせて、お礼を返す。


「そういや、お前、東に住むのを決めたそうだな。やっぱりあれか、冒険者姫が東だからか?」


「それもありますが、王都は私には少し退屈です。魔物もほとんどいませんし、温泉もないので……」


「ほとんどの人間は、魔物がいない安全な王都に住みたがるんだがな。それと温泉か……」


 国王の目がぎょろりと強く光って東辺境伯を見て、そして俺を見た。


「リュード、祝いの席だ、今は勘弁してやる。明日王宮に来い。いろいろと言いたいことがある」


「……?はい。了解いたしました」


 急に機嫌の悪くなった国王と別れて、次は東辺境伯だ。


「改めてリュード、レイレ、おめでとう。私は、本当に心から嬉しく思う。ハリスも喜んでいることだろう。レイレ、今日は本当に綺麗だ」


 ハリス伯爵は亡くなったレイレの父、ユリーズ東辺境伯の弟だ。


「リュード、先に謝っておく、すまなかった」


「……何がでしょうか?」


「ちょっと火をつけすぎた。後は…まぁ、それぞれで話してくれ。ではな」


 そう言って東辺境伯は、初めに国王に、次に後ろにいた北と西の両辺境伯に目線をやり、そそくさと去っていった。入れ替わりに2人の辺境伯がやってくる。


「貴公!久しぶりだ!いや、めでたい!細君は初めてだな、北辺境伯のイワン・バルクロイだ。よろしく頼む。いや2人とも、本当にきれいだ!さすが巡遊男爵だな!本当にめでたい!」


「リュードよ、久しいのう。レイレも。そなたらの決闘を、始まりを、見届けたものとして、今日の日を心より嬉しく思うぞ。そのドレスもレイレにとても良く似合っている」


「バルクライ北辺境伯、エリザリス西辺境伯、本日は誠にありがとうございます。お二人から祝っていただけるのは嬉しいです」


「バルクライ北辺境伯初めまして。エリザリス西辺境伯もお久しぶりです。今日は本当にありがとうございます」


 相変わらずクマのようなバルクライ北辺境伯と宝塚女優のようなエリザリス西辺境伯が祝いの言葉を述べてくれる。俺とレイレはそれぞれ返事をするが、2人の辺境伯の額に、なぜか青筋が浮いている。


「貴公、明日時間はあるか?話したいことがあるのだ」


「待て!北の。話をするなら2人でだ」


「む、しょうがない。私と西のからリュード、お前に話がある」


「あ、いや、あの明日は国王陛下に話があると呼ばれてまして」


「ッチ、あの色黒め。わかった、リュード、明後日でよい。妾の屋敷に来い、いいな?追って連絡をする」


 エリザリス辺境伯の舌打ちを聞かなかったことにして、俺は「明後日お伺いします」とだけ俺は答えた。


 それから俺達は、宰相やエルソン男爵、近衛騎士団長にザルシャド準男爵、そして俺の両親や家族、パーティメンバー達と挨拶を交わしていった。





 今日の披露宴には300名近い人数が出席していた。披露宴の終わりに、俺達は改めて会談の踊り場に立ち、皆に挨拶をする。


「皆さま、高いところから誠に失礼します。本日は、レイレ・ユリーズ姫と私の結婚披露宴にご参列いただき誠にありがとうございます。またお祝いの言葉や品々の数も本当にありがとうございます!」


 俺に注目する皆に、使用人から小箱を配ってもらう。


「既にご案内させていただいた方もいらっしゃいますが、私がリーダーをしております冒険者パーティ『スタープレイヤーズ』は、同じ名前で商会を立ちあげました。本店は東の領都ユーガッズ近郊にあります」


 皆が手元の小箱が気になり、説明を早くしろと目線で急かしてくる。


「私達『スタープレイヤーズ』は、貴族のみならず平民も含めて、人々が楽になったり、そして何よりも楽しく、おもしろくなる、そんな商品を考え、作り、販売していきます。今皆さんのお手元にありますのは、私達の商品の第1弾、その先行生産品です。本日ご参列いただいた皆様に最初にお渡しさせていただきます。それでは、どうぞ箱をお開きください!」


 皆は手元に渡された10センチほどの艶の入った白い箱を開ける。まずこの箱は、スライム液を布に浸して作った『布箱』だ。蜘蛛型魔物から採れる糸から作られたシルクのような最上級の布をそのまま立体の箱にしており、光沢があり高級感にあふれている。箱の側面に『スタープレイヤーズ』のロゴを小さくおしゃれに入れている。


 箱の中には、真綿が敷かれ、その中央に商品が入っている。100円ライターサイズの真っ黒の直方体にオレンジ色の『スタープレイヤーズ』のロゴが入ったものだ。


「この商品は、名前を『ポケットファイア』と言います。簡単に言うと火の魔法が使えない人でも、火が出せる道具です。最初は危険ですので、私と一緒に触っていきましょう」


 どよどよと騒めく皆を落ち着かせるように、あえてゆったりとした口調で案内していく。


「まずは親指の腹と人差し指で持って握りこむように手に持ってください。オレンジ色の『スタープレイヤーズ』のマークがある方を上に持ちます。そしてそのマークのところを親指で下に下げます。すると、穴が見えます。あ、まだ穴には触らないでください!」


 皆の準備が整ったのを見計らって続ける。


「では、その『ポケットファイア』の先から小さな炎が出ます。周囲に注意して、穴に指をつけてください。」


 音もなく、参列者達が火をつける。演出のため会場をゆっくりと薄暗くしている。その中をライターほどの火があちこちで灯り、消えを繰り返す。踊り場から見える景色は、祭りの夜に行われる何かの行事のように思えた。


「なんとまぁ…」


「魔法使えないのに、火が出たわ!」


「これは、どういう仕組みなのだ?」


「この『ポケットファイア』、貴族の皆さまが必要とされることはあまりないかもしれません。皆さまには料理人含め近くに火魔法が使える人間がいるでしょうから。ですので、これは、どちらかというと冒険者や兵士、食堂の店主など向けた商品と言えます」


「なるほど…」


「ほう…我が領の兵士達も野営や偵察任務のおりに、こういうものがあれば、さぞやりやすかろう」


「貴族のものではないといったが、煙草を吸うときにとても使えるな」


「確かにな、この手軽さがよい」


「そえになんというか…非常に洒落ておるではないか!」


「うむ、全くだ!」


「今回は、『スタープレイヤーズ』が作る初の商品と言うことで、皆様に記念の品としてお配りさせていただきました。どうか皆さま、お屋敷を焼くことがないように取り扱いに

お気をつけください」


 笑い声が上がる。皆の顔を見ても反応は好評で滑り出しはよいようだ。


「なお、今回の『ポケットファイア』は、皆さまにだけお送りする特別カラー及び特別箱になります。今後、商品が出回っていったとしても、自慢できますので大事に保管してください。箱の中に取扱説明書も入っておりますので、後ほど御一読下さい」


 さらに一部から質問の声が上がる。


「これは、まとまった数の購入はできるのか?」


「魔石の数に限りがありますので、すぐには無理です。例えば兵士に持たせる場合、全員がもつ必要はないと思いますので、もし購入を希望される方がおりましたら、最低数を1度こちらにお伝えください。」


 頷いている貴族の数を見ると、けっこうな注文がきそうな気がする。材料となる各魔石は東辺境領内での採取を考えていたが、全国的に買い上げる仕組みを作ることも検討すべきだなと心の中のやることリストに追加しておく。


 俺は披露宴で何か引き出物、それもできれば俺達にしか作れない、記憶に残るものを渡したい…と考えていた。だがこの1年、忙しさが極まってしまったのもあって新アイテムの開発はできなかった。


 どうしようかと皆で打合せをしたところ、『スタープレイヤーズ』の最初に売る商品としてちょうどミュカとテイカーで仕様を詰めていた『ポケットファイア』の初回生産限定版ではどうかと意見が出た。確かに製品仕様は決まっているし、生産スタッフもいて出来上がったばかりの工場で生産体制も構築できている。何より俺達が出す商品の宣伝にもなるなと、すごく納得したので今回の引き出物にさせてもらった。


 楽しそうに火を点けたり消したりしている皆を見て、その選択が正解だったと俺は胸をなでおろした。



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