118◆結婚式と披露宴◆
俺とレイレの前に、ニコニコ顔の人の良さそうな小さな老人がいる。光沢の入った青ベースに、きらびやかな金の装飾がはいった祭服を来たその老人は王都エヨン教会の大司教だ。
俺達がいるのは大きなホール会場で、大司教の後ろには俺の描いたエヨン様の壁画が広がっている。後から聞いた話だが、このホールを嫡男の結婚式に使いたいという高位貴族からの要望があったが大司教が断っていたそうだ。大司教いわく、ここで結婚式を最初にあげるべきは俺とレイレであるとのことで、それが叶ったのが良かったと、とても喜んでくれていた。自分の描いた絵の前で結婚式をあげるというのも、俺としては少しむずがゆいものがあるのだが。
俺は光沢のある濃いグレーの礼服、レイレは濃い目の銀色の細めのドレスを着ている。披露宴やパーティでは、周囲に知らせる意味も含めて、パートナーは互いの髪や瞳の色を身に着けるが、結婚式はエヨン様の前で夫婦になる儀式で、2人しかいなのだからそこまで主張しなくてよい…ということらしい。
俺達の後ろには、白い長椅子が幾つも並べられ、そこには俺の家族やレイレの母親、東辺境伯一家、その他来賓として、西と北の辺境伯、エルソン男爵や俺達がお世話になった人達、そして仮面をつけた浅黒い肌の人が座っている。仮面をつけた人には触れないでおく。
「リュード・サプライザー巡遊男爵、レイレ・ユリーズ姫の結婚の儀を、これよりエヨン様の御前にて執り行う。両名、一歩前に出なさい」
小柄な大司教から、驚くくらいの大きなよく通る声が発せられる。
「「はい」」
「夫となるもの、リュード・サプライザー。汝は、レイレ・ユリーズを妻とし敬い、愛し、いついかなるときも、共に歩み、分かち合い、その命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「妻となるものレイレ・ユリーズ。汝は、リュード・サプライザーを夫とし敬い、愛し、いついかなるときも、共に歩み、分かち合い、その命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「よろしい。今日この日をもって、リュード・サプライザーとレイレ・ユリーズは夫婦となった。魔物や大いなる大地と闘い生きていく私達に、エヨン様は傷を癒し明日へと生きる活力を与えられる。貴方達は、ときにエヨン様を頼り、ときに己が隣にいる伴侶を頼って、死が2人を分かつその時まで、日々を進みなさい。2人の未来がエヨン様の輝きに満ちておりますよう。最後に、誓いのキスを」
参列者からの歓声と泣き声(マリアンヌ夫人)と拍手の中、俺とレイレはキスをして結婚式は終了した。
拍手を送ってくれる参列者の皆を見ながら、俺はこのエヨン教の誓いの言葉を好ましく感じていた。エヨン様がもたらしたと言われる癒しの力は、怪我は治せるが病気は治せない。そのため、神ではあるが万能ではないというのが前提にあり、神も頼り、でも人も頼り生きていきなさいと言っている。ならば、悔いのないように、隣にいるレイレと、参列してくれた人達や縁のある人達と一生懸命生きていこう…、俺はそう決意を新たにした。
◇
結婚式が終われば、披露宴パーティだ。通常、男爵位の人間が王都でパーティを開くことはない。王都には低位貴族が借りられるような金額の会場はないし、そもそも貴族は自分よりも上の爵位の貴族を呼ぶことはできない。男爵が王都でパーティをするとしたら、同じ男爵を呼んで自分の屋敷でホームパーティを開くくらいだ。
で、巡遊男爵という世にも奇妙な爵位をいただいた俺はどうなったかと言うと。東辺境伯の王都屋敷、つまりとても大きな会場でレイレの結婚披露宴という形で、ユリーズ東辺境伯が開催するということになった。つまり俺のではなく、俺達のでもなく、建前上は東辺境伯に連なるレイレ姫の結婚披露宴パーティだ。結婚したらレイレ・ユリーズではなく、レイレ・サプライザーなので本当はおかしいのだが、その辺は理解しろや、ということらしい。またこういう形にしないと、呼ぶ人も呼べないと言われた。
披露宴は主に貴族とその縁者、騎士職、大商人などの限られた人のみが参加し、俺に縁があるが参加できない人は、貸し切った王都の高級宿で明日以降お披露目をする予定だ。
結婚式から数時間後、王都が夕闇に染まるころ俺とレイレの披露宴が行われた。
◇
俺は、艶やかな黒の礼服を着ている。袖や開いた胸部分の左右には、白銀の刺繍が豪華に施されている。中のシャツは薄めのグレーで首元は交差させた短いネクタイ、クロスタイを着けている。クロスタイの色は濃いめのブラウンだ。
レイレは、前世でエンパイアラインと呼ばれていた胸の下からスカートが広がっているナチュラルなスタイルのドレスだ。腰から始まる普通のドレスよりも、シルエットが直線的でとても美しい。色はシャンパンゴールドと言うのか、少し白みが入った金と銀の中間くらいの色で、生地に滑らかな光沢がある。レイレの白い肌と、白銀の髪とあわせて、光り輝く女神と言っても過言ではない。
俺とレイレは連れだって、2階の控室から階下の披露宴会場へと降りていった。会場は照明が最低限に落とされて全体が薄暗くなっていた。薄明りをバックに階段中央部の踊り場に立った俺達は頷き合ってから手元に隠した小さなスイッチを押した。
「「「「「おぉ…っ!!!!!!」」」」」
俺の礼服に施された刺繍が光る。レイレの髪にあわせた白銀の刺繍は、俺の黒の礼服と背景の暗がりをバックに強すぎず、弱すぎず、絶妙な明るさで輝いた。
レイレのシャンパンゴールドのドレスにはスカートの裾から何本もの光のラインが走る。ドレス全体を照らすようなものではないが、小粒の光を生地の光沢が反射して、幻想的に見える。その中で時折ランダムに光り消えるのは、俺の瞳にあわせた青緑の瞬きだ。
「すごい…」
「レイレ…綺麗よ・・うぅ・・」
「キラキラして、でもふわっとして…レイレ、きれいだよー…」
「これは…聞いていた以上だ。すごいな…」
参列者が俺達を見て感想を口にする。西辺境伯の次女のカタリナ姫の結婚のときに光るドレスで幸せそうに笑う花嫁の姿を見てレイレも瞳を潤わせていた。だからレイレにも、光るドレスを着てもらいたかった。
この光るドレスと礼服は、クロナとレイレにも入ってもらっているが、何よりもレイレの母親マリアンヌ夫人と東辺境伯の妻のチェルノ夫人の精力的な働きが形になったものだ。両夫人には、花婿としての自覚がない、もっと何度も打合せに参加しろ、もっとサンプルを作って選ばせろ、レイレともっと話し合え、自分の考えがあるならしっかりと伝えろ…などと散々に怒られた。俺は半泣きになりながら、サンプルを何個も作ってはダメ出しをされた。
改めて横を見ると、俺を見て微笑むレイレの顔がドレスよりも輝いて見えた。それで満足だった。
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